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最強騎士になっちゃった

「さあ、ブライト様!王国一の剣閃を我々に見せてください!」


「王国騎士序列一位の座は俺が頂く!覚悟しろブライト!」


白い大理石で出来たコロシアムの真ん中で俺は銀色に光る西洋鎧に身を包み、自分の上半身ほどの刃渡りを持つ剣を構えている。

そして俺の前に立つ群青色の鎧を着た赤い髪の男もまた、剣を構えて闘志をむき出しにしている。コロシアムにいる観客たちは剣が交わるのを今か今かと待ちわびている。


「な、何この状況?」

=====

俺の名前は篠宮剣士(しのみや けんし)

田舎で暮らすどこにでもいるような高校生だ。好きなことと言えばゲームかな?体を動かすのは嫌いじゃないけど運動部に入るってほど好きでもない。

親が二人とも剣道部ってこともあって剣士なんていう大層な名前をつけられてたけど剣道はやってないし、よくからかわれるがもう慣れた。

つまりどちらかと言えばインドア派な俺なんだが何故か今、全く知らない役所のような場所のベンチに座っている。


「どこだここ?俺確か部屋でゲームしてたはずだよな?」


「篠宮剣士さん、篠宮剣士さん。3番ブースまでお越しください。」


「え?」


館内放送でいきなり名前が呼ばれた。なんでだ?受付とかした覚えないのに…

分からないことだらけでぶっちゃけめちゃくちゃ怖かったが、このまま状況が変わらない方がもっと怖い。

そう思った俺はベンチから立ち、近くにあった案内地図を頼りに3番ブースを目指して歩き始めた。


「なんなんだここ?やたら静かだな…ていうか俺以外誰も歩いてないぞ?不気味だ…」


俺が歩く音が館内に反響するのが余計俺の恐怖心を煽ってくる。やめてくれよ…俺こういう雰囲気のホラゲーが一番苦手なんだよ…


「あ、篠宮くーん!こっちですよー。」


「ひぃぃぃぃい!!やめてって言ったじゃぁぁん!!」


突然横から男の声が聞こえ、思わずその場に頭を抱えてうずくまってしまった。

我ながら相当情けないリアクションである。だが落ち着いて周りを見回してみるとどうやら目的の3番ブースに着いていたようだ。

そこには四角形の低い壁であり通路側に扉が取り付けられている。その扉を開けてスーツ姿で髪をワックスで七三分けにした男が俺に手を振っている。


「篠宮くん?大丈夫ですか?」


「は、はい…割と。」


「そうですか、ではこちらにどうぞ。お茶も淹れてありますので。」


特に拒否する理由もなかったから誘われるがまま俺は素直にブースの中に入っていった。

=====

「はい、それではまず自己紹介からですね。今回篠宮くんの担当をさせていただきます、天界霊魂案内所の田中と申します。よろしくお願いします。」


「よろしくお願いします…あの、ここどこなんですか?」


「あはは、皆さん最初に必ずそれをご質問なさるんですよ。ここは天界霊魂案内所です。簡単に言いますと、亡くなった方の霊魂が次にどんな世界に行くかを決める場所なんです。」


「へー、そんな場所があるんだ。ん?亡くなった方?」


「はい。亡くなった方です。」


「誰のことですかそれ?」


「今この状況でと言われるのでしたら篠宮くん、君のことですよ。」


ほーん、そうか。俺のことか。じゃあ俺は死んだってことなのか、そうかそうか…


「田中さん…叫んでいい?」


「一応ここは役所になりますので大声はお控えください。」


「……う、嘘でしょぉぉぉぉぉ…俺死んでんのぉぉ???」


「おぉ、どうやって絞り出しているのか分からないくらい小さな声ですね。お気遣い感謝します。」


待て待て待て、じゃあ俺今魂なの?なんでだ?死ぬような目に合う状況なんて生まれてこのかた合ったことないし…なんなら休日は家から出ないのに!どうやって死んだんだ教えてくれ死ぬ前の俺!


「死因なんですがお教えしましょうか?」


「お願いします…あ、でもトラウマになりそうなグロい感じだったら結構です!」


「グロくはないと思いますよ?えーっとですね、まず亡くなった日はゲームをしてらっしゃいましたよね?で、篠宮くんはゲーム機にジュースをこぼしてしまいましたよね?」


「えぇ、それで焦ってゲーム機を拭いたところまでは覚えてます。」


「それで放電したゲーム機に感電して亡くなりました。」


「ていうギャグはいいですから早く死因を教えてくださいよ!」


「ですから、これが本当の死因なんですよ。」


…え、マジで?そんな理由?俺の死因ゲーム機?もっとこう女の子を悪い奴から守ろうとした末にとかじゃなくて?


「カッコ悪!やだよそんな死に方!死にきれないにも程があるよどうしよう田中さん!助けて!俺人生は大団円で終わりたいって心に決めてるんだよ!!」


「終わりたいと言われましても、もう終わってらっしゃいますよ。安心してください。そんなあなたのための我ら天界霊魂案内所なのです!」


田中さんが自信ありげに胸を張り、ドンと叩いてみせた。このタイミングで言うのかも遅いかもしれないけど、信用していいのかこの人…


「あの、霊魂案内って具体的にどんな感じになるんですか?生き返れるとか?」


「いえ、生き返ることは出来ないんですよ。一応天界にも規則がありますので。基本的には違う命としてまた元の世界に生まれるというふうになるんです。ですが…今回は…」


「…なるほど。ちょっと残念ですけどしょうがない…んですよね?じゃあまた日本に生まれたいです。やっぱり慣れ親しんだ場所が一番ですから。」


もう父さん母さんや学校の友達に会えないのか…やべぇ、なんか涙出てきた。一人になるってこんなに怖いのか…


「あの、落ち込んでいるところ申し訳ありません。それがですね…実は日本に、というか剣士くんが元いた世界に生まれることは現在不可能なんですよ。」


「…え?!な、なんで?今田中さんがそう言ったじゃないですか!」


「はい大変申し訳ないんですが、理由は単純でして定員オーバーなんですよ。世界にもキャパがありまして、剣士くんが元いた世界は特に人気で常に枠が埋まってる状態なんです。」


「なんだそれ…シーズン中の新幹線の指定席みたいなこと言わないでくださいよ…なんだよ死んだ上に満席お断りって…いいっすわ俺このまま魂のまま彷徨い続けるんで…」


「あぁ気を落とさないで!そんな剣士くんのためにこちらで他に人気なコースをご提供させていただきますよ!」


なんなのコースって?なんか話すたびにどんどん田中さんのことが信じられなくなってきたんだけど…


「喜んでください剣士くん!なんとですね!一つだけレアな枠が空いてるんですよ!その名も異世界転生コース!」


ん?なんだそれ?


「異世界?俺がいた世界とは違う世界ってことですか?」


「その通り!剣士くんのいた世界は電気と機械の世界でしたよね?ですがこの異世界転生コースではなんと!剣や魔法のある世界に行けるんですよ!」


「剣と魔法…?ゲームみたいな?」


「そう!元の世界では絶対にあり得なかったことが当たり前の世界に行けるんです!しかも女の子にはモテモテ!オプションで強い存在に転生できるんです!どうですか?ワクワクしてきたでしょ?」


「うさんくさいなぁ…本当にゲームの世界みたいな場所に行けるんですか?エルフだったり幻獣がいる世界に行けるんですか?」


「もちろん!ご安心ください一切騙す気はございません。生まれ変わる際のトラブルなどは一切ございませんよ。どうです?転生…してみますか?」


…出来ちゃうの?そんな世界に行けるのか?女の子にモテモテってそんなのも経験出来んの?しかも魔法とか剣もあるって…

あれ?なんでだ?さっきまであんなにテンション下がってたのに今はにやけるのを抑えられねぇ!


「もう、日本には生まれることが出来ないんなら…田中さん、俺行きます!転生させてください!異世界に!」


「よく決断してくれましたね!分かりました、ならすぐに行きましょう!転生陣オープン!」


田中さんが腕を上げ、指を鳴らすと俺が立っている床がいきなり発光し始めた!転生ってこんな感じになんの?なんだろう、俺ってちょろいのかな?めちゃくちゃテンション上がってきたぞ!


「転生し終わってもご安心ください。案内所は常に剣士くんをサポート致しますから!それでは行ってらっしゃいませ!」


「お、おぉ!なんか色々分かんないことありすぎて処理しきれないけどありがとう!行ってくるよ田中さん!」


こうして俺は新たな人生を異世界で送ることになった。俺、頑張ってみます!

=====

「さあ、ブライト様!王国一の剣閃を我々に見せてください!」


「王国騎士序列一位の座は俺が頂く!覚悟しろブライト!」


白い大理石で出来たコロシアムの真ん中で俺は銀色に光る西洋鎧に身を包み、自分の上半身ほどの刃渡りを持つ剣を構えている。

そして俺の前に立つ群青色の鎧を着た赤い髪の男もまた、剣を構えて闘志をむき出しにしている。コロシアムにいる観客たちは剣が交わるのを今か今かと待ちわびている。


「な、何この状況?」


案内所で田中さんに転生させられた後、目の前が一瞬だけ暗くなったんだ。それで目を開けたらこんなことになっちゃってた。いや、ほんと何なんだこれ?


「ブライト様…ブライト様?いかがなさいました?」


おいどうしたんだブライトってやつ。向こうにいるお姉さんがなんかすごい心配そうにしてるぞ?

あれ?あのお姉さん俺のこと見てない?


「ブライト様?大丈夫ですか?お調子が優れないのですか?」


「あ、あぁいや心配するな!問題ないぞ!」


声低いな!ブライトって俺か?!俺のことなのか?!なんでそんな名前なんだよ俺!てかなんでこんな鎧着込んでどデカイ剣持ってんの?!状況が全く飲み込めねぇ…


「フ…決闘の最中に気を抜くとはブライト貴様…死にたいのか?」


いや、今死んで生まれ変わったばっかりなんですけど…何言ってんだあのおっさん。

それよりも今…決闘って…


「ブライト様ほどのお方が気を抜くはずがありません!そうですよねブライト様?」


「え?あぁ、うん。まぁそんな感じかな?」


待て、まずは状況を整理しよう。俺はどうやらブライトって人に乗り移ったみたいだ。転生ってこんな感じなのか…

それでそのブライトはこのコロシアムで目の前にいるおっさんと決闘しようとしてる最中ってことでいいのか?

でさっきからブライトに、ていうか俺に熱い眼差しを向けてるあの金髪のお姉さんはどういう立ち位置なんだ?


「さぁ来いブライト!序列一位の男の剣の実力!このウィリアムに見せてみろ!」


一位なの?俺なんかのランキングの一位なの?ていうかこれ戦う流れだよな?

どうしよう…俺剣の使い方なんて知らねーよ!ここは一旦休戦を…


「なぁウィリアム、いやウィリアムさん?この決闘って今やらないとダメかな?また来週とかどうよ?」


「貴様…騎士の決闘を汚すつもりか!一度始まった決闘を持ち越すなど、出来るわけがなかろうが!」


「そ、そう怒るな。軽い冗談だ!」


ダメだ!この人話し合い出来ねえ!どうすればいいんだ、誰か…誰か助けてくれぇ!


(大丈夫ですか剣士くん?今案内所からあなたの脳内に話しかけています。転生は無事終わったようですね。)


(田中さん!田中さんなのか!今やばい状況なんだよ、俺どうすればいいの?)


(落ち着いてください。説明しますと剣士くんが乗り移ったのはエルサレムという王国の序列1位の騎士、つまり滅茶苦茶強い騎士さんです。あ、そろそろ通信の限界時間が来ちゃいますね。頑張ってください剣士くん、多分ブライトさんの秘めた力とかを解放出来ると思うと…ブチッ!)


切れた!しかもなんかあやふやな事言って終わったぞ?

秘めた力?…そうかあれだ!漫画の主人公とかがなんか集中したら心の奥の力が…みたいなやつだ!

よしやるぞ目覚めろ!そして頑張れブライト、お前の力を俺に貸してくれ!


「あの…どうされたのですかブライト様?」


「気にするな、今瞑想をしていたところだ。」


「そうだったのですね、気づくことができず申し訳ございません。」


ダメだ!なんも浮かんでこねぇ!剣の振り方とか体の動かし方とか分かってくるもんなんじゃないの?今の剣の持ち方が正しいのかすらわかんねぇよ!


「なるほど、剣と心は表裏一体。心を水面のように落ち着かせることで剣閃は更に研ぎ澄まされるということか…」


ウィリアムさんは何言ってんの?てかよく待ってくれてんな意外と優しいのかあの人?


「だがもう待ちくたびれた。お前が来ないと言うのならこちらから行くぞ!ハァァァァ!!」


うぉぉぉ?!やべぇ!ウィリアムさんがつっこんできた!どうすりゃいいんだ?!たたかっていいのか?てか戦えるのか?

いくら鎧を着てるからって人を斬るなんて出来ねぇ!


「危ねぇぇぇ!」


「な、避けるだと?!それでも騎士か!恥を知れ!」


「そんなこと言われても…危ね!いきなりこんな…うわ!クソ!全然話聞いてくれねぇ!」


動揺している俺のことなんかお構いなしにウィリアムはどんどん斬りかかってくる。

めちゃくちゃ速い斬撃だけどなんとか避けられてる。これはブライトの身体能力が高いからなのか?


「ブライト様!頑張って。私はブライト様を信じています!」


信じてるって言われても…どうやらブライトは相当人気のある奴らしく、こんなに情けなく避けてばかりいるのにお姉さんに応援され、観客たちからは大歓声が上がっている。


「はぁ…はぁ…、何故だ!何故斬りかかってこない!何を企んでいるんだブライト!」


すいません何も企んでないからこんなことになってるんです…でもそろそろ解決策を考えねぇと…でもこんなデカイ剣の使い方なんて…そうか!よし、閃いたぜ。この状況を打破する最強の方法を!


「ん?やっと戦う気になったか。だがなんだ?そんな大上段の構えでこのウィリアムに斬撃が当たるとでも?」


「行くぜ…必殺、剣投げ!」

ブォンッ!


俺は冗談に構えた剣をその重さを利用して思いっきり振り下ろし手放した。使えないものをいつまで持っていても仕方がない。ならぶん投げるまでだ!


「貴様!騎士の命である剣を投げるなど!くッ!」

キィィンッ!


結構な勢いで投げたんだけどな、ウィリアムは自分の剣でのんとか防いでみせた。だが…もう遅い!


「な?!いつのまにか私の懐まで!」


「うぉぉぉぉ!!喰らえ!田舎拳法ぶっこみストレートwithブライト!」


なんて適当な名前を言って素人丸出しのパンチを出してみたんだが、やはりここもブライトの補正が乗っているのか顔面を殴られたウィリアムがはるか後ろに吹っ飛んでしまった。


「グワァァア!!こ、こんな、こんな決着…俺は…認め…ウッ…」


ウォォォォォォ!!


コロシアムの中を歓声が埋め尽くした。観客たちは立ち上がり俺、もといブライトに惜しみない拍手を送っている。

こんなに祝福されていいのだろうかと戸惑っている俺の元へ立会人のお姉さんが駆け寄ってきた。


「お見事ですブライト様!このような斬新な戦い方初めて見ました!このモニカ、今も感動が治りません!」


「そ、そう褒めるな、照れるじゃないか。は、はは、ハハハハハ!」


俺は今異世界にいます。そこで俺はどうやら王国最強騎士になり、騎士同士の決闘に参加することになり、挙げ句の果てに勝っちゃいました。

めでたいのかもしれませんがいまだに1つ、不安に思ってることがあります。


「俺、剣の使い方なんて知らねぇよ…」

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