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第71話 またまた魔物退治 4 (((o(*゜▽゜*)o)))

 強っ!俺よりもはるかにレベルが上なんだが。しかも人間並の知能はあるし……。これは完全に鬼に金棒ってやつだな。勝てるかどうかわからない。変化を使っても完全に勝敗が見えないぞ。


「行くぞ、人の子」


 カゲロウが動く。どこから出したのか、黒い剣を横切りでふるってきた。


「……!」


 少し驚きながらも冷静に回避する。一旦距離をとり、その剣を再度確認した。


「俺と同じ剣……?」

「正確には俺が作った剣だ。だが、お前には使いこなせない」

「どういう意味だ?俺の剣術が甘いとでも?」

「それもそうと言える。しかし、それは魔王の配下でなくては使えない剣。つまり、お前は真の力を発揮することができない」


 そうだったのか。


「見せてやろう、俺を侮辱した罪のことを謝りながら死ぬがいい」


 すると、カゲロウの魔力が膨れ上がった。見えるのではと錯覚してしまうほどの魔力だ。それらは全て剣に注がれ、紫に近い邪悪なオーラが噴き出す。俺は最後に1つ言った。


「シーファを返せ。そうしたら、俺たちは何もしない」

「何も、しない?」


 カゲロウの眉がピクリと動く。剣を握りしめた拳は怒りでプルプルと震えていた。


「散々和樹様の魔物を殺しといて何を言う?そんなうわごとで俺が騙されるとでも思ったのか?」


 どうも怒りが抑えられないのか、カゲロウは剣を勢いよく横に振った。怨念のようなオーラを辺りに撒き散らす。突風が巻き起こった。


「あれはロット国に攻めてきたから殺したんだぞ?完全に逆ギレじゃないか」

「魔物は人間の敵。どうしてそうなっているんだ?俺たちは何もしていないはずなのに……」

「ん?それはどういう意味ーー」

「何もかも知っているくせに、ごちゃごちゃとわめくな。そうやって俺たちを殺そうとしているのだろう?そのために囮をとったのだ。あいつは俺の意思でなくては影から出ることができない。いや、中から破ることもできるがあんなか弱そうな女子に敗れることはできないだろう。どうだ?完璧な思考だろ?これが人間たちが無知だと罵ってきた魔物だ」


 確かにこいつは賢い。だが、1つだけ間違っていることがある。


 それは、シーファを低く見積もりすぎたことだ。彼女は女だとしても俺ほどの力を持つ。いや、下手したら俺も負けるくらいだ。ミライの力を借りれば内側から破ることも簡単だろう。あとはいつシーファが目を覚ますかだ。シーファなら自分の置かれている状況にすぐ応じてくれるはず。たぶん。だから、それまで俺が耐えなければいけない。


「……考え事をしているみたいだが、もう時間は与えない」

「そうみたいだな」


 カゲロウがまっすぐ剣を構える。俺も深呼吸をし、相手の攻撃に対応できる位置へと剣を移動させた。


 すっと相手の姿が消え、大気感知にかからなくなる。このとき、彼は影の中に潜っているため呼吸がないのだろう。だから感知できないのだ。なので、気配しか頼るものがない。


「っ!?」


 脊髄に激痛が走り俺は前に吹っ飛ばされた。しかし、空中で態勢を整えて地面に着地する。前にはすでに剣を構えて突っ込んでくるカゲロウがいた。俺はカゲロウの剣を受け止めるが、圧倒的な力に一瞬で押し負けされてしまった。


「くっ……!」


 相手の力を利用して後ろへ下がる。カゲロウはその隙も見逃さずに、槍のように剣を突き出した。が、俺には届かない。ように見えた。


 剣のオーラが俺の腹めがけて飛んでくる。柔らかく飛ばすものだと思っていたため、少し油断する。だが、オーラは予想以上に硬く俺の体を楽々と持ち上げた。カゲロウが剣を上に突き上げると、俺の体も中に浮く。そこをカゲロウが突きに行った。俺もその突きを許さない。咄嗟に剣を後ろに回し攻撃を回避する。これは大気感知で感知できるものなのでよかった。


 俺は靴の効果で宙を蹴り離れた場所まで移動した。カゲロウはそれも御構い無しといった感じでさらに攻めてくる。一度距離をとった俺には対応できる速度だ。しかし、一歩でも間違えれば死の道へと直行する。仕方ない。俺の切り札を使うか。


 わざとよろける隙を見せて、相手が攻撃してきたところでルーゲラフラワーに変化する。急に目標を失ったカゲロウは僅かながら混乱した表情を見せる。そこが命取りだ。


 俺を探そうと背中を向けた後ろから、ルーゲラベアーとなった俺の拳が迫る。地獄突きだ。


 大量の炎を纏ったパンチは見事カゲロウにあたり、風を巻き起こして何十メートルも先に回転しながら吹っ飛んでいった。何本も気をへし折り、数本目でようやく止まる。それでもカゲロウは立ち上がった。


「驚きだな。これで立ち上がったやつはいない」

「ふ、これで俺がその記念すべき1人目だな」


 カゲロウの剣のオーラも消えている。魔力を使い果たしたようだ。今の状態では影に入ることもできないだろう。


「………かっこよく言ったが、俺にはもう戦える力はない。殺せ」

「その前にシーファを出してくれないか?」

「そうだったな」


 カゲロウの影からシーファが姿をあらわす。相変わらず気絶したままだ。俺はすぐに駆け寄り、彼女の状態をチェックした。鑑定を使ってもなにも状態異常にはかかった様子はない。俺は安堵の息をつくと、カゲロウの方へ向き直る。


「殺せ、人の子。煮るなり焼くなり好きにするがいい」

「俺の名前は悟だ。嘉村悟」

「冥土の土産というものか。いいだろう、覚えてやる」

「冥土の土産?お前はなにを言っているんだ?」


 俺は呆れたように首を横に振る。カゲロウは目を見開いた。


「なら、俺をどうする気だ?奴隷にして売りさばく気か?」

「違う」


 即座に否定し、俺は深呼吸をした。


「俺と来い。それが命令だ」


 極限まで目を開くカゲロウ。まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったのだろう。


「俺がお前のそばにいるとして、いつ裏切るかわからないだろう」

「その時は全力で止める。それでいいはずだ。お前は俺のことが嫌になったら逃げ出せばいい。また戦うことになったら全力で相手をしてやる」


 カゲロウはふっと息を吐き出した。


「変わっているな。人の子。いや、嘉村悟よ」


 流石は和樹についていたやつだ。日本人の名前の発音が完璧。シーファでさえ少しずれているところがあるのに。ま、ほとんど違和感ないくらいで言えてるけど。


「悟でいい。それで、くるのか?」

「そう……だな。だが、悟と和樹様は敵対しているお前の身に何かが起こっても知らないぞ。お前が死んだらすぐに俺は和樹様の所に戻る」

「それはどうだろうな?」

「……どういうことだ?」


 俺は和樹に会ったときを思い出し、彼の性格であり得ることを1つ声に出す。


「一度敵に負けたらあれは手放す態度だぞこりゃ。今からお前が戻ってもどうせ突き放されるだろう。それか、実験台ように殺されるかどちらかだ」


 あの性格ならあり得る。人のことを駒にしか思っていないような人だ。躊躇もなく右腕にしていたやつだって殺すかもしれない。


 俺の言ったことに心当たりがあったのか、カゲロウは身震いをした。そして、口を開く。


「……確かに、悟の推測は間違ってはいない。いや、当たっているだろう。俺は絶対に手放される。なら、新しい主人が必要になる」


 そこでカゲロウは俺の目を見て両手を挙げた。


「俺の負けだ。悟の知能には負ける。新しい主になってくれ。これは俺からの願いだ。絶対に裏切るということはしない」


 目は本気だった。俺は優しく笑う。


「一緒に行こう」

「ああ」


 握手を交わし、ここに新しい仲間が誕生した。


 そして、数分後にシーファが目を覚ました。

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