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第87話 散策

「何をしていたのですか?」


 ギルドから出て早々、シーファに聞かれる。俺は適当にはぐらかした。


「まあ、あれだな。依頼とかを見てたんだ。懐も寂しくなったなぁって」


 大根芝居だった。不自然に目が泳ぐ。俺の不得意発見。


「へぇ」


 白々しい目で見られる。とりあえず口笛を吹いてごまかした。


「まあまあ。それくらいでいいでしょ?遥々とここまで来たんだから疲れてるはずだし、今日は一旦休んだほうがいいよ」


 ミィト優しい!


「そうですね。何をしたかは後で問い詰めるとして……」


 シーファ怖い!


「私が宿の代を支払ってあげる。でも、一回だけだからね?」

「ああ、わかってる。ありがとな」


 そう礼を返し、俺はミィトから宿のお代を貰った。本当に優しい。


「集合場所はここ。ギルドの中で待ってるから、7時くらいには来て欲しいな」

「了解だ」

「せっかくだし、チカ大国を回ってみてみたら?きっと面白いものがあるよ」


 確かに、初めて来た国だし歩いて回るのも悪くないだろう。食べ歩きもできるし、楽しいことづくめだ。


「じゃぁ俺たちは街を散策するか。それでいいか?」

「異論なしです」


 と、いうことで俺たちはミィトと一時的に別れて街を歩いてみることにした。


「そろそろお腹が空いてきました。サトルは……空いていますね。馬車でそんなにおいを漂わせていましたし」


 やっぱ気づいてたか……。俺隠し事してもすぐバレるやつだろ。


「シ、シーファは何が食べたい?」

「………」


 あ、シーファってずっとルーゲラ大森林で暮らしていたから食というものがあまりわからないのか。そりゃ木の実くらいしか食べてないもんな。今思うとよく生きてられたなぁ。


「……適当に探すとするか」

「はい、そうですね!」


 数十分ほど歩きまわり、漸く手頃な価格の屋台を見つけた。


「へいらっしゃい。朝とれたてのロイヤルフィッシュだよ。にいちゃんたち、食ってくかい?」


 おじさんが話しかけてくる。屋台の中には火で炙られた魚が食欲をそそる匂いを出していた。思わず唾を飲む。おじさんはロイヤルフィッシュを手に取り、俺たちに差し出してきた。


「ほらよ。ウチはな、初めての客さんには無料で一本提供してやるんだ。遠慮なく食えや」

「……いいのか?」

「おうよ。にいちゃんイケメンだし、今のうちに腹一杯食っとかなきゃモテる前に死んじまうぞ?」


 彼はガッハッハと豪快に笑った。俺はロイヤルフィッシュの刺さった串を受け取り、シーファに渡す。おじさんからもう一本貰って、かぶりついた。


 ……脂がよく乗っている。それに、何かのタレがかかっていた。醤油に近いか?このタレの旨さがまたロイヤルフィッシュの味を引き立てている。うん、美味い。日本の魚とはどこか違った味だったが、充分に楽しめた。


「おじさん、ありがとな。今度また買いにくるわ」


 今度がいつかはわからないけど……。そう言ってエルシャルト国の屋台も全く行ってないしなぁ。結構待たせてるぞ、あれ。


「次からはしっかりと払ってもらうぜ?」

「ああ。美味かったぞ」

「そう言ってくれると元気が出る」


 おじさんと別れ、俺たちは食べ歩きを繰り返した。肉を食べ、米のようなものを食べ、デザートを食べ。腹が一杯になったのは言うまでもない。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日、俺たちは6時前に起きるとすぐに身支度をして下へ行った。ミィトの姿は見当たらない。まあ、1時間前だし当然っちゃあ当然だろう。


「どうする?もう一回寝るのは少々気が控えるし……」


 少し考え、シーファが何か思いついたような声を出した。


「前、サトルは私のことを鑑定できないって言ってましたよね?」

「ん?それがどうかしたのか?もしかしてミライに許してもらって鑑定ができーー」

「それはないみたいです」


 ダメなんかい。言って損したわ。


「鑑定ができないのなら実戦をすればいいじゃないかって、今気がついたのです」

「実戦?」

「はい。戦えば、私の力もわかってくるかもしれませんし」

「そんなことしないでミライに許可してもらったほうが早いんじゃないか?」

「それはミライが嫌と言っているので仕方がありません。私自身では鑑定遮断を解除することはできませんし」


 まだ俺はミライに信用されてないってか。こんなに一緒にいるのに?……会話したのは一度だけど。


「……まだ1時間も余裕があるし、やってもいいぞ。だが、あまり体力は使うなよ?」

「そんなことわかっていますよ。サトルと本気でやりあったらここら辺が壊滅します」


 でしょうね。


「で、その実戦はどこでやるんだ?」

「馬車でくるときに見たのですが、ギルドの裏の方に大きい広間みたいなのがありました。その真ん中は開けていて、特訓している人たちがいたのでもしかしたらと思いまして」


 そんなのがあったのか。


「よし、行ってみるかな」

「ふふ、手加減はしませんよ?」


 だからここら辺が壊滅するんだって。


 あれ?これ俺不利じゃね?


 俺は気がつく。


 人が沢山いるから変化もできないし十八番の聖柱だってここら辺が壊滅するし火球雷球連打だけじゃシーファ倒せる気がしないし……。必中5%使ってもわからないよね?え、負ける。


「どうしたのですか?」


 いつまでたっても動かない俺に、シーファが怪訝そうに詰め寄った。


「あのな、俺結構不利だと思うんだけど」

「不利……?あ、変化のことですか?別にばれたっていいじゃないですか。どうせ世界最強を目指しているなら追々バレることですし、恥ずかしがることもないですよ。私だってサトルに元気をもらったので」


 爽やかスマイルでシーファが言う。


「そこまで言うならなぁ……」


 確かに目立つのが嫌いな俺でも世界最強となれば勇者よりも目立つことになる。勇者がどこにいるかは知らないしあったこともないが多分勇者よりも目立つ。大事なことだから二回言ったぞ。


 と、いうことは……。俺は目立ち嫌いを克服しないといけないな。くそ、神はなんという過酷な試練を受けさせる気なんだ……!


(ちょ、なんで僕のせいになってるの!?)


 何処かからパグとかいう声が聞こえたような気がするが、うん。気のせいだと思う。


「さて、行きましょう!」


 シーファはやる気満々だ。俺もやるしかないかぁ。

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