第88話 お手合わせ
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ギルドの裏にある広間は誰でも利用可能らしい。試しにお手合わせをすると言ったところ、受付嬢(前とは違う人)は微笑みながらどうぞ、と許してくれた。大惨事にはならないように願うばかりだ。
「ここ、お借りしてもいいですか?」
隣で剣を振るっていた男性に声をかけるシーファ。男性は快く場所を貸してくれた。
「では、位置についてください」
俺とシーファは向き合う。
「あ、カゲマルは俺がピンチだとしても手を貸さないでくれないか?これは一対一の本気勝負なんで」
影から返事は返ってこないが、多分大丈夫だろう。
「わん」
シロは何をしていいのかわからないといった様子で、俺に助けを求めてきた。
「……シロはそこで見ていてくれないか?少なからずどっちかの応援をしてくれたら嬉しい」
ーーわかった!
そんな感情が送られてくる。俺は頷き、再び真正面からシーファを捉えた。戦うと知った野次馬が集まってくる。こんな大勢が見てる中で戦わなきゃいけないのかよ……。
俺は剣を抜く。シーファも杖を構えた。
「わぅ〜〜ん!!」
シロの遠吠えが始まりの合図。俺はシーファに向かって動き出した。
「《風よ、我が身につき力を与えよ》風刃」
3つの風刃が俺を襲う。しかし、それらを全て剣で切り捨てた。勢いは殺さずに剣をシーファへと突き出す。シーファは軽やかなステップで俺を翻弄し、右へと飛びのいた。
再び距離を取られる。シーファは魔法型なので、距離を取られるということは俺にとってはかなり不利なことだ。まあ魔法も打てるが、あまりレパートリーがなく全て防がれてしまいそうで怖い。そこを考えると、剣で戦うしかないだろう。……今の所は。
「風刃!」
今度は詠唱なしで風刃が放たれた。それも九つ。今回ばかりは防ぎきることができなそうだ。
……変化、するしかないか。
俺は覚悟を決め、ルーゲラリトルベアーに変化した。周囲がざわついているが、気にしない。野次馬から攻撃を受けなければオッケーだ。
飛んでくる風刃を次々とかわし、最後の1つをジャンプして避け、空中からシーファを襲った。
「甘いです!」
さらに風刃。空中で動けないところを狙ってきた。ここでルーゲラガスホーホーに変化し、一気に上昇する。下ギリギリを風刃がかすめていった。危ない危ない。
安全だと確認したところで俺はミストバードに変化した。こっちの方が機動力はないが幻覚を見せられるというスキルを持っている。慣れていないため高度な技まではできないが、少し相手の気をそらすだけでもでかい。
早速幻影を使う。俺の位置が数十センチ右に見えるように設定した。そして、このままシーファに突っ込む。俺の位置を見誤ったシーファが風刃を出してくるが、それは幻影にあたり、消えていった。本来の俺の姿が見える。シーファの反応が少し遅れた。
「風ーー」
シーファの手前でルーゲラガスホーホーに変化し、爪で引っ掻いた。が、紙一重で攻撃を避けるシーファ。これは一筋縄ではいけなそうだ。
「あ、危ないところでした……」
シーファの目が本気モードになった。
「今から、全力でやらせていただきます」
そう。シーファは、未だ風刃しか使っていないのだ。つまり、まだ本気を出していないこと。それに、彼女が得意な属性は闇と風だ。どちらかといえば闇の方が強い。それに、ミライの力も借りていない。
「……俺も、もう少し本気を出すか」
シーファの魔力が高まっていく。周囲の魔導師たちが驚いた声を出していた。魔導師ならこの異常な魔力量がわかるのだろう。俺も対抗するように魔力量をあげる。
「あいつら、化け物だっ!」
心外な。
MP残量は……まだ余裕がある。部位変化をしても大丈夫なはずだ。
「闇球!風刃!雷球!」
な、何!?
闇球と雷球、そして3つの風刃が俺に向かって飛んでくる。俺は普通に変化し、ルーゲラフラワーになって身長が縮むのを利用して、魔法を避けた。地面に根を張り、魔力を吸い取る。あまり地面には魔力はないが、やらないよりかはマシだろう。
結構前に、遺跡で魔力を吸い取ったらものすごい一撃を出せたという思い出がある。これで2回目だが、果たしてうまくいくだろうか。
そのあとはひたすら避けまくった。どれだけ魔法を打たれても、全てかわした。シーファのMPは全く減っている気がしない。ここから考えると、MP量はすごいことになっているはずだ。
避けて、根を張って魔力を吸い取る。その繰り返し。そして、俺は覚悟を決め人間になった。
「いきます!暗黒世界!」
シーファの足元から黒いものが波紋状に広がる。あの中に入ったら最後、皮と肉を溶かされ骨だけになってしまう。流石にそこまでしないと思うが絶対に痛い。
後ろへ下がる。瞬間、風刃が飛んできた。
「くっ……!」
暗黒世界に注意がいっていたため、警戒が疎かになっていた。思わずしゃがんで避ける。ここから態勢を立て直すのは厳しい。2度目の攻撃が来る前に、なんとかーー。
避け切ったと思われた風刃が俺の背後で方向転換し、再び向かってきた。大気感知で反応し、剣を後ろへやる。それでも衝撃を抑えきれない。前のめりの態勢になってしまった。
風圧変化。シーファのスキルだ。飛来する魔法の軌道を変えることができる。でも、まさかまっ反対にまで軌道を変えられるとは思っていなかった。シーファも俺が態勢を崩したところを狙っていたのだろう。
「終わりです!」
シーファに近づいてくる。それと同時に、暗黒世界も俺の足元まできた。あと一歩シーファが動けば俺は負けることになる。
シーファが最後の一歩を踏み込もうとしたーーその時。俺は勢いよく背後の風刃を薙ぎ払い、火球を放った。
「……!」
ただの火球。いや、違う。俺が吸った魔力を全て込めた、全身全霊の火球だ。
シーファもその威力を見出す。そしてーー。
大爆発が起きた。熱風が俺を容赦なく襲う。だが、これくらいでシーファは死なない。心配することはないと思われる。
『火刃を習得しました』
俺は爆発の中へ突っ込んで行く。ここで大気感知は発動しない。爆発で息すら感知できないのだ。
熱を吸い込まないように注意しながら、俺はルーゲラガスホーホーに変化した。風を起こし、煙を飛ばす。地面にはクレーターが出来上がっていて、その中央にボロボロになった丸い土の塊があった。それを見て俺は全てを悟る。
「ウォールバリア、か」
防がれてしまった。……いや、ダメージは与えたようだった。
ウォールバリアが崩れ、顔を煤で汚したシーファが出てくる。まだ勝負はついていない。
「ミライ!」
シーファの様子が変わった。ミライに体を貸したのだろう。
「小娘、やるゾ」
シーファの口が動く。いや、正しくはミライの口が動いたのか?
「はい!」
シーファとミライは体を貸しあい、殺気を出してきた。ただならぬ気配を感じ、思わず身構える。
風を切る音。シーファは俺の前に移動する。そして、手を突き出した。それに合わせて後ろへ飛び退く案も生まれたが、これが魔法だったら飛びのいても意味はない。勝負に出るしかなかった。
剣を、シーファの首元に振り下ろす。シーファは動じず、突き出した手からは魔法陣が生まれた。魔法陣は地面に落ち、俺の足元に広がっていく。
ーー間に合うか?
シーファの行動は速く、まだ剣が首にたどり着いていない。
ーーいや、間に合わせるっ!
足元の魔法陣が黒く光る。邪柱だ。圧倒的な攻撃力を持つ邪柱は、MP消費も多い。最後の方に出してくるということは、シーファのMPはこれで使い切るのだろう。
ーーもっと速く!もっと、もっと!
数秒だったが、俺には数時間ほどに感じられた。シーファの首に、剣が到達する。その首をはねる寸前で、剣を止めた。シーファも丁度魔法陣の準備が整い、発動するギリギリで止めている。
「引き分け……だな」
「そうみたいですね」
俺は剣をしまい、シーファは魔法陣を破棄した。すると、周りから歓声があがる。
「すげぇ!こんな白熱した戦い初めてだ!」
「そこの嬢ちゃんもやるじゃねえか!俺、感激したよ!」
「にいちゃんも、魔物に化けた時は驚いたがめちゃくちゃ強いな!」
称賛の声がやまない。シーファは照れたように、顔を赤くしていた。俺もやった甲斐があったてものだ。
その中で、ひときわ大きい拍手が鳴った。冒険者たちはざわめき、左右に道を開ける。歩いてきたのはーーミィトだった。




