第82話 ルーゲラガスホーホーの群れ
ルーゲラガスホーホーは規則正しい寝息を立てていた。見た目はフクロウだが、その翼の羽は赤黒く、時々発光している。ルーゲラとついているやつは大体この特徴を持っている気がするな。ルーゲラベアーだってそうだし。
身長は1メートルほど。翼を広げたらもっと大きく見えるだろう。鋭く尖った嘴は刺すことだけを磨いてきたと錯覚するほどだった。足の鉤爪も恐ろしく伸びている。普通の人なら胸を刺されて心臓の機能を失ってしまうだろう。
俺は剣を抜き、フクロウの前の心臓へと突きつけた。そして、一気に押し出す。血が吹き出て俺の手を濡らしたがもうこんなことは慣れっこだ。
「ホ、ギ………」
やっと目を覚ました時にはもう遅い。ルーゲラガスホーホーは絶命した。
『ルーゲラガスホーホーを倒しました。経験値860獲得。レベルが51に上がりました。ルーゲラガスホーホーに変化することが可能になりました』
そして久しぶりの変化追加。これは嬉しい。ミストバード以外の空を飛べるやつだ。
「終わったぞ」
討伐部位を剥ぎ取りアイテムボックスに入れた。これは王様から特別に貸してもらった。依頼が終わる24時間までの間だけ俺に渡してくれた唯一の救いだ。これがなかったら俺たちは両手に袋を下げてよちよち歩いていただろう。
ミストバードの翼をしまう。見張りをしていたシーファたちにお礼を言った。
「わん」
シロが何かをくわえている。
「ん?くれるのか」
「くぅーん」
シロがくれたものは、魔物の死骸だった。ぷるぷるしている。あ、これスライムだ。
「自分1人で倒したのか?」
「わん!わん!」
「シロったらすごいんですよ。突然現れたスライムを一瞬で倒したのです。不意打ちにも慣れているみたいで、優秀です」
シーファに褒められて嬉しいのか、シロは甘えた声を出す。その横ではカゲマルが眉をひそめていた。
「何か臭くないか?」
「……確かに、変な臭いがしますね」
シロも苦しんでいる。そして、6つの目は一斉に俺を見た。
「え?俺!?」
「臭いです」
「酷っ!?」
「いや、悟様じゃなくてその手のやつだ」
俺の手に握られているものは!ルーゲラガスホーホーの翼だ。臭いを嗅いでみると、とてつもない悪臭が鼻の奥まで入っていった。
臭い!くっさ!
「よく自分で掴んでいて平気でしたね……」
「流石は悟様といったところか?」
異端の目で見られる。ちょっ、そんな目で見ないで!
『ルーゲラガスホーホーは体の一部を切られると悪臭を放ちます。その由来で、名前にガスがつきました。この臭いにつられて仲間のルーゲラガスホーホーがやってきます』
は?鑑定さんマジで言ってる?それって結構やばいんじゃーー。
……!?
大気感知で感じられた、ルーゲラガスホーホーの呼吸が周りに15。息遣いは荒く、かなり怒っているように分析できる。それも、俺たちは見事に囲まれていた。
「くっ……!」
俺は目配せをし、警戒を促した。それに対し事情を飲み込んだシーファたちは小さく頷く。
「ホルッッ!!」
1匹の声を合図に、大量のルーゲラガスホーホーが飛び出してきた。
「カゲマルっ!シロも連れて影に潜って隙を伺え!シーファは俺とルーゲラガスホーホーをぶちのめすぞっ!」
「承知した」
「わかりました!」
「わん!」
カゲマルはシロを連れて俺の影へと潜った。シーファが手に宿らせた黒い渦で敵を殴る。ステータスを見ると、状態異常の場所にHP減少と書かれていた。ほんの少しずつ相手のHPが減っていっている。これは攻撃を与えなくても弱らせられそうだ。
俺は最初から本気で、変化を駆使して攻撃を加える。小回りのきくルーゲラリトルベアーになり、相手を攻撃していった。
「ホ、ホギイィィィィ!!」
ちまちまと命を蝕んでいくことに腹が立ったのか、一羽のルーゲラガスホーホーが雄叫びをあげる。すると、相手は一斉に空へ舞い上がり、俺たちの攻撃の届かない場所へと移動した。
「いけ、シロ」
「わぅん!」
影からシロが飛び出し、雷獣へと姿を変える。そして、ルーゲラガスホーホーたちに雷を落とした。
「ーーホギイ!?」
予想外の攻撃に驚き、フクロウたちは体を焦がしながら落ちてきた。それもかなりの高度があるため地面に落ちた時には体は粉々に砕け散るだろう。
しかし、奴らは俺の思っていたよりも上だった。
地面すれすれで急旋回をし、翼を広げてシロに襲いかかるルーゲラガスホーホー軍団。その嘴がシロの足に深々と刺さった。それも複数。苦しそうに呻きながらもシロは身体中に電気を流し、その流れに乗って無理やり嘴を引き抜いた。真っ赤に血が溢れ出す。そこでMPが切れたのか、シロの体が縮んでいった。
「シロにヒールを頼ーー」
大気感知で迫った攻撃を感じ、しゃがんで回避した。俺の防具が金属音を立てる。それも背中だ。爪を突き立てたのだろうが、俺には無効。傷すらつけられない。
そう油断していたのが悪かった。防具を攻撃しても無駄だと感じたルーゲラガスホーホーは俺の首を落とそうとしていた。ハッとなったが、もう遅い。その嘴が俺の首を貫通しようとした時、影からカゲマルが飛び出した。剣を持ちその首を切る。あと数ミリというところでルーゲラガスホーホーの首が地面に落ちた。安堵の息を吐き、カゲマルに礼をいう。
「今は目の前のことに集中する。礼を言うのは生きて帰った時だけだ」
そう言って、カゲマルは二羽ほどのルーゲラガスホーホーの注意を引き、戦い始めた。
「……ああ。わかったよ」
小さく返事をする。
背中から迫る攻撃を避け振り向きざまに首を落とす。そのままシロのいる場所へヘッドスライディングを決める。ぐったりとしているシロを抱きかかえた。手が使えないと悟ったルーゲラガスホーホーたちは、俺をターゲットにして襲いかかる。これが数の暴力というものだろう。しかし、相手は1つ選択を間違えた。そうーーシーファの存在を忘れているのだ。女性だからといって、少ししかダメージを与えられないと思った敵は、先に俺を狙った。それが間違いだったのだ。
すでに詠唱が完了していたシーファに、気がつくのが遅かった。
「暗黒世界っ!!」
瞬間、シーファの足元から黒いものが波紋状に広がり、ルーゲラガスホーホーの場所まで一瞬で到達した。そして、強い重力で引っ張られたように下へと張り付く。やがてその体から皮がはがれ、肉が剥がれ、骨だけになった。
そしてーー。
そこには血すら残らなかった。
「こっちも終わった。今回は本当に災難だったな」
カゲマルが歩いてくる。二羽の首は落ちていた。シーファにシロのヒールを頼み、シロはすっかりと元気になる。
……とはいえ、俺、あんまり活躍できなかったなぁ。
骨を見つめ、俺は思う。それを何かに勘違いしたのか、シーファは慌ててこう言った。
「討伐部位ならありますよ!?ほらーー」
地面から吐き出されるようにきちんと11羽分の討伐部位が出てきた。便利だ。
「あ、ああ。ありがとな、シーファ。それに、カゲマルも」
俺はシロの頭を撫でる。
「シロも、よく頑張ったな」
「わぅわぅ」
甘えた声を出すシロ。思わず微笑んでしまう。
「また集まってこないうちにここを離れましょう」
「そうだな。はやくエルシャルト国に戻って王様からアイテムボックス貰うか」
借りパクしてもいいけど一生普通に暮らせそうにないからやめよう。
因みに骨はきちんと地面に埋めた。
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