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第二話 社員食堂、派遣社員は使えない

 

 ドンっと音を立て両親が住む実家の扉を開けたジンは、両親の驚く顔をよそに椅子へ座りテーブルに両足を乗せた。


「飯だ。パン一欠けらじゃないぞ。飯を出せ」


 いきなり家に入ってきたジンに驚く両親であったが、ジンの傍若無人な振る舞いに激怒した。


「こ、この悪魔の子が何様のつもりだ! この家に入ってよいと言わぬ限り、入ってはならぬと言ったはずだ!」


 怒鳴る父親の手は、ジンの手とは全く異なっていた。

 畑仕事などは全て息子の自分に押し付けてきた父親の手は、鍬も持ったことが無いだろうと思わせる程に綺麗で、力仕事もしない体はたるんでおり筋肉も無く、その弛んだ体はただだらしない。


「次は言わんぞ。飯だ。匂い的に今日は肉入りのシチューだろう? 俺の稼ぎで買った肉だ。俺に食わせても良いと思うが?」


 両親は一切働く事もせず、雑務を含め全て丸投げにしてきた。

 丸投げしているのに収穫が少ない時は息子にパンすら与えなかった。

 しかし収穫が少ない時でも両親は毎日豪華な食卓を囲んでいた。


「お前達は俺にばかり仕事を押し付け、人の五倍以上も働かせた挙句に飯もまともに出さない、ブラックも真っ青だ。本来なら今すぐにでも殺してもいんだぞ。最後だ、飯を出せ」


 冷たい銀の眼が両親をギロッと睨む。


「あ、あんたなんかに、食わせる飯はないよ! そんな悪魔の様な目で見ないでおくれ!」 


 母親だった物はジンにパンを投げつけた。

 だがパンを投げつけられたジンはただ笑っている。


「そうか、そうなのか。お前達でさえそうなんだな」


 あーはっはははと声を上げて笑うジンの姿に両親であった物は恐怖した。

 両親が初めて見た息子の笑い顔は狂気に満ちていたのだ。

 邪悪に笑うその姿は悪魔、いや、魔王そのものだった。


「お前達は俺を生み、一応曲がりなりにも育ててくれた。感謝はしている、が生かしておく必要はないな。魔王復活の祝いへの参加を許可しよう。小鬼ゴブリンども、この村を蹂躙せよ! 魔王様の復活だ、派手にやるといい。俺を楽しませる余興を準備できた奴はボスゴブリンに進化させてやるぞ!」


 そのジンの言葉と共に村は阿鼻叫喚の渦へと叩き込まれる。


「お、お前は一体なにを?」

「外から悲鳴が聞こえるわ! 何をしたの?」


 ジンは邪悪な笑みを浮かべながら、かつて両親であった物に慈悲深く答えた。


「余興だ。いずれ来る恐怖の前の……な。聞け、この悲鳴を。お前達を死に至らしめる恐怖が外で踊り、歌っているのだ」


 何をした! と父親もどきが扉を開けて目にした光景は、もはやこの世の物とは思えない、地獄を体現したかの様な光景だった。

 ある者は引き裂かれ、ある者は屠殺され、ある者は臓物を雑に引きずり出され、ある者は子供を庇いながら突き刺され、ある者は衣服を全て引きはがされ裸で横たわっている。

 父親だった物が見ていると横たわっている死体の女性の腹はみるみる大きくなり、腹をぶち破り中から小さな小鬼ゴブリンが飛び出した。


「な、なんだこれは……。地獄、地獄だ……」


 凄惨な光景を見た元父親は地獄と自宅を切り離すかの様に扉を閉めた。


「あいつらの繁殖力はカビより強く、繁殖行為はウサギより早い。当然の結果だろう。あー、小鬼ゴブリンにヤラレたのは、俺に毎日石を投げてきた向いの家の娘か」


 ジンは冷静に冷徹に冷酷に冷淡に答える。


「お前が! お前がやったのか? やはりお前は悪魔だ!」

「どうして……どうしてこんな事に……」


 その時、静かに扉が開きグギギギという不快な音と共に恐怖が顔を覗かせた。

 その恐怖は緑色の肌色をしており、右手にはこん棒が握られている。


「たすけ――」


 言葉を発し終わるより早く、緑色の恐怖は父親だった物の首に食らいつき、その肉体は血を吹き出す肉塊へと姿を変えた。


「アキオ……アキオ! ごめんね! 母さんが悪かったね? ごめんね、本当にごめんね。ゆるじて、ゆるじでぐだざい」


 泣きじゃくる元母親の言葉を無視して、ジンは小鬼ゴブリンへ指示を出す。


「飯だ。食らえ」


 母親だった物が小鬼ゴブリンに食べられている横で、ジンは転生して初めての肉入りのシチューを食べた。


「ウサギの肉か。まぁ悪くはないな」


 モシャモシャグチュグチャ


「俺はシチューには鶏肉でも良い派だがな」


 グチュグチュグチャグチャ


「しかしジャガイモとかニンジンとかは異世界では入れないのだろうか?」


 グチュグチュビチャビチャ


「まぁ初めてのシチューにしては美味だったぞ、ほらお前達が大好きな金貨だ」


 キンっと音を立ててジンの指から離れた金貨は、ビチャっと音と共に骨だけになった母親の躯に落ちた。


 ジンが扉に目をやると不可思議な顔をしているエポナが見えた。


「ジン様、天狼族から二体精鋭を借り受けてきたわ。しかしこの村の有様は一体?」


 立ち上がったジンはエポナの頭を優しく撫でた。


「この俺に無礼を働いた報いと、ジン・シュタイン・ベルフの復活として、この村の命を頂いた。それだけだ」


 エポナは片膝をつきこうべを垂れる。


「ジン様の糧となれる褒美を貰った人間達は感謝すべきだわ。さすがはジン様! 今すぐに、ジン様の子を授けてもらいたくなるぐらい、ジン様は慈愛に満ち溢れているわ!」

「そうか、俺は感謝される事をしたのか。ぬるかったのか? いや、いい。エポナ、反乱軍はどこへ幽閉されている?」

「どうやら魔界の大森林の集落に囚われているらしいわ」


 魔界の大森林の集落を治める森妖精族エルフの長は完全中立を主張していたが、力で三大貴族に抑えられ協力させられているとの事だ。

 集落で暮らす魔族は多種多様な特異能力スキルと魔法を持つ。

 魔王を欠いた乏しい戦力では大森林の集落の魔族たちを従わせるのは必然だった。


 ジンとエポナは天狼族の精鋭に跨り、魔界の最南端にある大森林へと向かった。


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