第78話 見えない道で
朝早く起きて、俺たちは崖の中の洞窟へと足を踏み入れた。薄暗く火魔法を使わなければ前が見えない状態だ。普段なら松明か何かを持ってきて通るのだろう。
壁は丸石でできていた。かなりボロついていていつ崩れても文句は言えない。ここを通るのはハイリスクたが、冒険者たちも使っている道らしいのでまあ崩れることはないだろう。
「俺のMPが……」
少しずつではあるが減ってきている。なにしろ火球を手の上に常時出し続けていて、俺は明かり担当になっていた。その様子を見てシーファがグッと親指を立てる。
「火魔法が得意なのはサトルしかいないので、ここはしょうがないのですよ。なので、頑張ってくださいね!」
カゲマルの方を見ると。
「俺も闇魔法が専門だ。本当に薄暗い闇球なら出せるが、火球の方が明るい。消費MPも同じだということで効率的には火球の方がいい」
「ぐっ」
論破された。
「わん」
シロも俺を責めるように鳴く。うう、わかったよ。やればいいんだろ。
ここで道が2手に分かれた。俺は一度立ち止まり、どちらへ行こうかと悩む。
「どうした」
怪訝に聞いてきたカゲマルに、俺は返した。
「いや、だって道が2つあるだろ?」
「俺には右に曲がる道しか見えない」
「え?私にはちゃんと2つ見えますけど」
どういう原理かわからないが、カゲマルにだけ見えてないらしい。これって転生者にしか見えないみたいなやつ?でもシーファには見えてるし……。どういうことだ?
「シーファってルーゲラ大森林の遺跡を知ってるか?」
「は、はい。知ってますよ。なにしろ散々歩き回ったので」
やっぱり。
「シーファは……、転生者か?」
「いえ。そのテンセイシャは知りませんが多分違うと思います」
シーファは本当に困惑した表情で答えた。これが演技だったら一流女優になれるだろう。それほど彼女は嘘をついているように見えなかった。
今度パグにあった時に聞いてみよう。何かわかるかもしれない。
俺は左の道に手を伸ばした。透明の壁などなく普通に歩むことができる。カゲマルを見ると、彼は目を丸くしていた。その手が刀に伸びている。
「壁に吸い込まれて……!?誰だ!?悟様を襲ったやつは!」
あ、そう見えてるんだ。
「おい。俺は大丈夫だ」
「だが……」
「大丈夫ったら大丈夫だ。カゲマルには見えないのかもしれないが、俺たちには見えてるんだ。ちゃんと、左に続く道がな」
「信じ難いのだが、悟様が言うなら……」
カゲマルは俺の元に近づき、手を伸ばした。しかし、その手は俺に届く前に透明の壁にぶつかり止まってしまった。
「カゲマルはこれないのか」
「そうみたいですね」
シーファは何事もないように歩いてきて、俺の隣まで来た。
「わん!」
シロも同じだ。難なく俺の真横でお座りをした。シロも転移者だからいけるのか。
「じゃあ、カゲマルはここで見張りをしてもらえないか?誰かここに入れるやつが来るかもしれない」
「承知した」
彼は地面の中へ潜って行った。ここは洞窟なので、完全に暗くなったら全てがカゲマルの攻撃の届く場所になる。ここなら大体の魔物が来ても対処できるだろう。まず、壁の中に入る魔物がいるかはわからないが。
「頼む」
一言放ち、俺たちは道を進んだ。
「何かありますよ」
少し開けてきたところで、地面に落ちている何かにシーファが気がついた。
「……指輪?」
拾い上げたものは、指輪だった。シーファの目の色と同じ水色の宝石が火球を反射してキラキラと光る。
「私にも貸してください」
シーファに渡す。彼女はじっくりと指輪を見て、呟いた。
「……え?魔力を込めろ?」
シーファは俺を見る。
「ミライが魔力を込めろと言っていますけど、いいですか?」
「爆発とかおこらないだろうな」
「ミライは安全だと言っていますよ」
そう言い、シーファは魔力を込め始めた。10秒ほど経つと、いきなり指輪が自ら光り輝く。ちょ、本当に爆発とかしないよね?
「きゃっ!」
短い悲鳴をあげ、シーファが尻餅をつく。指輪は手から離れたが、空中に浮いたままだ。もちろん俺がやっているわけではなく、ひとりでに浮いている。
指輪はさらに光り、その輝きが立体で円を作り出した。それはどんどん平べったくなっていき、最後にはワープホールのような光の壁になる。吸引力もあり、近くの小石が吸い込まれていった。
「一体どうなってんだ……」
「サトル!この中、入れます!」
シーファが顔を光の中に入れ、叫ぶ。これ罠だったらどうするんだよ……。真っ先に死んでるぞ。
「何がある?」
「いえ、石造りの床、壁、天井。それ以外何もありません。ですが、密閉された空間なのに何故かあたりが明るいです」
「このワープホールが光ってるんじゃないのか?」
「こっち側は黒いので発光はしてないです」
「魔物はいないんだな?」
「はい」
なんかシーファにだけ危ない目に合わせているような気がして、俺は心が苦しくなった。そして、次の瞬間には光の中に首をつっこむ。確かに、内装は全て石造りと殺風景な風景だった。特に何もなく、うん。本当に何もない。
「なんで指輪がこんな場所に繋がってるんだ……?」
俺が思考を巡らせている中、シーファは眉をひそめていた。
「サトル……この風景、どこかで見たことがある気がします」
「そうなのか?遺跡の中とかじゃないのか?」
「いえ、他のどこかです。でも、思い出すことができないんですよ……」
まあ、今は知らなくてもいいだろう。時期に思い出すはずだ。
「とにかく何もないってことでここを出るか」
俺たちが首を引っ込めるとワープホールは縮んで行き、元の指輪に戻った。今回は空中に浮くこともなく、虚しく地面に落ちる。俺はそれを拾い上げ、アイテムボックスへと入れた。
「よし、カゲマルのところへ帰るか」
これは後でミィトに見てもらおう。
「わかりました。それにしても、いい体験ができました!」
「わふわふ!」
嬉しそうに言う1人と1匹に苦笑しながら俺は元来た道を戻った。




