第80話 王との再会
エルシャルト国に着いて、真っ先にしたことはカゲマルを陰に入らせることだ。いつか彼にも肌を隠すローブを買ってやらないとな。
「王様に会いに行くぞ」
「わかりました」
大きな城の門の前に立ち、どう入ろうかと悩んでいると、隣にいた門兵が話しかけてくれた。
「お前ら、前この城に入ったことがあったよな?」
「おお、覚えてくれてたのか。俺は王様にアイテムボックスと図鑑を返しにきた。通してくれないか?」
「一応ギルドカードを見せてくれ」
俺は水色のカードを渡し、門兵の了承を得て広い庭を一気に横切った。
またまた大きな扉。ここにも兵が2人いた。事情を察してくれたらしく、ギルドカードを見せて荷物検査をされた後でにこやかに扉を開けてくれた。と、その時。
「貴方たち、待ちなさいよ!」
大気の揺れを感じ、反射的に横へ飛び退くと、俺が先ほどまでいた場所にパンチが繰り出された。風を切る音からして、受けたらかなりのダメージを食らうだろう。今のは避けておいて正解だ。
「なっ!?どうして今のを避けられるの!?」
金色の髪の毛をストレートにおろし、服は派手なドレス姿。こいつ、どこかで見たような気がする……。
「その顔……まさか私を覚えていないでも!?」
「そのまさかだが、覚えてないんだよ。どこかであった気はするんだけどなぁ……」
「貴方、私の可愛い護衛をボコボコにしてなにを言うのですわ。このサリア・リン様を忘れるなんて、なんていう貧乏家なの?」
護衛……。ボコボコ……。
「あ」
「やっと思い出したのね?間抜けにもほどがありますわ」
「護衛に戦わせて自分は戦わないで王に怒られてさっさと退散したあいつだな、お前」
「何その言いよう!?どうやら、私を侮辱した罪で死にたいようですわ。私だって戦えることを証明してやるわ」
なんやかんやとごちゃごちゃしている間に、リンは剣を構えていた。もうドタバタすぎて意味がわからないが、ここは戦う以外選択肢はないだろう。くそ、なんでこんなことに……。俺なんも言ってないだろ……。
「サトル?これどういうことですか?よくわからないのですが」
「俺にもよくわからんがとにかく倒して目を覚まさせる」
一度戦った時に、変化を見せてしまったんだよね。だから、ここでは全力で力をぶつけられるってわけよ。
「私を侮辱した罪で死ぬといい!いきますわ!」
だからなんだよそれ。
俺が心の中で鋭く突っ込んでいる時にはすでに相手は動き出していた。俺がとっさに剣を構え放たれた斬撃を受け流す。そして、横薙ぎにくる攻撃をしゃがんで避けた。
しゃがんで避けるとかなり隙ができる。そのことをリンは知っていた。ここぞとばかりに斜め切りで俺の行く手を遮りそこを狙う。後ろへ飛び退くこともできず、しゃがんだばかりで足に力が入らない。かといって上からくる攻撃を受け止めるのもかなりのパワーが必要だ。これこそ絶体絶命。だと思われた。
ここで変化を使うんだよ!
剣が体に当たるギリギリでミストバードに変化。スッと俺の体を通り抜け、からぶった剣は勢いを殺せずに地面へ当たってしまった。
「な、なに!?前はこんな魔物には形を変えられなかったはずなのに……!」
確かに、俺は前ルーゲラベアーとルーゲラウルフとルーゲラフラワーにしか変化してない。前よりも俺だって成長している。他の魔物の立ち回りを知っていても、知らない魔物ーー深淵の滝にいる未知に包まれた魔物のことはわからないだろう。
「図鑑で見たやつだわ!こいつ、ミストバードね!」
正体を知っていても、実戦したことがないためリンは苦痛の感情に顔をしかめた。戦い方がわからないのである。
「うっ」
一度後退し、出方を伺っていたリンに変化が訪れた。口を押さえて今にも出そうな悲鳴を押さえている。足はぶるぶると震え、少し小突いただけで倒れそうな姿勢になっていた。
その様子を見て、俺は首をかしげる。流石にやりすぎてしまっただろうか。もちろん、いまのは俺の仕業だ。幻覚で地面から1000匹のムカデが現れるように見せていた。これは女子にとって悲劇の光景だと俺は思う。いや、俺自身もそんなの見せさせられたら発狂するけどさ。
「これで懲りたか?」
リンは首が取れそうなくらい何度も頷いた。俺は変化を解く。同時に、リンに見えていた幻影も消えたようだ。へなへなと崩れ落ち、尻餅をついている。
「じゃぁ、俺たちは先行くぞ」
「こ、今回は譲るわ。でも、この借りは絶対に忘れませんわ!いつか返すのですわ!」
謎の敵意を見せて、震える足でリンは去って行った。ため息をつき、シーファとシロの元へと帰る。
「わう、わうん?」
ーー大丈夫?
そんな感情が送られてくる。俺もだいぶ理解できるようになった。
「大丈夫だ。見ての通り、1ダメージもくらってない」
傷が付いていないことで、シロとシーファは安心したようだ。安堵の息をついている。
「よし、行くか。って、シロは入って大丈夫なのか?」
「いえ、別にいいですけど、その種族なんですか?」
ここには犬という動物はいないのか?ウルフとかはいるのに?
「まあ、犬っていうやつだ。賢いから人を襲うことはない。ほら、お手」
シロが俺の手に前足を乗せる。「な?」といった感じで兵を見ると、彼も納得したように頷いた。
「それでも人を襲ったら責任は取ってもらうことになるぞ」
「わかってる」
「わん!」
俺たちは兵に連れられ、城の中に入った。そして、王の間へと案内してもらう。
「ここだ。身勝手な行動は慎んでもらう」
「ああ。ありがとな」
扉をノックする。
「入っていいぞ」
ゆっくりと扉を開けると、大柄の男ーー王が温かく迎えてくれた。




