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なんて御利益があり過ぎの神様なんだ!

 山口は大丈夫か?


 尋ねたのは山口を心配している髙では無く、なぜか目を爛々と輝かせている今泉である。玄人は今泉の変り様に気がつく様子も無く、愛想よくにっこりと彼女に微笑んだ。


「白ヘビ様のお告げを受けるか意思表示すると発動します。六月に新潟なんて面倒でしょうから、嫌って言ったら良純さんに剥がしてもらいますから大丈夫です。一々憑くたびに剥がすのは面倒臭いでしょうけどね。」


「それは絶対に無いぞ。お前の母の実家の白波酒造にお近づきになれるなら、誰だって付いて行くからな。」


「えぇ!それは良純さんだけでしょう!」


 だが俺に失礼な玄人の思惑は外れ、医務室のベッドから身を起こした山口は玄人から蛇のお告げを聞くや否や、俺の想像通り二つ返事で了解したのである。


「あうぃ、ううけまぅす。」


 口がスローモーションに気味悪い動きをしての不明瞭な言葉でしかなかったが、発した途端に彼は顔を押さえて体を二つ折りにして頭を臥せた。髙が慌てて山口の両肩を掴む。


「大丈夫か?どうかなったか!」


「だ、大丈夫です。急に凄くまぶしくなって。はい、見えますし、僕は喋れてますね。」


 顔を上げた山口は、顔形は変わっていないが、なぜか美男子に見えた。否、元々整った顔立ちなのに美男子に見えない方がおかしいのか。


「あぁ、すっきりした。ずーとこのままだったらどうしようって。ああぁ、良かった。」


 本当にさっぱりしたようにふうと息を噴出し、キラキラした笑顔で喜んでいる。


「本当に受けて大丈夫なのですか?あれはやばい神様ですよ。」


「お前の母の実家の神社の本尊に、お前はなんて不敬な事を言うんだ。」


「だって。」


「ねぇ、ちび。どうにかなるの?氏子になると。」


「年一回はお礼参りが必要です。神社は山の天辺なので低い山ですけど山登りは大変じゃないですか。お正月はイカを持って登らないといけないし。」


「ごめん、ちび。最後のイカがわからない。」


 しかし、楊の質問に驚いたのは玄人の方だ。


「焼くでしょう、イカ。竹ざおを釣竿みたいにして針金で括ったスルメをぶら下げて、それで境内で古いお札とか焼いている大きな焚き火で焼きますよね。おいしいし、無病息災ですよ。お正月の初詣はそれを絶対するでしょう?」


 玄人は全員から「それは通常の初詣じゃない。」と突っ込まれて挙動不審になっていた。


「でもさ、面白そうだよね。来年のお正月は行ってみたいね。」


「あ、かわちゃん、馬鹿。」


 そう言った玄人は顔を覆い、医務室のベッドの上の山口は大笑いを始めてしまった。


「何?俺なんかいけないこと言った?」


 不安そうな面持ちの楊に、山口が大笑いで息も絶え絶えになりながらも答えていた。


「まだ、お使い様が残っているんですよ。六月に返しに行くまで僕を守ってくれるそうです。下手な事言うと大変。かわさん、来年は確実に新潟に行かせられちゃいますよ。怖い、本当にこの神様は怖い。」


 ワハハっと大笑いする山口に楊はにやにやと返した。


「行くんだったらちびも一緒だろ。交通費だけで衣食住豪華特典つきな正月を迎えられるなら最高じゃん。それに新潟行っちゃたんだったら、急な呼び出しも出来ないじゃんね。」


「あー。酷いかわちゃん。僕に決定しましたって、声が。もう、かわちゃん余計な事を言わないで!」


「うん、聞こえたね。じゃ、僕も氏子になった初の初詣クロトと行きたいです!」


 山口は便乗し俺達に聞こえない声を聞いて万歳をはじめ、玄人は頭を抱えてしゃがみ込む。その様子に俺達も叫ぶかと髙と目線を交わしたその時、誰かが叫んだ。


「それじゃ、私には出会いを!」


 全員が一瞬で黙り込み、一斉に声の主を注目すると、注目された今泉はハハハって照れ笑いをして、医務室から逃げて行った。


「今ちゃんは本当にかわいいねぇ。」


 髙の言葉に黙り込んでいた全員が再び黙り込んだ。

 なんてご利益がありすぎの神様なんだ。

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