第85話 ルーゲラシャーク
飛びかかってくるルーゲラシャークを剣で突こうとしたが、何かいけないものを感じて刀身を引っ込めすぐに回避した。横を通り過ぎていくルーゲラシャークの口からは酸が出ている。体内に酸があるとすれば、あのまま突っ込んでいたら剣を溶かされていただろう。
後ろを振り向き、ルーゲラシャークと向かい合う。相手は口を大きく開け、威嚇してきた。俺は構わず冷静に剣を構える。
しばらくたっても威嚇は止まない。いや、これは威嚇ではない!
身の危機を感じ、思わず剣で前を防御する。瞬間、ルーゲラシャークの口から光線が放たれた。
「ぐっ……!」
衝撃のせいで多少後ろへと下がったが、そこからは力で押し返し、光線を弾き飛ばした。
「流石に腕にきやがる……」
最大の力を出したため、腕に疲労が溜まってしまった。剣で戦うのはキツイかもしれない。なら、魔法で戦うまでだ。
新しく習得した魔法を試すのも丁度いいと思うし。
光線を打たれそうになった時は取り敢えず突っ込んでみるか。チャージの時間が長いようだし、その間身動きがとれないといったらかなり好都合だ。そこで切り捨て、あっという間に勝負をつけられる。
しかし、切り札を見せた上もう一度使うには判断が下らなかったのか相手は光線を打とうとはしなかった。まあ、それはそれでいい。今、ルーゲラシャークの背後にシーファが近づいている。すきあらば攻撃してくれるはずだ。その間に、なんとか動きを止めなければ。
「《雷よ、我が身につき力を与えよ》雷球!」
目の前に雷の球が浮かび上がり、ルーゲラシャークの元へと勢いをつけて向かっていく。しかし、これくらいは楽に避けられる。そこで俺は必中5%を使う。
『1分間だけ、命中確率が5%跳ね上がります。成功すると、敵に攻撃がついていきます』
時間制か。だが、上等!やってやるよ!
『必中5%(未完全)を発動しました』
よし。これで後は魔法を連射するだけ。
「シャアアアァァァ!!!」
あの1発だけで攻撃してこないと思ったのか、ルーゲラシャークは飛びかかる。俺は一歩も動かなかった。身がすくんでしまったのではない。ただ、もう1人の存在を信じていたからだ。
「風刃!」
ルーゲラシャークの背後から、風刃が飛んでくる。突然のことに反応できなかったルーゲラシャークの尾が切断された。
「シ、イィィ!!」
喘ぎながらもルーゲラシャークは俺に届く前に着地する。完全にシーファの存在を忘れていたようだ。
血だまりが広がる。混乱している魔物に、俺は何発もの火球を放った。流石におびただしい量の火球を見て我に帰ったのか冷静にかわして接近してくるルーゲラシャーク。そして、最後の1つをかわし終えたーーと、思われた。
「ジィ!?」
かわしたはずの火球が方向転換をしてルーゲラシャークにぶつかる。すぐに炎が広がり、相手は火だるま状態になってしまった。
「ジイイィィィィィィッッッ!!!」
もがくルーゲラシャークだが、そう簡単に火は収まらない。むしろ、俺が追撃を加えてますます火の勢いが強くなる。そして、全てが終わりルーゲラシャークは灰になって消えてしまった。
風に乗り空の彼方に消えていくかつてルーゲラシャークだったものを見つめ、次にシーファを見た。
「ナイスだった、シーファ」
「サトルも火球の連射、良かったですよ」
で、後はマイルさんが戦っているルーゲラシャークだが……。
いい感じで戦えていた。ルーゲラシャークの攻撃を盾で防御し、隙あらば剣で殴りかかっている。剣の腕はまあまあだった。ま、俺もここにきて少ししか立たないから何も言わないほうがいいな。うん。
どうやらカゲマルも少しは援護したみたいで、周りに黒い焦げが残っていた。これはマイルさんがやった魔法ではないだろう。見た感じ剣士だし。
「援護する」
横からルーゲラシャークを切りつけ、俺は2度目の戦闘に入った。
俺の攻撃を感知し、絶妙に避けたルーゲラシャークは口を大きく開ける。はたから見れば威嚇だが、一度体験してしまった俺はこの動きの意味を知っていた。
足に力を入れ、駆け出していく。間に合わなそうだったので、止むを得ずルーゲラウルフに変化した。
一直線に地をかけ、ルーゲラシャークの目前まで迫った。鋭い目を丸くして、慌ててチャージを止めようとするルーゲラシャークだったが、遅い。俺の爪に引き裂かれ、絶命した。
元の人間に戻り息をつく。全力疾走したものだから辛いものは辛い。
「ええっとね……色々聞きたいことはあるんだけど……。まず、サトルくんは敵じゃないよね?」
魔物に変化したことか。俺は白状することに決めた。
「それはそうだろ。敵だったらこの馬車ごとすぐに壊してるぞ」
「じゃぁ魔法で魔物になった?」
「それも違うな。ああ、ここからは個人情報だからあまり踏み込まないでほしい」
「……わかった。後、時々私の影から魔法が撃たれてた気がしたんだけど、気のせいだったのかな?」
「いや。俺の仲間が援護してくれていた。ほら、出てこい」
マイルさんの影からカゲマルが姿を現す。マイルさんは一歩後ずさり、剣に手をかけた。まあ普通の反応はそうだろうな。カゲマルは魔人だし。
「待て待て早まるな。実際、マイルさんを助けてたのはそいつなんだぞ?恩を仇で返してどうする」
少し経ち、納得したような表情でマイルさんは剣から手を離した。
「確かに、考えてみればそういうことになる。っていうか、ここで戦っても勝てるわけがないし無駄に争ってもね」
「理解が早くて助かる」
頭をさげる。流石にシーファの翼を見せるわけにはいかないだろう。この話とは全くと言っていいほど関係性がないし。見せるとしてももっと有名になってからだな。
「まあそういうことだ。俺たちはマイルさんの敵ではないから安心しろ。もう1つあるが、ここで俺が話したことは絶対に誰にも話すな」
コクコクと何度も頷くマイルさん。俺たちを敵に回したらどうなるのかがわかっているのだろう。
「あ、カゲマルは影に入っていてくれ。いつもすまないな」
「いや。前にも言ったように影入りはそこまでMPを消費しない。心配は無用だ」
「マイルさん、あまり長居していると他の魔物が寄ってきてしまうので」
俺とカゲマルが喋っているのを見て、マイルさんは驚いていたがシーファの言葉にハッとなり俺たちを馬車に乗せてくれた。そして、チカ大国へと向かって馬は走って行った。
復活しました。




