表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/52

第三話 ジン・シュタイン・ベルフ


 火の手が上がる村の入り口に到着したジンとエポナの目に飛び込んで来たのは、平和だったであろう村の面影は一つも残らない凄惨な光景であった。

 入り口付近の家屋は全て燃やされ、村の入り口の周りには大量の亜人族の死体が無造作に転がっている。

 血と肉が燃える匂いが合わさって異臭を放っており、その匂いを嗅いだだけで胃に入っているものが全部逆流して口から吐き出したい様な感覚に見舞われるほどだ。


 そんな匂いに耐えながらエポナは死体の中を必死に生き残りがいないかと探した。


「こんな……こんな事って……。誰でも良いから返事をしてよ!」


 エポナは生き残りがいる事を願い、悲痛の叫びを上げるが死体達はピクリとも動かなかった。


 亜人族の死体の顔を見ると原形がとどまらないほどに潰されており、大きく鈍器の様な物でめった打ちにされたのだろう。

 もちろん死体の中には男性の亜人だけではなく、顔は確認できないが体型的に判断すると女性の姿もあった。


「こうしちゃいられないわ! もしかしたら自警団が村中央の橋でこの殺戮の首謀者たちと戦っているかもしれない。お願いジン! 力を貸して!」


 村中央にある川の上に架かった橋を渡った先に住む亜人は、力が強かったり村を存続させるうえで重要な亜人ばかりが住んでいると、村へ来る途中にジンはエポナから聞いていた。


 入り口付近の死体に子供がいなかった事から恐らく、子供や力の弱い亜人は橋を渡った先に避難したのだろう。

 つまりその橋は亜人族の村の最終防衛ラインと言える。


 もしそこが突破されたら――戦など経験した事のないジンでさえ想像するのは難しくなかった。


「いいだろう、このメインクエストを引き受ける。大船に乗ったつもりでいてくれ」


 クエスト、大船? とポツリと声を出したエポナだったが、今は気にしている場合ではないと首を横に振り村中央へと急ぎ走る。

 ジンは自分の胸の中がなぜだか熱くなっている事を感じながらエポナの後を追いかけた。この胸の中が熱いのはなぜだろうか? 最終防衛ラインを救出に向かうシチュエーションに興奮しているのだろうか。それとも村の入り口で見た死体のありさまを見て怒りが熱くさせているのだろうか。

 そんな事を考えながら走っていると前から戦いの喧騒が聞こえてきたので二人は足を早めた。


 橋が見えてきた辺りで村をこんな状況に陥れた魔物の姿が確認できた。

 肌は緑色で醜悪な顔つきをした魔物――そう、ゴブリンである。


 橋の真ん中で武装した亜人族の自警団と大軍のゴブリンが死闘を繰り広げているが、今にも防衛戦は崩れそうになっている。


「自警団! 良かった、なんとか最悪の事態だけは避けられたわ……」


 自警団が橋で戦っているという事は、後ろに非難したであろう亜人が無事であると分かった事でエポナは安堵の息をついたが、真ん中にいる普通のゴブリンの一回りも二回りもある、巨大なゴブリンを見たエポナの顔から血の気が引いていった。


「ボスゴブリン・シュラウド? まさか……亜人族を根絶やしに来たってわけね」


 亜人族とゴブリン族は昔から仲が悪かった。特に今の亜人族のリーダーであるエポナとゴブリン族の首領になると与えられるボスゴブリンの名を持つシュラウドは、そりが合わないとかそういうレベルなど通り越して仲が悪かった。仲が険悪な理由は亜人族の仕事である人間狩りをゴブリン族に回せとしつこくゴブリン族が言ってくるからである。


 魔物の仕事は魔王により割り振り与えられている。カースト底辺の亜人族は見た目も人間に似ているという事で、定期的に人界と魔界を繋ぐ地下通路を経由して人間をさらってきて魔王に献上している。

 ゴブリン族のカーストは亜人族の一つ上と低いので、あまり人間を回してはもらないため少しでも多くの人間を手に入れたいのだろう。そんな中で歴代最強と名高いシュラウドが大軍を引き連れて村を襲ってきたのだ。本気で亜人を絶滅させるつもりなのだろうとエポナは確信した。


「ジン! お願い! この村を救って!」


 エポナは瞳に涙を浮かべ、後ろを振り返りながらジンに懇願したが、もうすでにジンの姿はそこにはなかった。


「良く持ちこたえたな。後は俺に任せておけ」


 声が聞こえた橋の方へ振り返ると武装した自警団とゴブリンの大軍の間にジンが割って入り、自警団を制止するかの様に右腕を上げていた

 その威風堂々とした振る舞いはまさに神話などで見る英雄そのものであった。


「あんたはいったい……」


 自警団のリーダーであるホーク・ビリアーデが生きたえだえながらもジンに問いかけた。


「俺の名はジン・シュタイン・ベルフ。この村を救いに来た」


 意識がもうろうとし始めているホークだったが、ジンの姿を見て驚きを隠せなかった。

 原初の魔王と同じ魔界では魔眼と呼ばれている銀色の瞳、まるで漆黒の象徴である様な純粋な黒色の髪、男である自分が惚れてしまいそうな容姿を持つ上に、全身を覆う圧倒的強者のオーラは見ただけで委縮してしまいそうだ。


 面食らっていたホークは橋の向こうにいるエポナに気づき、エポナが村を救うためにどこからか強者に助っ人を頼んだのだと悟った。


 ゴブリンとの戦闘で傷だらけになりながらも橋を死守せんと、倒れそうな自分を叱咤して無理やりに体を動かし続けたホークには、もう一発もゴブリンの攻撃を受ける体力は残っていなかった。


 五十人以上いた自警団の生き残りはホークを含めたったの八人。その八人全員が体力の限界を軽く突破しており、いつ倒れたとしても不思議ではない。


 自分が弱いから仲間を守れなかった。自分が強ければここまでゴブリンに侵攻される事はなかった。自分に力がないから敗北は目に見えているというのに、仲間達に決死の覚悟で戦ってもらうしかなかった。

 自分の不甲斐なさで仲間を死なせたと苦悩しているホークの目から涙がこぼれた。

 一度こぼれた涙はダムが決壊したかのように激しく流れ、その涙は止まる事はなかった。


「お願いしますベルフ様。この村を……みなをお救い下さい」


 ジンは後ろを向かずその場でサムズアップを決めながら、


「その為に来たんだ。全員後退しろ。あとは俺だけでやる」


 まるで万夫不当の歴戦の英雄の様な姿を見た自警団達は、感謝の言葉を口々に後退していった。


「作業基準書、さっきの森での戦いで俺のレベルは上がっているのか?」


「はい。パッシブスキルの一つである生産性向上によって、担当者様は戦闘での経験値が他者の万倍となっている為、飛躍的にレベルが上昇、能力ステータスも同じく驚異的に上昇しております。能力ステータスの確認頂けます様、宜しくお願い致します」


---------------------------------------------------------

 ジン・シュタイン・ベルフ Level:57 亜人種

 Hp:65,000

 Mp:42,00

 Atk:15,200

 Def:13,250

 Int:111,050

 Res:10,170

 Dex:12,650

 Agl:13,870

 Luk:9,200

 使用可能特異能力

 外観検査・安全確認・修復・クリアランス・原点復帰・派遣の中抜き・命札


 使用可能上級特異能力

 1S現任訓練・2S安全エリア・3Sベテラン召喚・4S現金払いの給料日・5S社畜化・分解点検修理


 ユニークスキル:工場作業員の矜持

 KYT・作業の平準化・生産性向上・品質管理


 総合評価Ω

---------------------------------------------------------


 なにが起きているのかと混乱して止まっていたゴブリン達だったが、シュラウドの地を震わすような咆哮によって再び攻撃が開始された。


「ヨシ! じゃあこいつらで今の能力ステータスがどんなものなのか試すとするか」


 両腕を軽く回したジンは両足に力を込めて地面を蹴り、攻撃してきたゴブリン達の一体の前に高速で移動した。


「とりあえず、パンチからやってみるか」


 ジンが少し力を入れた右の拳でゴブリンの顔面を殴るとゴブリンの上半身から首だけが勢いよく飛んでいき、さっきまで首がついていたゴブリンの首元からは血しぶきが吹き出し、首を無くした体は力なくどさっという音をたてて地面に倒れた。

 この間わずか二秒の出来事であった。


「生まれて初めてパンチってやってみたけど、いまいち力加減が分からないし手も汚れるからなしだな」


 そう言ったジンは先ほど倒した首が無いゴブリンの右手に握られている、こん棒を手にした。


「グギギギギ。敵はたった一人だ! とっとと数ですり潰せい!」


 ゴブリン達はシュラウドの命令によってジンを取り囲むが、


「ギッ!」

「ギグっ!」

「ギェー!」


 ただ乱暴にこん棒を振るうジンだが、こん棒を一回振るう度にゴブリンは確実に命を失っていった。


 その異常な光景に知能の低いゴブリンでさえ死の恐怖を感じて動けなくなっていた。


「グギギギギ。もうよいわ! ワシが出る!」


 シュラウドは二メートル程ある巨大なこん棒をジンに向かって振り下ろした。


「なるほど、筋肉が肥大するとかは起きずに純粋に力だけがあがるのか」


 ジンはシュラウドの巨大なこん棒を興味なさげに左手で軽く受け止めていた。


「グギギ。たかが亜人風情がぁぁぁぁぁ!」


 振り下ろしたこん棒で攻撃するために、シュラウドはこん棒を上げようとしたがピクリとも動かない。


「握力も問題なさそうだな」


 左手でこん棒を握ったジンはシュラウドには目もくれず自分の能力ステータスの確認を続けていた。


「グギギギ! カースト最底辺の亜人ごときにワシが力負けするだと!」


 シュラウドがどれだけ力を入れてもこん棒が動く気配はない。


「ああ、ごめんな。どんな風に力が上がったのか確認したくてな」


 ジンが力を抜くとシュラウドはこん棒を振り上げ特異能力スキルを使用した。


「死にさらせやぁぁぁ! 特異能力スキル! 筋力上昇!」


  特異能力スキルを使ったシュラウドの両腕の筋肉が異常なほど膨張し、破壊力だけを追求した強烈な一撃をジンに叩き込もうとした。


「1Sを使おうと思っていたが必要ないな」


 ジンが右手でこん棒を軽く振るうとシュラウドのこん棒を持っていた手が腕ごと吹き飛んだ。


「グギィィィ! 貴様ぁぁぁ! 亜人のくせに! 亜人のくせにぃぃぃぃ!」


 シュラウドは吹き飛ばされた腕がついていた部分に、ギュッと力を入れ血が噴き出すのを止めた。


「知能が低いのに止血の概念があるのか。まぁそれだけじゃまるで意味が無い。工場でもそうだが怪我をしたらまず消毒しないと細菌感染するぞ」


 ジンはアキオの時に釘で怪我をして消毒しないまま放っておいて、大変な目にあった同僚を思い出しながらもう一度こん棒を振るうと、シュラウドの残っていたもう一本の腕も吹き飛んだ。


「グギギギギ……降参だ……もうやめてくれ」


 上げる手がなくなったシュラウドは両膝を地面につけて降参を宣言したが、まるで何事もなかったかのようにジンがもう一度こん棒を振るうと今度は右足が吹き飛んだ。

 右足が吹き飛んだ事によりシュラウドは態勢を崩し地面に顔面をぶつけた。


「お願いです、お願いです。助けてください亜人様……これからゴブリン族は亜人様の手足となって働きます……どうか命だけはお助けく――」


 グシャっという音と共にシュラウドの頭部がこん棒によって潰された。


「亜人にした仕打ちを考えれば……生かしておく価値はない。それにお前達を部下にした所で工数が割に合わない」


 一部始終を見ていたエポナがジンの元へと歩いてきた。


「――あなたは一体? もしかして神話に出てくる魔人様?」


「言わなかったか? ジン・シュタイン・ベルフだ」


 蜘蛛の子を散らしたかの様に逃げ惑うゴブリン達をジンはエポナと二人で掃討したこの日、カースト最底辺はゴブリン族となった


 村を救ったジンはエポナから魔族の現状を聞き、魔王になる事を決意する。




 ◇

 敵ステータス


 -------------------------------------------------------------

 ボスゴブリン・シュラウド Level:30 ゴブリン種

 Hp:700

 Mp:0

 Atk:140

 Def:80

 Int:54

 Res:38

 Dex:68

 Agl:52

 Luk:6

 使用可能特異能力

 筋力強化


 使用可能上級特異能力

 無し


 総合評価F-

 -------------------------------------------------------------


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ