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第76話 友達

 隠し魔法陣から幸塔の中に潜入する。暗い道を進み、大きな扉が見えてきたところで俺は足を止めた。


「どうしましたか?」


 もう目の前にある扉に手をかけない俺を見て、シーファが急かすように言った。


「少しあたりを警戒してくれ」


 その言葉で何が起こっているのか大体理解できたシーファが杖に手をかける。俺もすぐ剣を引き抜けるように手を添えた。


「ほっほ。気づかれてしまうとはな」


 陽気な声で背後から登場したのはサンカーだった。彼はおじいちゃーーケフンケフン。立派なギルドマスターだ。もうはっきり言うがおじいちゃんの割にはかなり強い。前温泉でステータスをのぞかせてもらったことがあるが、俺よりも遥かに上だった。そして、成長している今の俺よりも確実に強い。HPは50くらいで負けており、MPは完全に勝っているが。でも攻撃や防御、素早さと魔法がボロボロに負けてる。前みたいな成長期があれば追いつけるかもしれないけど。


 俺たちが警戒を解くとサンカーは躊躇なく近づいてきた。俺の影(見えてはいないが)から何かが飛び出す。


「怪しい老人め、悟様に近づくな」


 恐ろしいほどの殺気を出しながらサンカーに忠告を出すカゲマル。止めようと思ったが、相手も一度俺たちを脅かしてきたしこれくらいはいいだろう。危なくなったら止めればいいし。


「魔人か!?何故人間の街にってお主の連れか?」


 理解はや。


「これくらいで儂を驚かそうと?面白いこというな」

「くっ、引っかからないか」


 面白そうに談笑する俺たちを見てカゲマルは混乱していた。シーファに事情を聞き、漸く納得したカゲマルは俺の元へやってくる。


「何も知らない俺を弄んだのか?悟様」

「あ、いや、そういうつもりでは……。すいませんでした」


 俺は土下座して謝った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ミィト様に会いに来たのか?それはご苦労様。魔物退治に行った後だというのに」

「で、ミィトはいるのか?」


 ミィト様って……。そんなに敬えられてる存在なの?


「お前さんは大体だな。これまででミィト様を様なしで呼ぶ奴は初めてだ」

「偉い人なのか?」

「知らないのか?ああ、転生者だったよな」


 俺は心の中でかなり驚いていたものの平静を装って言葉を返す。


「どういう意味だ?確かに俺は転生者の村山和樹のことを話しにきたのだが……」

「全て知っている。ミィト様に聞いたものだからな」


 もう知られているのか。なら、ミィトは鑑定持ちということで確定だな。


 サンカーが知っているとしたら他のギルマスも知っている可能性は高い。そこらへんで言いふらしたりしてないかな?特にあのヒョロ男。口軽そうだし。


「口外はするなとミィト様直々に言われている。みな、逆らうやつはいないだろうよ」


 それなら安心だ。みんなミィトにはビビってた感じだったからな。


「話は戻るがミィトとはどういうやつなんだ?」


 ま、俺は俺だ。今更『様』をつけたりしない。


「姫だ」

「……は?」

「だから姫だ」

「……はぁ?」


 あいつ姫だったの!?どうりでギルドマスターも『様』付けしていることだわ。今思ったけど普通人に『様』なんてつけないからな。そんなやつ特殊なだけだ。


「悟様、今変なこと考えたか?」


 カゲマルの察しが怖い。


「姫ってなんですか?」


 今まで1人で生きてきたシーファはそこから。


「姫がこんなところでギルドマスターやってていいのかよ!?」


 本日2回目の俺は俺。


「まあそこなんだがな……。彼女にも色々と事情があるということだ」


 そう言われれば俺が追求することもできない。郷に入っては郷に従えというのでここは俺が折れよう。


 ……狙って言ったわけじゃないからね?


 気を取り直してミィトの居場所を聞く。


「ミィト様はチカ大国へと戻った。次ここに来るのは5ヶ月後だぞ?」


 え?マジで?


「塔はこの大陸のギルドマスターが交代して泊まることになっておる。大陸には5人のギルドマスターがいるが––––まあ、お主は知っているか。何度かあったもんな。で、その儂らが1ヶ月ここに寝泊まりして交代で責任をとるということだ」

「そんなに守りたいものでもあるのですか?」

「大人の事情というところだ。あまり聞かないでほしい」

「……」


 そこでカゲマルが前に出た。


「和樹様のことを知っている者なのか」


 サンカーは表情1つ変えずに淡々と告げた。


「儂は知らん。まずそのカズキというやらに興味がないからな」


 顔のシワを寄せて陽気に笑う老爺。俺は驚いた。まさかサンカーまでもがカズキの存在を知らないなんて。下手したらミィト以外のギルドマスター全員知らないかもしれない。


「そうか……」


 俺のテンションの下がりっぷりにサンカーは何か間違ったことを言ったのかと思考を巡らせている様子だ。カズキの存在を信じない限りカゲマルの質問には答えられないと思うが。


「ミィトのいるチカ大国はどこにあるんだ?」

「それなら一度エルシャルト国に戻るといい。そこで身支度をしてルーゲラ大森林を越えるとチカ大国だ。儂の気配を感知できるお主ならルーゲラ大森林を抜けることは容易いと思うがな。でも、絶対に夜には近寄らないようにするのだぞ」

「ありがとう。そうしてみる」


 俺は礼を述べて塔から出た。すかさずカゲマルが影に入る。


「それで、もうチカ大国に向かうのですか?最初の目的地はエルシャルト国ですけど」

「いや、1人挨拶に行きたい人がいる」

「誰ですか?」

「テックだ」


 シーファは首を傾げている。しかし、すぐに思い出したのかハッとした顔になった。


「ミライが言っていますけど、魔除けの腕輪を作ってくれた人ですね?こんな私のために無料で腕輪を提供してくださったすごい優しい人でした!」


 力を封印されたミライはきっと今頃シーファの心の中で愚痴を言ってるに違いない。っていうかシーファそれなりにテックを尊敬してるんだな。


「ここに腕輪があります」


 ローブの裏のポケットから大事そうに腕輪を出す。シーファは俺にそれを渡し、俺はテックの家へと向かった。


 扉を叩くと返事が返ってきた。俺は中に入る。相変わらずのポーションの瓶や中身が散乱している部屋だった。


「やあ、君たちか。元気だったかい?獣人のお嬢さんも」


 彼はシーファが鳥獣人だということを知っている。


「魔物からは解放された?」

「いや、色々あってな」


 俺はシーファに促す。シーファは前に出て話し始めた。


「––––ということで、私がミライに協力する代わりに力を貸してもらうことになったのです」

「じゃあ、その腕輪は必要ないんだね」

「はい。話が早くて助かります」


 俺は部屋の端でその会話を見ていた。だって、入るところないし俺の話すことなんて1つもない。なら見ていたほうがいいって話だ。


「ありがとう」


 シーファから渡された腕輪を近くにあった机の中に入れテックは笑顔を見せた。


「これからボクと君たちは友達だ!」


 突然のことに俺とシーファは首をひねる。


「こんな関り合い、運命の出会いに違いないよ。だからそのお祝いとして今日は昨日完成したポーションをあげるよ」


 俺に駆け寄りテックは青色のポーションをくれた。それをアイテムボックスに入れ軽く頭をさげる。


「何かわからないことがあったらボクに聞いてよ。とは言っても化学とかそういうことしかわからないけどね……。役に立てたら嬉しいよ」

「そうか、よろしく頼むな」


 俺に言われてさらにテックは気を良くしたようだ。満面の笑みで俺たちに微笑みかける。


「ボク、友達がいなかったからさ……嬉しいよ。こんな()()()()()を認めてくれるなんて」

「ん?落ちこぼれ?何を言ってるんだ?」

「え?」


 テックは目を丸くした。そして、俯いて今までとは比べ物にならない小さな声で呟く。


「ボク、研究に打ち込んでいて何もしていないように思われていてさ……。だから医者として頼られたことがないんだ」


 俺たちここに来るとき有名な医者はどこにいるかって聞いたよね?それがなんで落ちこぼれの家––––ああああああああああ!!!!!!!!


 俺が聞いた人、有名の意味を間違えて聞き取ったんだな!落ちこぼれで有名のテックと本当に有名な医者を間違えたのか。


 まあ、いいや。友達は友達ってことで了承しよう。


「これからよろしくな、テック」

「うん!」


 俺たちはテックの家を出る。カゲマルから指示があり路地裏までくると影から彼が出てきた。


「悟様……聞き難いんだが、転生者とはどういう意味だ?」


 あ。

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