表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/259

第93話 ミストとお話し

 もやもやとした幻影に囚われてしまった龍ーーそれがミストだ。毎回姿が変わり、色だって見当がつかない。しかも、自分ですら何年も姿を見ていないのだとか。


『…………』


 ミストは動く。何をしているのかよくわからないが、きっと立ち上がったのだろう。


『ーーそれで、何の用だったか?』


 シーファが前に出る。ミストが一歩、下がった。ズシンと大きな音がして地面が揺れる。


「魔王のことについて、聞きたいことがあります。それと、先程言った和樹のことも追加で」


 そこでシーファが眉をひそめた。


「……それなのに、どうして私を怖がるのですか? やっぱり、おかしな種族だからでしょうか」

『お前はーー』


 ミストの声が震える。


『お前は黙っていろ』


 面食らった表情で、シーファは後ろへ下がった。今までそのようなことを言われたことがないのだろう。俺が、すかさず援護に入る。


「その言い方はないだろ。何か恨みでもあるのか?」

『……其奴と離れたほうがいい』


 幻影の中で唯一見える、赤い眼光がシーファに向いた。


「何故だ? シーファは大切な仲間だぞ。それが、仲間でもなんでもないお前に指図されたたまるか」


 少しムキになってしまう。俺は心を落ち着かせようと、深呼吸を繰り返した。


『気をつけろ。本性を現すのが、いつかはわからない』

「何を言っている? 本性だと? ミライのことか?」

「おい、今回は喧嘩をしに来ているわけではない。悟様も落ち着け」

「すまない」

『ふむ……その声は、カゲロウか?』

「知っているのか?」

『かつて仲間だったやつの声は全て覚えている。其奴とはあまり交流はないがな』


 へえ、かなり熱心だったんだな。


「今は悟様に名前をつけてもらってカゲマルになった。カゲロウではない」

『そうか。と、いうことは魔王の命令も無効になったってわけだな』


 真紅に輝く目を細めて嬉しそうにミストは言う。


『我もそうだった』


 俺とカゲマルが反応した。


「じゃぁ、お前も名前をーー」

『つけてもらった。ミストという名をな』

「誰にだ?」


 今度はカゲマルが質問をする。


『……和樹だ』

「和樹が……。どうしてだ? あいつは魔王と協力しているはず。なのに、命令を背けるられるようにするって、自滅行為じゃないか」


 俺が言う。ミストはゆっくりと首を横に振る動作をした。


『我にもわからん。一度聞いたことがあったが、その時に「君は強いから」っと言い残していった。それで、今日は我の様子を見に来たというところだ』


 成る程。和樹から考えられる行動とすれば、ミストをわざと魔王の配下から外して自分の配下に置くということだな。使える時に利用しよう、と考えているかもしれない。


「でな、聞きたいことなんだが……」

『おっと。その話だったな。無駄話ばかりですまなかった』

「カゲマルから聞いたことだ。魔王と死神の関係性について、お前だけが知っていると聞いた。その情報をわけてくれないか?」


 ミストの目が大きく開かれる。そしてすぐに戻った。


『カゲマル……お前、何故それを知っている』

「影に入っていた時、お前が近くを通った。そして、結界を破って中に入っていっただろう。俺はこの目で見た」

『ほう。我が魔王の結界を破れるとでも思っているのか?』

「ああ。噂にも聞いていたが、ミストには結界破りの力があるそうだな。1ヶ月に一回だけしか使えないらしいが」

『……ちっ』


 それほどまでして話したくないのだろうか。ミストはさらに言葉を継ぐ。


『だが、我が中に入って魔王に見つからないとでも? 我のような巨体ではすぐに見つかってしまう』

「そこで、幻影を作るんだろうが」


 俺が横槍を入れた。ミストは言葉がつまり、その代わりに体を動かしていた。しかし、いい言い訳が見つからないらしい。最後に、小さく舌打ちをした。


『……わかった。話せば気がすむのであろう?』

「恩にきる」

『は、はあ』


 あれ? こっちの世界にはこの言葉は通用しないのか。失言だった。


『魔王と死神の関係性、だったか。確かに、奴らは昔敵対していた』

「なのに、何故」

『和樹のせいだ』

「和樹……?」

『そうだ。彼奴が囁いたんだよ。魔王には、

「楽しいことがあるよ。久々にいたぶりながら人を殺すチャンスだ。これに乗らないわけは……ないよね」

 といい、死神には

「僕のスキルはまだ発動しない。それよりも、もっと凄いユニークスキルを持っている奴がいるだろう? もう2度とないことだ。僕を待っている間に、他のやつを殺してスキルを身につけたほうがいいんじゃないか?」

 と、死神を仲間につけた。死神ばかりはこれは一時的なものかもしれないが、魔王はわからない。和樹は魔王の封印を解いた張本人だから、魔王は和樹の命令に従う。……と、ここまでで言った凄いユニークスキルを持った人とは誰のことかわかるか?」


 俺の顔が強張る。


「それは……俺のことなのか?」

『いかにも』


 ということは、俺はラスボス級の敵3人に狙われているということか? いやいや、魔王と和樹はわかるが死神は有効時な存在だった。で、他のやつを殺してスキルを身につけるってどういうことだ?


 俺の表情に気がついたのか、ミィトが説明してくれた。


「死神はね、人を殺したらその人が持っていたスキルを奪うことができるんだよ。これは死神特有のスキルで、スキル剥奪っていうらしい。あともう1つユニークスキルがあって、これは生命魔法。でね、ユニークスキルは特定の条件の時にしか奪えないらしいよ」

「その特定の条件って?」

「えっと……」


 ミィトはモジモジしている。きっと、知らないのだろう。


「ありがとう。十分役に立つ情報だった。ミストもありがとな」

『…………早く出て行ってくれないか。もう、同じ場所にはいたくない』


 何故ここまで俺たちを嫌っているのかはわからないが、やはり魔物と人間の関係なのだろうか。とか言ってても俺は魔族のカゲマルと共に行動しているんだが。


 取り敢えず、俺が集中攻撃されそうな立場に立っていることはわかった。なんで異世界に来てまでこんなにならなきゃいけないんだよ……。


 とか現実逃避している間ではないな。


「……!」


 ミィトの顔が突然驚いた表情に変わった。俺は小首を傾げる。


「わんっ!わんっ!わん!!」


 シロが激しく吠える。空中に、何か人影が見えた。


「和樹……!」


 そうーー人影の正体は、邪悪な笑みを漏らす和樹だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ