第91話 伝説
そして、数時間が過ぎた。ルーゲラ大森林で襲われることもしばしばあったが、ミィトもいたため敵ではなかった。そして、今はなんやかんやでルーゲラ大森林を抜けたところだ。もうすぐでエルシャルト国に着くというときに、マイルさんが声を出す。
「今回、誘ってくれてありがとね。まさかこんなに早く指名されるとは思ってなかった」
1日も経ってないしな。驚くのは無理もない。って、1日でエルシャルト国とチカ大国を往復する俺たちがヤバイのか。
「ふふ、ミィト様が私の馬車に乗ってくれるなんて、人生の中で一番幸せの出来事だよ。本当にいい思い出をありがとう。サトルくんたちのおかげだよ」
そこまで言わなくても……。ま、ミィトを誘ったのは俺だから否定はしないけどな。
「ところでミィト様をエルシャルト国に連れて行く気? あんまり深くは追求しないけど……よく誘いに乗りましたね、ミィト様」
「僕も僕で気になることがあるから……」
あとは俺の強制連行だな。気弱な性格のときに誘ったらもちろん断ることができない。前も言ったが罪悪感が半端ないのでこんな人格の人がいたらみんなはやめような。……誰に言ってるんだ、俺は。
「ミィト様の気になること……私もお供してもいい?」
お、マジで?これで移動が楽になるぞ。
「別にいいが行き先は深淵の滝だ。俺たちは中に入るが、御者は入れるのか? それと話についていけないと思う。今回は諦めてくれ」
そう冷たく言い放ったのは、カゲマルだった。てっきりこの言い方に腹が立ち、たてつくかと思ったがマイルさんは潔く諦めてくれた。
「わかった。……深淵の滝は私のレベルに合わないと思うし、その方がいいよね。無駄死にしたくないし、何か特別な用があるみたいだから邪魔はしないでおくよ」
おお、物分りがよくて助かるな!
「ありがとう」
礼を述べる。マイルさんは、「いやいや」と返す。
「でも深淵の滝の前までは送ってってあげる。私にできることはそれくらいだよ」
徒歩は面倒くさいし、感謝の言葉しかない。
「ありがとな。でも、あまり近づくのはよした方がいいぞ」
霧の中に巻き込まれたらもう戻ってこれないかもしれないし。
マイルさんは言葉の意味を理解したのか、後ろ姿でもよくわかるように大きく頷いた。
「その忠告、受け取っておくよ。……と、もうすぐ着くから用意しておいて」
窓からはエルシャルト国が見えていた。あと数分も経たないうちに到着するだろう。
「一回エルシャルト国に寄ってから深淵の滝まで行く感じかな? 私はどっちでもいいけど」
「……やっぱりここから深淵の滝まで直に行ってもいいか? 変更してすまない」
「いいよ。別に、エルシャルト国に行っても私は待つだけだしそれなら寄り道しないで行った方がいいよね」
マイルさんは快く了承してくれた。本当にいい人だ。
「深淵の滝へ行っても待つ気がしますが……」
シーファ、そこは突っ込まなくていいんだ。ちょっと黙ろ? ね?
幸いなことに(?)シーファの声は小さく、マイルさんに聞かれることはなかった。
「悟様。そのミストにまつわる伝説を知っているか」
カゲマルが口を開く。この件に関しては初耳だった。
「なんだ? ミスト自身はそんなこと言ってなかったぞ」
「それはそうだろう。ミストの知らない話だからな。ずっと滝の近くから離れないとは聞いている。だから、人間界の情報網がないのだ」
成る程なぁ。不便なところもあるのか。
「前も言ったが、俺は人間の街に一度だけ潜入したことがあるが、その時に聞いた話だ。聞くか?」
「ああ。よろしく頼む」
カゲマルは話し始めた。
「ミストは昔、どこかの村で守り神と讃えられてきた。侵入してくる魔物をすべて皆殺しにし、特有の力で雨を発生させ、農作物を育てた。村人はミストに厚い信頼を抱き、どんどん村を発展させて行った」
黙って聞いていたミィトの眉がピクリと動いた。しかし、口を挟む様子はない。カゲマルはミィトの表情変化に気がついているようだが、構わずに続ける。
「平和な村だった。だがーー」
一度息を吸い、カゲマルは告げた。
「突然の魔物の奇襲があった。いつもならミストが対処できるが、今回ばかりは違う。前代未聞、数千近くの魔物の群れだった。勝利はしたものの、ミストは激しい戦いに力を使い果たし滝の近くで眠り込んでしまったのだ。村人は大いに悲しみ、なんとか復帰させようと試みたが無理だった。そして、また魔物の群れが襲ってきた。今度ばかりは数十ほどの小さな群れだったが、この村にとっては最悪だった。ミストばかりに任せ、自分たちの装備もあまり調達できていなかったからだ。一瞬で村は壊滅ーーすべてが終わった。そして、その間ミストはやられないとばかりに幻の力を使い、滝の近くを霧で覆った。それが今の深淵の滝だ」
「そんな歴史があったんだな……。ミストもいいことをやったってもんだ。その村が好きだったことがよくわかる」
「……僕のーー」
俺が感想を述べたあとに、か細い声でミィトが呟く。
「僕の村……」
その言葉に、俺たちは息を呑んだ。
「ど、どういうことだ? ミィトの村って……今言った壊滅したっていう村か?」
「サトル、聞き方にもほどがあります」
「あ……すまん」
壊滅したという表現は悪かったな。ここはマジですまない。
「別に気にはしてないよ……。だって、昔のことだし」
「……重い空気の中失礼するけど、深淵の滝に着いたよ。まだこの中で話すのなら全然オッケーだけど……」
「いや、行かせてもらう」
俺は立ち上がった。
「みんな、行くぞ」
そして、無理やり全員を連れて行った。




