第96話 再びロット国
ロット国に着くまでの間、俺たちはうたた寝をしていた。徹夜なのだから仕方がない。俺はゲームで何日も徹夜したことがあるけどね。1日くらいへっちゃらだ。だけど、シーファたちの迷惑もかけたくないし今は大人しく寝たフリをしているってわけだ。寝れないし。
え? パグ? 念話?
ナンノコトカワカラナイナー。
本当、30分くらい説得してようやく分かってもらったとか、全くシラナイナー。
……俺めちゃめちゃ信頼されてなくない!?
と、考えていたことは内緒だ。
そんなことを思考している間に、馬車はロット国に到着していた。馬車から出ると、お馴染みの幸塔が見えた。こうして見ると、やはり大きいな。
カゲマルを影の中に入れる。いつかカゲマルも俺たちの正式な仲間として世の人に紹介したい。まあそれは俺たちが有名になれたらの話だが。
「よしっと。これで到着だね。銀貨7枚だよ」
ぐはっ。かなり取られる。ほぼ金貨1枚と変わらないじゃないか。まあチカ大国に行ったのもエルシャルト国に行ったのも今のロット国に行ったのもまだ払ってないし、それが全部蓄積しての料金だろう。当然っちゃあ当然か。
金貨1枚を払い、お釣りをもらう。
「昨日と今日、本当にありがとな。俺もこんなに移動するとは思ってなかった。忙しい中、すまない」
「いいよ、別に。これが私の仕事だし、文句なんて一言も」
マイルさんは顔の前で両手を振る。許してくれることによって、俺は安堵した。
「じゃ、また今度頼む」
「任されたよ」
馬を連れて、マイルさんはロット国のどこかへ消えてしまった。
俺たちはギルドに駆け込み、受付嬢のいる場所へと急いだ。
「ど、どうされましたか? 今は非常に混み合っているので順番に並んでーー」
「今はそんな場合じゃない! 魔物の大群が押し寄せてくるんだ! 早くギルドマスターに合わせろ!」
「はあ……待ち時間が惜しいからといってそんな嘘……」
どうやら本気にされていないらしい。このままでは前と同じ結果になってしまう。どうすれば……。
「おや? サトルではないか」
丁度いいタイミングで、サンカーが現れた。シワだらけになった顔を笑顔を形に変える。
「よく来たな。どうやら、儂に話があるみたいだが」
その口調では、俺たちの会話を聞いていたのだろう。悪く言えば盗み聞きだ。
「ああ。和樹のことだ」
サンカーは首を傾げている。周りの冒険者たちの視線も集めてきてしまった。列に並んでいた冒険者からは睨みつけられている。
「取り敢えず、ここで話すのはダメだ。奥に行こう」
サンカーが誘う。俺たちは言葉に甘えて、ギルドの奥へと入っていった。
「さて、和樹やらの話だったか」
「そうだ。ところで、サンカーさんは和樹の存在を信じているか?」
「昔はいたと伝説で知っている。……その言い分だとお主は知っているのか」
「知っている。というよりも接触した。ミィトもその場にいたぞ」
「そうか……ミィト様も……」
サンカーは手を額に当て、悩んでいる様子だ。そして、その結論はかなり早めに出た。
「ミィト様がいうなら和樹は未だに生存していることになる。儂は、それを信じよう」
「随分あっけなく信じてくれるんだな」
「ミィト様が嘘をつくことなどありえないからな」
俺との信頼度の差が激しーーゲフンゲフン。
「それで、魔物の大群だったよな? その話も本当なのか?」
「和樹が言っていたことだ。今日から3日後に3000の魔物の大群がロット国を襲うらしい」
サンカーが目を見開くが、すぐに元に戻る。
「"らしい"と。いうことはまだハッキリしていないと」
「和樹が嘘をつくことだってある。もしかしたら明日来るかもしれないし、明後日かもしれない。ここが曖昧なんだよ」
あの性格なら嘘なんか平気でつくはずだ。和樹の言葉を鵜呑みするほど俺は馬鹿ではない。
「成る程……。では、早めに対策をとったほうが吉か……」
「俺も、その意見に賛成だ。冒険者をかき集めて対抗するのが一番マシな方法だしな。なにしろ数は前の10倍の3000だし」
「うむ。緊急クエストとして大々的に報道させよう。いや、できるやつから強制参加のほうがいいか」
その判断は間違ってはいない。なにしろロット国の危機だし、それくらいのことはしなければ国を守ることはできないだろう。
サンカーは、俺に視線を送る。
「ミィト様は何処へ?」
「他のギルマスを集めてくるっていって消えた。あの速さだし、明日くらいには戻ってくると思うぞ」
「いい判断だな。流石はミィト様だ」
ギルドマスターも戦ってくれる感じなのかな? でもサンカーさんは歳をとってるし……。
俺の視線に気がついたのか、サンカーは陽気に笑った。
「儂はいまでもピンピンだ。魔物退治くらい、どうってことないさ」
あ、なんかすいません……。
俺はこの瞬間、人を心の中で侮辱するのをやめようと固く決心をした。
「それにしても、和樹はこれほどの数の魔物を送り出して何がしたいのだ……」
「特定の人物を殺すためなんじゃないですか?」
それまで黙っていたシーファが、口を開く。俺の心が石のように重くなった。
「和樹たちは企んでいます。とあるユニークスキルを持った人は危険だと。そして、その人物を狙う和樹、魔王、死神が手を組んだとの情報もあります」
サンカーの目が、極限まで開かれた。
「魔王と死神が手を組んだ、か。死神はすでに復活していると聞いたが、こんなことになるとは予測していなかった」
昔、魔王と死神は敵対してたからな。和樹のユニークスキルを巡っての戦争だったか? 実にくだらない。とか言いながら、俺も狙われているわけなんだが。
「情報ありがとう。何故か分からないが、サトルは信用ができる」
「勘か? それだけで俺の情報を信じると」
「儂の勘はよく当たるのだよ」
サンカーは再び笑う。しかし、他人の笑顔を見ているだけでは俺の不安はかき消されない。
「サトル」
シーファが耳打ちしてきた。
「どうしますか? 和樹たちの狙いがサトルだってこと、話してしまったほうがいいのでしょうか?」
「……今はまだいい。その時ではない」
潔くシーファが俺から離れる。この会話時間は数秒程度だったため、サンカーも気にならなかったようだ。最後に挨拶だけして、俺たちはギルドの受付まで戻ってきた。仕事が早いのか、すでに『緊急クエスト』と書かれた紙が所狭しと貼り付けてある。
……いや仕事早すぎんだろ!




