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かわちゃんの職場に僕が呼ばれた、のは

 僕が退院した日に、僕の上に落ちた雨は、あの神様の怒りの雨。

 僕は白波の血を引く彼女の眷属なのに、僕が獣の幽霊を身にまとった汚れであるからだろうか?


 だから彼女は僕を雨で雪いだのか?

 何度も、何度も、僕の大事な獣を奪おうと。


 僕は自分の腹に浮き出ている痣の部分、一番大きな鳩尾のあたりを守るようにして両手で抑えた。


「大丈夫。僕は君達をあの魔女には奪わせない。」


「おい、ちび?」


「あ、あの。すいません。なんでもないです。あの、白波の神社は怖いなって事は思い出したので、それで、です。」


「怖いの?自分ちの神様でしょう。百目鬼が言うには、お手伝いも一杯したんでしょう。」


「え、ええと。山の天辺で水を守って麓の村に水を下さるありがたい白ヘビ様で、御利益はあるのですけど。」


「今は神様として祭られているが、元々は怨霊の菅原道真や平将門のような祟る神様ってことか?」


 良純和尚の合いの手に僕は「そうだ」と頭を振って肯定したが、彼がおもしろくもなさそうにぼそっと呟いた。


「お前は神社の子の癖に近所の神社に全然参らないよな。初詣だってさあ。」


 いや、あなたは仏教でもストイックな禅宗で、そんな人に初詣に行きませんか?って普通に考えても誘えないでしょう?そう思いながらも別な事を言った。


「狛犬様じゃなくてお狐様じゃないですか、近所の神社。僕は怖いんですよ、お狐様が。」


 僕の言葉に楊は両腕で自分の体を抱えた。


「言うなよ。どうして怖いか言うなよ。俺は初詣もこれから厄払いもしないといけない身の上なんだからな。」


「かわちゃん。男は最初の厄年は二十五歳で、とっくに終わっているじゃないですか。」


「厄年じゃないって、馬鹿!ただの厄払いって何時やってもいいの。」


 ストーカーに悩まされた男は、未だに心に傷を負っているようだ。


「部外者を勝手に部屋に入れて何をやってるのですか?」


 女性の厳しい言葉が部屋に轟き、すると課長席の楊は目に見えて怯えてしまっていた。

 厄はこっちか。

 楊に厄認定されているらしき女性は今泉杏子警部補だった。

 以前の彼女は葉子担当の坂下警部の部下であり、その関係で一度会った事があったのだが、その時は美人でも鋭角な目鼻立ちで近寄りがたく、打ち解け辛そうな女性の印象を受けていた。


「お久しぶりです。武本玄人たけもとくろとです。こちらは僕の相談役をして下さっている良純和尚様です。あの時は楊さんがまともに紹介してくれなくて、ご挨拶が遅れてすみません。」


 僕が立ち上がって紹介して彼女に頭を下げると、彼女は僕に丁寧に頭を下げ返した。

 彼女、実はいい人?そんなに外見ほどキツイ人ではない?


「ちゃんと紹介したじゃん。俺の愛ちゃんだって。お前は俺のラブで、ウチのちっこいのなんだからそれでいいの。」


 僕がラブクラフトが好きなのは有名で、僕が犯罪者だと県警で目されていた時に庇っていた楊を揶揄するために、「楊のラブクラフト」を敢えて略して「楊のラブ」と広められたのだそうだ。

 楊はそれを知って以来、そのあだ名を県警で一番乱用するようになっている。

 そんな不真面目な楊を今泉はギっと睨み返したが、僕には真面目な目を向けた。


「今は刑事部所属となった警部補の今泉です。あなたは護衛される身の上なのだから、犯罪者や不特定多数の目に留まって特定される危険性のある所を避けないといけないのよ。」


 あぁ、凄く真面目ないい人なんだ。

 彼女がキリキリしていたのは、坂下も楊も非常識組であるからだと、忽ち僕は了解したのである。


「この署は楊さんがいるから大丈夫です。今は今泉さんもいますしね。」


 そう答えると彼女はふっと表情を緩めたが、すぐに顔付きをきりっとさせた。


「これから事件の会議を行いますから、あなたは早く帰りなさい。残虐なものから遠ざかれるなら遠ざかっていた方がいいのよ。」


 そんな事を僕達に言う今泉の後ろに、髙が姿を現した。


「僕も君に同感だけど、ちょっと玄人君が必要なんだよね。玄人君、すまないね。」


 改めてそんな風に髙に言われると、これからの何をさせられるのかとても不安じゃないか。

 と、目線を落すと、髙の足元に小さな女の子達が何人もいるのが見えた。

 手が妙に長い子供だなとよく見たら、彼女達は膝下から下が無かった。


 これが、あの五人か。

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