魔界外伝~有能な上司が抜けると、現場は破綻する
勇者パーティと三大貴族の画策によって、魔王ジン・シュタイン・ベルフは倒れた。
ジンが倒れた後、魔界は一年も経たない内に食糧難に陥った。
食糧難の解決と魔界の秩序を元に戻す為、三大貴族の長は毎日会議をしている。
「なぜだ! なぜ他の魔族は我等の言う事を聞かんのだ!」
吸血鬼の始祖、ヴァンパイアロードが机を叩きながら怒鳴る。
魔界からジンが姿を消して、魔王城は三大貴族の長である、ヴァンパイアロード、グレイトマーマン、ワーウルフキングとその眷属が占拠していた。
初めは人間食の禁止撤廃で評価を受けた三大貴族だが、絶対的な力を持つ魔王不在の魔界は荒れに荒れ、一年後には自分たちの眷属達にしか指示を出せる状態ではなかった。
「勇者の武功上げの為に、定期的に眷属と愚王ジン崇拝派を送り込んではいるが、他の魔族にも協力を仰がんと数が足りなくなってきておる」
トライデントを持ったグレイトマーマンが、困った顔で声を出す。
「群雄割拠、いいじゃねぇか。これが魔界、これぞ魔族ってもんだ! 逆らう奴は皆殺しにすりゃあいいんだよ!」
鋼鉄の肉体と鋼をも切り裂く爪を持つ、ワーウルフキングが爪を磨きながらドヤ顔で話す。
「皆殺しに出来るほど、我等は力も兵隊も持っておらん。それより早急に対策が必要なのは食糧難である」
食糧難に陥った魔界では現在、魔物同士が共食いをしている。
強い魔物が弱い魔物を際限なく捕食し続ける事で、魔界の生態系は大きく狂い、何種類もの魔族が既に絶滅している。
三大貴族とその眷属は、勇者達から人間を定期的にもらえるので賄えているが、他の魔族は共食いをするか、人間界に人間を攫いに行くかの二択しかなかったのだ。
「ワシが入手した情報によると、人間に好意を持っている魔族は、もう全員この魔界から離れて、人間界で暮らしているようだ」
「魔族の面汚しじゃねぇか! そういや最近蜥蜴人とかの姿を見てねぇなぁ」
人間を元々あまり食べていない魔族は、食料を求め人間界へと逃れていた。
「このままではもし人間界と揉める様な事があれば、魔族は全て滅びてしまうのである。なにかいい案はないものか」
「ワシらが管理しておる海にはもはや魚すらおらん。地上はどうであろうか?」
「半魚人の爺さんよぉ。地上に餌があるならこんな事にはなってねぇよ。飛べる魔族の部隊でもっと人間を攫えばいいんじゃねぇか?」
「ワーウルフキング、そんなに人間を大量に攫ったらさすがに、人間界は魔界へと攻めてくるのである。今の我々ではあっという間に全滅させられるのである」
今日も三大貴族の会議はいつもの様に、一つも良い案がでないまま終わりを迎える。
ジンが魔界を統治していた時は、ジンのリーダーシップにより会議で案が出ないなどありえない事だった。
食料も農作、牧畜を始める事で魔族から不満は出るものの、魔族同士の共食いが起こる様な食糧難に陥る事はなく、ジンの圧倒的な力の前では力こそが全ての魔物達は従うほかなかったので、好き勝手に略奪や弱者を一方的に搾取する魔物はいなかったのだ。
だが今の魔界は三大貴族ですら、魔王城から外へでれば捕食対象となる。
「むしろあの愚王を蘇らせる方法を探す方がよいのであるか……?」
ジンが倒れてから三大貴族達は、常に答えの出ない不毛な会議を続けている。
しかし今日の集まりはこれで終わりではなかった。
いつも通り終わるはずの会議は、慌てて扉を開けた魔物により一変する。
「ヴァンパイアロード様! 大鬼族のアスモ・ダイアスが反乱分子を引き連れて、この魔王城へと接近してきております!」
蝙蝠男の様な魔物は慌てふためきながら、反乱軍が攻めてきている事を三大貴族に伝えた。
「アスモ・ダイアスめ……従順なフリをしていたと言うのであるか」
「さすがにこのままでは全滅は必至、聖女から貰ったアイテムで門に加護をかけた方が賢いのではないだろうか?」
「魔除けの加護を俺たち魔族が魔族の為に使うってかぁ? 全く笑えねぇ話だ」
「そうするしかないのである。魔王城から外へ出る時は、勇者パーティの魔法使いに頼るとしようではないか」
ヴァンパイアロード、グレイトマーマン、ワーウルフキングの三大貴族の長とその眷属たちは籠城を決め込み、門には聖女の神聖魔法が込められた魔除けの加護が使用されジンたちが聖女を倒すまで魔王城の門は破られる事はなかった。
三大貴族が魔王城へ引き籠ったその後、魔界は暗黒期へと突入する。
ジン崇拝派のアスモ・ダイアス達とそれ以外の争いが続き、魔界の大地は血で真っ赤に染め上がる。
魔界の最南端にある魔界の大森林は戦火から免れていたが、勇者パーティの古の魔法使い、バウム・ドーラが管理していたので、魔界の大森林の集落で暮らす魔族達は、三大貴族が籠城した事も、魔界全体がどうなっているのかも分からず働き続けていた。




