第95話 変人扱いされた
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カゲマルの治療を終え、俺たちはロット国へ行く準備をしていた。このまま外で待っているマイルさんに乗せて行ってもらうつもりだ。こんな短時間に国を3つ移動することになったが……まあ許してもらえるだろ。
「悟様……」
声をかけてきたのはカゲマルだった。まるで親に叱られた子のように俯いている。
カゲマルは急に、ガッと膝をついた。周りから見ればカゲマルが俺にひざまづいている状態だ。何故こうなった。
「すまなかった。俺の勝手な判断で、悟様たちに危険な目を合わせて、さらには負けて…………。俺は、俺はーー」
どうやら勝手に飛び込んでいった責任感を感じているようだ。だが、そんなことで俺は怒るほど短気ではない。
「別に気にしてないぞ。逆に、カゲマルのおかげで和樹たちの行動がわかった。十分、役立ってくれた」
これは本心だった。
「だが、俺はーー」
「おい。そんなことでくよくよしている間に和樹が攻めてくるぞ?」
俺の言葉に、カゲマルは反応する。
「あいつに一泡食わせたいだろ? それは俺もシーファもミィトも同じだ。だから、一緒に行こう。俺は前もそう言ったはずだが」
「…………悟様、ありがとう」
カゲマルが深くお辞儀をする。顔を上げた時の表情はーーとても穏やかだった。
「おい悟。ロット国に行くんだな?」
ミィトが和樹の消えた場所を見続けながら、俺に声をかける。俺は小さく頷いた。
「行くつもりだが、ミィトはーー」
「なら、俺もついていこう」
言葉を遮られる。俺は少し不機嫌になったが、すぐに元に戻った。
「これは戦争だろ? ま、俺はお前らと一緒に行かないが。他の国のギルドマスターを集めてから集合することにする。だから、さっきに行っててくれ」
「馬車がなくてもいいのか?」
「は? 普通の人間なら馬車より速く移動することくらい可能だろ。逆に馬車なんかいらねーよ」
ええ〜。それ普通じゃないしまず人間やめちゃってるよね?
「……じゃぁまた後でってことか」
「そうなるな」
無表情で、ミィトが言う。
「俺はもう行く。少し準備に手惑いそうだ。ではな」
スッとミィトの姿が消え、俺の大気感知へも引っかからなくなる。とんでもない速さだ。
「絶対に……和樹を……!」
シーファが復讐心に燃えている。その心の中にはミライの意思だってあるだろう。
「俺たちも急ぐか。マイルさんを待たせちゃ悪いし」
「そうですね。シロ、行きましょう」
シロがシーファの胸に飛び込む。もう俺は何も言わないぞ。悲しくなんてないんだ。ないったらない。
そうして俺たちは一度ミストに会いに行こうとしたが……ミストの場所までたどり着けなかった。もう幻影で身を隠してしまったらしい。どうしてそこまで嫌がるのか。
「ミストもいないようだな。ここはもう先を目指した方がいいんじゃないか?」
カゲマルの問いかけに俺は答える。
「ああ。粘ってても出てくる気配がないし、ロット国に行くか」
深淵の滝を出て、マイルさんの馬車まで急ぐ。馬車が見え始めたところで、マイルさんが大きく手を振った。俺たちもふり返す。
「ほ、本当に戻ってきた……。深淵の滝から戻ってこられるなんて、未だに信じられないよ」
最初の一声がそれだった。俺は苦笑いする。
「あんまり魔物はいないしな。少し遅くなったが、これから無茶を言う」
「ん? 無茶って?」
「ロット国に行こうと思う」
マイルさんがあちゃーと言わんばかりに額を押さえる。無理だったら仕方がないため、徒歩で行く準備をしていたのだが……そんな心配はいらなかったようだ。
「わかった。でも、お値段は張るよ?」
「そんなこと百も承知だ。急ぎの用事だしな」
どうやらオッケーらしい。俺もまあまあ金を持っているし、相当お値段が高くなければ大丈夫なはず。たぶん。
「マイルさん、サトルが言ったようにかなり急ぎなのでそこはお願いします」
マイルさんが頷く。
「でもさ、ミィト様はどこに行ったの? もう帰っちゃった?」
「ああ〜ミィトは徒歩の方が速いとかぶっ飛んだこと言いながら瞬間移動に近い移動速度で消えていった。細かいことは言えないが……まあすぐにわかると思う」
「私もプライベートとかはあまり聞かないことにしてるからね。その時が来るまで待つことにするよ」
案外近いんだな。これが。和樹が攻め込んでくるのが3日後だから遅くても明日には冒険者の収集が始まるはず。もしかしたら今日すぐに始まるかもしれないし。ロット国だとしたら尚更だ。
馬車が動き出したところで何か違和感を感じた。それは俺の耳だ。テレビの砂嵐のように、雑音が聞こえてくる。こんなスキルは持っていなかったはずだ。
『…………ザー…………ザー……る……』
その中から声が聞こえた。
『……る…………とる…………サトル!』
俺の名を呼んでいた。馬車から身を乗り出し、あたりを確認するが誰もいない。耳からは苦笑の声が聞こえた。
「お前……誰だ?」
殺意を込めて言う。
『……よっと。よし、回線繋がったよ。全く、サトルのために残った力をフルパワーで活用しているのに、誰だとはどういうことなんだよ、もう』
幼い声だった。少なくとも和樹ではない。という分析をしなくても声の主がわかった。
「なんだ、パグか」
『漸くわかったみたいだね〜。でもさ、僕も完全に力がふっかぁーつしてないから長くは話せないよ』
俺はそこで首をかしげる。
「っていうかさ、神って俺たちがいる世界に干渉ができないんだろ? こんな念話とかしてていいのかよ」
『はは、だから長くは話せないって言ってるじゃん』
まさかこいつ……やりやがったな。
無邪気に笑うパグは、罪悪感を感じていないようだった。
『多分大丈夫だよ。見つかったら最高王神にぶっ潰されるだけだし』
なんかヤバ目の名前出てきたな。っておい! それお前死ぬじゃん! ダメやん!
『まあまあ。気にしないでよ』
うーん……。何か追求しても無駄だと思うし、ここは話を進めるか。
「で、俺に何か用か?」
『いや、ただの確認のための念話だよ』
「確認?」
『ほら、あの後僕が元気にしてるか気になったでしょ? だからと、く、べ、つ、に連絡してあげたんだよ』
一時も気になったことがないんだけど……。っていうか用件それだけかい。
『なんか今すぐ特大の岩を落としたい衝動にかられるけど……水に流してあげるよ。それで、用件のことかい? サトルの思っている通り用件はそれだけだよ。それが何か?』
「ん? あ、いや……まあ……ね?」
適当にはぐらかす。俺だってパグに勝てないし、スキルをくれたのもパグだ。気まぐれに俺からスキルを奪い取ってしまうかもしれない。反論する手は自虐行為だ。
『わかればいいんだよ、わかれば』
く、イラつく。
あ、俺の心読めるってことはわざわざ声出さなくても心の中で念じてればこれ通話できた感じ?
なんの意味もないパグとの通話を終え、後ろを振り返るとーー白々しい6つの目が俺に向いていた。
ーーやっちまったちくしょう!




