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第94話 和樹とカゲマル

 シーファの殺気が膨れ上がる。カゲマルはただただ目を見開き、和樹を凝視している。ミストは……言葉を発さずに視線を下へと落とした。そしてーー。


「和樹っ……!」


 シーファと同格ほどかそれよりも上の殺気を出しているミィトがいた。彼女(彼)は全てを和樹に奪われた。怒るのも当然だろう。


「和樹……様」


 カゲマルの言葉に、和樹は初めて反応を見せた。


「裏切られたやつに『様』付けされてもいい気持ちはしないなぁ。ま、別に僕は構わないけどさ、本当に僕を敬っているのかどうかなんじゃないかな?」

「敬う……」


 しばらく迷っていたカゲマルだが、決意を決めたようだった。


「俺はお前のような、くそ人間を敬うなんてことはもうやめた。もう2度と従わない! 今の俺の主人は悟様だ! 全ての魔物が苦しんでいるのも元はと言えばお前のせい……! ここで殺してやるっ!」


 カゲマルが地を蹴り、宙に浮いている和樹に迫る。剣を首元に差し出したが、呆気なく回避されてしまった。


 重力には逆らえず、地面に引き戻されていくカゲマル。しかし、着地したと同時にその姿が消えた。影の中に入ったのだ。


「はあ、いきなり襲いかかってくるなんて……。少しは驚いたけど、もう少しひねりが欲しいなぁ。例えば、僕の目の前でクラッカーを鳴らすとか。そういえばね、昨日は僕の誕生日だったんだよ。いやあ、クラッカーを鳴らされたら興奮するな〜」


 影に入ったカゲマルに警戒1つせず和樹は呑気に喋り続ける。そして、木の影を伝って上までやってきたカゲマルが、影から飛び出した。


「黒渦っ!」


 その手に渦が宿る。渦は剣に移動し、邪悪なオーラを放つ魔剣へと姿を変えた。前見たときよりも強くなっている。黒渦を乗っけることで強さを上書きしたのだろう。そして、魔族しか本領を発揮できない剣。カゲマルは魔族のため、剣の効果を発揮して攻撃力をガン積み状態で敵に迫れる。


 紙一重で避けられ、からぶる剣。いや、和樹はわざと紙一重で避けているのだ。


「くっ……」


 そのあとも空中にいる間、斬撃を繰り返すが、かすりもしない。それほど実力がかけ離れているのだ。


「……ま、この程度か」


 そこで初めて和樹が反撃に出た。一度距離をとり、何もない空間から細い剣を二本取り出す。右手に一本、左手に一本持ち、二刀流を完成させる。


「さあて、やりますか」


 右に振るわれた剣をカゲマルは防ぐが、力の差で吹っ飛ばされてしまった。そのあとを和樹が追いかける。流石に見ていられなくなり、俺はミストバードに変化した。


「サトル……!?」

「すまない。だが、カゲマルを助けなきゃ俺の心が死ぬ」

「そんなこと、私も一緒です。ついていきますよ」

「シーファ……ありがとう」

「僕も、ついていっていい?」


 おどおどした感じで名乗り出たのはミィトだ。迷っている暇はないため、俺は躊躇なく頷く。


 ミィトは地上から。俺とシーファは空中から和樹たちを追いかける。


 シロがムクムクと大きくなり、雷獣と化した。シロもMPが増えてきたので少しの間姿を維持できるようになった。俺は最後の確認で、ミストに声をかける。


「お前はどうするんだ?」

『……我はいかん』


 その答えだけで十分だ。今は急がなくてはいけない。


 シーファがローブを脱ぎ、姿を現した翼をはためかせた。俺も翼を動かす。


 霧の奥へ消えたカゲマルたちを追う。俺は大気感知を完全開放し、一息も見逃さずに慎重に散策する。


「グゥッ!」


 シロが鳴く。彼の嗅覚は俺の大気感知よりも長い距離を感知できるらしい。実に優秀だ。


「シロ、案内してくれ」

「グァ」

「ミィト、ついてこい!」


 シロの巨体が横を通り過ぎ、ある場所へと一直線に空を駆ける。その姿は神秘的で美しかったがーー今は見とれている場合ではない。下から俺たちを追いかけているミィトにも迷惑かけたくないし。


「ほら、行くよ〜」


 そして見つけたのは今にも剣をカゲマルの心臓に刺そうとする和樹だった。カゲマルは木に寄りかかっており、気を失っているのかぐったりしている。このままでは悪い結末を迎えてしまう。


 音を立てずに、かつ迅速に和樹へと近寄りルーゲラガスホーホーへと変化した。鋭い爪を広げ、首に迫る。


「うぐっ!?」


 見事に命中した。しかし、本能なのか知らないが直前で重心を奥に向け、俺の攻撃は肩を引き裂いただけで終わってしまう。


「あーあ。汚れちゃったよ」


 血が広がる肩を見つめて、和樹はふっと笑う。この状況でなぜ笑えるのかがわからない。


「でも、この傷と引き換えにいい情報がもらえたしね」


 出血が止まっていく。かなり深くまでえぐったはずだが、どうやら和樹は回復持ちらしい。


「魔物に変化かぁ……。おもしろいスキルを持っているね」

「……? お前は俺のスキルのことを知らなかったのか? 死神に俺のスキルを餌にして同盟を組んだのに?」

「あれ? そんなことまで知られてるんだ。ま、これも何かの縁だし話してあげる」


 どんな縁だよ。


 思わず突っ込みたくなりそうになったが我慢する。


「あれは適当に嘘を言っただけだよ。君からは何かオーラを感じていたし、普通の人とは思っていなかったからね。死神はルトサの能力のことを知っていたし。適当に言えば僕もそのスキルのことを知っていることになって同じものを狙っているということになるだろ? そして、あっさりと協力してくれるというわけさ。これが策略的計画だよ」

「俺のことを脇役呼ばわりしたのも、演技だったのか」

「ピンポーン。よくわかったね」


 と、いうことはこいつは最初から俺の強さに気がついていたと。


「でもね、最初は普通に弱い奴だと思ってたんだ」

「…………」

「でさ、僕の魔物を殺している時を見てたんだけど、ダークウルフを1人で倒してて何か違和感を感じたんだよねぇ。ま、そこからかな」

「氷結大爆発っ!」


 俺は和樹から距離をとる。突然のことに驚いたのか、和樹は目を見開いた。


 発射された魔法は和樹に命中する。和樹中心に大きな爆発が起こり、途端に全てが凍った。と、いうよりかは煙の中から無数の氷のハリが出てきた。煙が晴れるとその全貌が露わになる。和樹が中央で凍っており、その中心から360度氷の棘が突き出ている。触れただけで傷を負いそうな、鋭く尖った針だ。


「ミィト……」


 茂みから出てきたのはミィトだった。おどおどした雰囲気はなく、代わりに強い威圧が降り注ぐ。人格が変わったようだ。気がつけば、夜が明けていた。


「ちっ。逃したみてえだな」


 首元までしかないツインテールを揺らしながら、ミィトは舌打ちをする。


「ミィト、逃したってどういう意味だ?」

「そのままの意味に決まってんだろ。コレは偽物だ」


 ミィトが指を鳴らすと、氷が砕け散った。それと同時に和樹もいなくなる。


「ほらな。周りだけを削ったつもりが、すべて消えた。何かしらの魔道具だろ」

「逃がしたのか……」


 俺は歯ぎしりする。シーファも同じ思いだろう。


 ーーくすくすくす。


 どこかから笑い声が聞こえる。それは、上から聞こえた。剣を抜き、いつでも戦闘に入れるよう警戒する。


 そこには、木の上に乗った和樹がいた。


「いやあ、驚いたな。ミィトちゃん。こんなに強くなったとはね」


 相変わらずの余裕口調だ。気をつけているはずだが、腹が立ってくる。


「まあ、そんなことは置いといてさ。君に伝えたいことがあるんだ」


 和樹の指の先は俺に向いていた。


「……俺?」

「そうだよ。ルトサ、君だ」


 ここの名前は勘違いしたまんまなんだな。


「3日後、ロット国に魔物の大群を送る。それも前よりもはるかに強い魔物だ。数は……3000くらい」


 その場にいた全員の目が見開かれた。


「伝えたいことは伝えたよ。あ、やっぱもう1つ。そこには僕も居合わせている。そこで決着をつけようじゃないか、ルトサ」


 邪悪な笑みを浮かべ、和樹は手をひらひらと振る。まるで俺らを馬鹿にしているようだ。


「じゃ、また3日後に」


 そう言って、和樹は何もない風景に溶け込んでいった。あとに残されたのは、呆然とする俺たちだけだった。

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