第81話 はめられた
「よく来たな。今日はなんの用事だ?」
笑顔を崩さず王ーークラウスは言う。
「アイテムボックスを返しに来た。図鑑も全て読み終わったしな」
「おお、ご苦労様」
「その代わりと言っちゃあなんだが、麻袋でもいいからくれないか?俺ばっかりもらってることになるが……」
「いやいや。構わんよ。アイテムボックスをアイテム入れに使うのは普通のことだ。逆にそれくらいでいいのか?其方が望めば何袋でも麻袋ぐらい用意できる」
「………」
アイテムボックスが欲しいなぁ。欲しいなぁ。欲しいなぁ。くれないかなぁ。
「その目……アイテムボックスが欲しいときたか」
流石。よく空気が読める。それで、お答えは……!
「其方も冒険者。それも昔の儂とそっくりだ。いいだろう、アイテムボックスを授けよう」
キターーー!!!
「ーーと、言いたいところだがアイテムボックスはかなり高価でな……一袋買うだけで光銀貨30枚はいる。それに、此方も少し困っていることがあってな」
「そ、それを俺たちが解決すれば……!」
勢いに乗せられ、思わず言ってしまう。シーファはいち早く俺を止めようとしていたが、遅かった。クラウスの目が光ったのは言うまでもない。
「言ったな?なら、やってもらおうじゃないか」
「あ」
漸くことの重大さを知り、反論しようと口を開くが惜しくもクラウスに遮られた。
「実はな、ルーゲラ大森林でルーゲラガスホーホーが大量発生した。このままではこの国に害が及ぶ可能性もある。腕のある冒険者はお前しかいないんだ。今、チカ大国で緊急クエストをしていてBランク以上の冒険者はいないのだよ……。だから、頼んだぞ」
「え、あ」
バタンッ!
そして城の外に追い出された。
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「……ったく。無茶を言う」
冒険者ギルドへ向かう途中、静寂を破るべく俺は呟いた。しかし、それは自分の首を絞めることになる。
「後先考えずに返事を返したのはサトルでしょう?私の制止も聞かず、まんまとはめられて私は呆れましたよ」
「すまない。こればかりは本当に不覚だった。次からは気をつける」
「次からは気をつけるって……次があるかもわからないんですよ?結構前にも説明したと思いますが、ルーゲラガスホーホーというのはですね、夜になると元のステータスの10倍強くなって、相手から襲われたらその人が死ぬまで追い続けると言われているんですよ?どうやって勝つんですか!?」
「って、そう言ってる割にはシーファもやってくれるのか」
「っ。こ、今回だけですからね!」
ツンデレか。
「その時の会話はうっすらと覚えているんだが、昼は簡単に倒せるんだろ?その時に狙えばいいんじゃないか?」
「確かにそう言いましたけど、ルーゲラガスホーホーの巣を探すのは大変です。地中の中、木の上、水の中に毒ガスの漂う場所。耐性が強いため、どこへでも住めるということで有名なんです。それをどうやって探すのですか?」
「ふっ。大丈夫だ」
「……その言い方、なんだかイラつきますね」
「………」
そうこうしているうちに、冒険者ギルドに着いた。俺たちの姿を見つけると、受付嬢のミーノが疾風の如く近寄ってくる。
「サトル様とシーファ様じゃないですか!?良かったです……戻ってきてくれて……」
本当に嬉しかったようで、少し涙ぐんでいた。
「私、心配でした。ロット国に行った限りなかなか戻ってこなくて。でも、こうして会えて本当に良かった……!」
「う、うん。俺たちも忙しかったからな。心配かけてすまなかった」
すると、ミーノは頬をパッと赤く染めた。なんで?恥ずかしいことでもあったの?
俺は理解しようとしたが、やがて無理だと諦める。
「一回挨拶に来ただけだ。これから、チカ大国に向かう」
「その前にちょっとこの人がやらかしてルーゲラガスホーホーを討伐することになりましたけど」
シーファが横槍を入れる。ミーノはポンと手を叩いた。
「そういえば、陛下からサトル様指定依頼が届いていましたよ。それじゃないですか?」
ミーノに紙を持ってきてもらうと、そこにはルーゲラガスホーホーの討伐10匹と書かれていた。わかりやすいようにシーファの顔が引きつる。ミーノも申し訳なさそうにもじもじしていた。
「陛下は気に入った人を見つけると無茶苦茶な依頼をすぐ出して困惑させるのですよ……。相手が王様なので意見は言えないですし、ここはお願いします!絶対に生きて帰ってきてください!」
「ああ。まかせろ」
そう返し、俺たちはルーゲラガスホーホーを討伐するためにルーゲラ大森林へ向かった。心底面倒くさそうなため息を何度も吐いているシーファはまだむくれている。
ルーゲラ大森林って危険な場所ベスト3の中に入ってるんだっけ?そんなこと言ってたよね?
『ベスト3がルーゲラ大森林、ベスト2がチノ大草原、ベスト1が果ての大地です』
ふぅーん。ベスト2のチノ大草原で死にかけたのにまだ上があるのか。でも果ての大地は荒れ果てすぎて誰も住んでいないとかなんじゃないの?
『はい。そうでしたが、一万年前から強力な魔物が湧いてくるようになりました』
絶対和樹じゃん。あの野郎、一万年前から何してるんだよ……。
「それで、先程言っていた『大丈夫だ』とはどういう意味ですか?」
「俺の大気感知だったらすぐ見つけられると思ってな」
「大気感知……確かに、それならルーゲラガスホーホーを見つけられそうですね」
俺は大気感知を完全開放し、呼吸の音、空気の揺れ、全て見逃さずに反応した。隣でシーファが息をしているので少し調べにくいが。
「……魔物の息だな。それも、この頭上だ」
そして見つけ出した魔物は、木の上に巣を作っているようだった。
「きっとルーゲラガスホーホーですよ。木の上とは、一番探しやすいところで良かったです」
「俺は飛べるから、ここで待っていてくれないか?」
「分かりました」
「あと、カゲマルとシロも頼む」
「わん!」
「承知した」
カゲマルが俺の影から出てくる。シロはシーファに飛び込み、それを彼女は見事にキャッチする。胸の前でシロを抱え、にっこりと微笑む。嫉妬しながらも、俺はミストバードにーーって、部位変化とかできたよな?羽出せるのかな?
念じると、俺の背中から翼が生えた。それは見るからにミストバードの翼で、向こう側の景色が見える。……もう、シーファたちは驚いていなかった。
空へ飛び、気をくまなくチェックする。そして数分後、やっとお目当のものを見つけることができた。
「見つけた……!」
まさしく、巣で眠るルーゲラガスホーホーだった。
来週の日曜日と月曜日は投稿できませんm(__)m
最近不定期ですみません……。




