第六話 工場内で見かける虫は、室内に比べて恐くない
「ありえへん! あの連打からどない脱出したんや!」
驚く邪帝の言葉に不思議そうに答えるジン。
「脱出? そもそも一撃も俺に当たってなどいないが?」
ジンの当たっていない発言に動揺する邪帝。
「いや、当たってたやん! 思いっきりアゴにヒットした感触があるし、それに連打もフィニッシュも絶対に当たっとったわ! 嘘つくのもたいがいにせぇよ!」
「ただ早く動いてみただけって言っただろ? まぁ、初めてこんなスピードをだしてみたがな。ああ、そうか、昆虫だから耳が無くて聞こえないんだな?」
邪帝はありえるはずがない想像に行き着く。
「残像が質量を持っていたとでも言うんか? ええやん、ええやんか! あんさんはほんまにおもろいわ!」
邪帝はパチパチパチと拍手する。
「おもろいの見せてくれたお礼に、ワイのとっておき見せたるわ! 御方以外には止められへん力をな! せいぜい楽しんでや! 超級特異能力! 蠱毒空間!」
邪帝の体から無数の魔虫が剥がれ落ち、魔虫たちが共食いを始める。
共食いに生き残ったムカデの様な魔虫が、邪帝の体を貪るとジンが今まで見た事の無い、巨大な昆虫の兵士の様な姿へと変化した。
昆虫の兵士の右腕にはムカデの様な魔虫がうごめき、左手はクワガタのハサミの様になっている。
頭部はクモを思わせる形をしており、全身が昆虫の様に固い殻で覆われている。
「昆虫博物館みたいな奴だな。虫は嫌いなんだがな、まぁクモならGよりましか」
前の世界の工場のクリーンルーム内で働いていた時、防塵服に着替えてエアシャワーを浴びている時に、頭からGが落ちてきてパニックになった事を思い出したジン。
エアシャワー内は密室であり、一定量のエアーが噴出されるまで扉は自動でロックされる。
扉が閉まった密室でGと遭遇する恐怖は、想像もしたくない。
「オオオオオ!」
Gの恐怖を思いだしているジンに向かって、昆虫の兵士は右腕のムカデを伸ばす。
「虫、か。火なら効くか? 特異能力! 火炎操作!」
ジンは前魔王の四天王の一人、炎の魔神スルトから1S現任訓練で奪い取った特異能力を発動した。
火炎操作を発動したジンの両手に炎が灯る。
「やっぱり便利だな。強弱、形も思いのままに変化できる。ヨシ! とりあえず最大火力でぶっぱなすか!」
ジンの両手から巨大な火柱が放たれ、昆虫の兵士の右腕から伸びてきたムカデと衝突する。
「オオオオオ!」
しかしムカデはジンの放つ火柱に怯むことなく、ジンの方へ向かってくる。
ムカデの牙がジンに触れようとした時、ジンは軽く横にかわしてムカデの首を掴んだ。
「その殻は属性に耐性を持っているのか」
ジンが力を入れるとボキリと音を鳴らしてムカデの首が取れて、ムカデの頭は地面へと転がり落ちる。
「オオオオオッ!」
「再生能力か。なんだったかな? ああ、一寸の虫にも五分の魂みたいなやつか?」
頭が無くなった首から、すぐに新しい頭がすぐに生えてきてジンを襲う。
「邪魔だ」
ジンの手刀であっさりムカデの頭が切り取れるが、またしてもすぐに首から頭が生えてくる。
「オオオオオ!」
次に昆虫の兵士は、左手のクワガタのハサミな様な左手を振り下ろして、真空波を発生させる。
真空波は地面と大気を鋭利に切り裂きながら、ジンの元へ高速で接近する。
「それも邪魔」
ジンは手刀を振り下ろし、昆虫の兵士が放った真空波の十倍もある、巨大な真空波を発生させて相殺させる。
「虫ごときに超級特異能力は使いたくないな。かと言って手でゴミムシを倒すと絶対に体液で汚れるし、困ったな」
昆虫の兵士から繰り出される攻撃を軽く避けながら、ジンは超級特異能力も使わず、手も汚れない倒し方を考えていた。
「ヨシ! 逆さだるま落とし作戦でいくか」
そう言うと今度はジンの姿が、昆虫の兵士の前から一瞬で消える。
「まずは、頭!」
昆虫の兵士の顔面の前に現れたジンは、山をも砕きそうな蹴りを放つと、昆虫の兵士の顔が吹き飛ぶ。
「次、両腕!」
落下しながら一回転して、踵落としを昆虫の兵士の両腕に決めると、次は昆虫の兵士の両腕が吹き飛ぶ。
「そして、両足!」
地面に着地したジンが手を地面につけて、水面蹴りを放つと昆虫の兵士の両足が吹き飛び、体制を崩した昆虫の兵士は地面へ倒れこむ。
「最後、本体!」
一度飛び上がったジンが空中で手刀を振り下ろして、発生した真空波が昆虫の兵士の体を真っ二つになると、体の中から蛹の様なものが出てくる。
「でてこい、ゴミムシ」
ジンがそう言うと蛹の中から、邪帝が殻を破って這いずりでてきた。
蛹の中からでてきた邪帝は立ち上がることなく、そのまま両手を地面につけて額を地面へとこすりつける。
「あかんわ、あんさん強すぎやで……一生のお願いや! もう悪い事せえぇへんから、命だけは勘弁してや!」
「ゴミムシを助けて、俺になんのメリットがある?」
邪帝の命乞いしている姿を、害虫を見る様な冷たい目で見下ろすジン。
「ワイはあんさんに言われたらなんでもするで! そうやな、他の聖帝七騎士の情報とかどうや? 全然ワイらの事知らんやろ? なんでも全部言うから、命だけはほんまに勘弁してや!」
情報を出すと言われてもジンの冷たい目は変わらない。
「そうだな、お前の言葉を借りようか。お前、全然おもんないわ」
ジンは右手を邪帝に向けた。
「え……? そんなん全然笑えへんで。嘘やろ? 冗談やんな?」
「虫が好きなんだろ? なら、虫にでも転生しとけ。上級特異能力!分解点検修理」
ジンが分解点検修理を放った瞬間に、邪帝は空間ごとねじれていく。
「こんなん、こんなん全然おもんないわ!」
最後の言葉を言い残して邪帝は消滅した。
「さて害虫駆除もすんだし、進むとするか」
邪帝を倒したジンは聖王国の王城を目指す。
ジンが邪帝を倒したころ、ラミア率いる連邦軍右前方にも聖帝七騎士の一人が現れていた。




