第69話 またまた魔物退治 2 (o^^o)
魔物退治って書いてありますけど今回は魔物を倒しません。次は倒します。
冒険者たちに追いついた頃には、すでにラギ森林が目の前にあった。ユリガは冒険者たちの前に立ち、話を進める。
「遅れてしまってすまない。……では、ラギ森林に入り込む。ここは強い魔物はあまりいないと言われていたが、気を抜かないでくれ。もしかしたら魔物の大群がいるかもしれないからな」
その言葉に、俺たちは真剣に頷く。実際に一回龍を見たのだから、その話は信憑性もある。あ、でも俺たちギルドに龍を倒したって報告してないよね?あの後塔に行ってミィトと話をして昔話を聞いて……。色々とごちゃごちゃしていたから覚えてないな。ミィトの話は覚えているけど。
「それでは、前進っ!」
その言葉で冒険者が動く。雄叫びをあげて、全員ラギ森林へと突っ込んでいった。
「やはり、焦りすぎですね」
「そうだな」
そのスピードに反して、俺たちはゆっくりと歩く。今回は別々だし見た魔物を殺していけばいいからな。それにそんなに多く殺したらまた注目されそうだし。
ラギ森林に入り、大気感知を完全開放して奇襲に備える。大気感知は魔力を消費しないからいい。だが、いつもびんびんに発動していると周りの情報がわかりすぎて落ち着かなくなるから俺は本来の5分の1ぐらいで日常生活を過ごしていた。
「どうですか?」
魔物の感知はあまり得意ではないシーファが聞く。俺は首を横に振る。
「いないな。結構いると思ったが、あの大群で全て出し切ったか?」
「そうだといいのですが……」
「お、反応があるぞ。ここから50メートル先だ。息使いからしてゴブリンだと思う」
「わかりました」
シーファは腰から杖を取って構えた。俺も剣を持ちいつでも対応できるようにする。
「あれあれー?」
すると、聞き覚えのある声が響いた。そいつは正面からやってくる。黒髪で見ただけでもわかる完璧な日本人だった。
「また来たの?それも今日は大勢の仲間を引き連れてるじゃないか」
「………」
和樹。1人目の転生者だ。前もここで会ったことはあるが、特に何もなく帰って行ったのを思い出しす。
「何しに来たの?依頼の討伐対象が僕だったりした?」
おどけたような表情でそういう和樹。横でシーファの殺気がむくむくと膨れ上がるのを感じた。
「一週間前の魔物が大量発生した件は知ってるのか?」
「ああ、あれね。たくさんいたけど、それがどうかした?」
そこで和樹はポンと手と手を叩く。
「わかった。その魔物の調査って感じでしょ?面倒なことになったなー。っていうか、あれだけの数がいれば勝手にロット国は滅亡すると思ったのに。長い期間をかけてせっかく召喚したのに、残念だよ」
「……!お前がやったのか!?」
「あれ?知らなかったの?そのくらいは突き止められているって思ったけど。やっぱり最近の人はバカだねー。ま、僕の存在を忘れてくれているだけあっていいこともあるか」
そこまで言うと、和樹はギラッと目を光らせた。
「あの後君のことを考えてみたんだけどさ」
その目線はシーファに向けられていた。
「思い出したんだよ。昔僕が可愛がってあげた女の子じゃないかって。翼と獣人っていう特徴があれば考えたらすぐわかった。あの時はちょっと頭の中で色々考えている途中だったから、深くは考えなかったけどね」
俺は和樹にすぐにでもかかれるよう戦闘姿勢をとる。
「また、遊んであげるよ。こっちにおいで」
すると、シーファの雰囲気が変わった。
「オレの故郷を滅ぼシ、大切な人を奪っタ!お前ヲ殺ス!」
「……多重人格?何それ?僕の脳にそんなスキルはないよ?」
和樹は何かを考えついたように、にっこりと笑う。
「今度は解剖っていう遊びをしようか。隅から隅まで調べ尽くしてあげるよ♪」
こいつ、狂ってる。
俺は感づく。すでに壊れているだろう。もうこいつの脳は元に戻らないと。
「あ、この話誰にも言わないでね。僕が生きているってことも。後々大変だからさ」
「俺たちがその約束を破ったらどうする?」
「そうだね……。もう面倒だから今殺しちゃおうかなー」
ニッと笑う彼を見て、俺とシーファは悪寒を覚える。和樹からはとてつもない殺気が溢れ出していた。シーファと比べ物にならないぐらいの殺気を。
「まずは君からだよ、落ちこぼれクン。ルトサだっけ?お前を殺して絶望に歪む女の顔を見てみたいね……!」
ブワッと風が吹き、風刃が作られる。それはーーシーファの風刃だった。目は黒く濁っていて、ミライが宿っていると思わせる。
それに対抗心を燃やしたのか、和樹も風刃を作り出した。いや、あれは風刃ではない。風刃らしきものは風に乗せられぐるぐると回り始めた。そして、1つの大きな竜巻になる。
「行け、竜巻!」
巨大な竜巻が俺たちを襲う。シーファがウォールバリアを作ったが、ぼろぼろと崩れていく。俺は火球を出し、少し離れた足元で爆発させた。竜巻がすぐさま舞い上がった煙を巻き上げるが、すでに悟たちの姿はない。和樹は目を丸くした。
「こんな芸当ができるなんてね。でも、僕の感覚はそこにいるって捉えてるんだっ!」
振り向きざまに和樹は投げナイフを投げた。それは地面に虚しく刺さる。
「なっ!?」
避けられたことがかなり悔しいのか、和樹はギリギリと奥歯を噛みしめる。刺さったところには一本の木と真っ赤な花しかない。先ほどまでいた人の姿は見当たらなかった。
「……逃げたか」
和樹はため息を漏らす。今度はもう少し本気を出して攻撃しなければいけない。なにしろ、僕の秘密を知ったのだから。だが、別に口外されてもいい。その時はその時で向かってきた敵を殺せばいいのだから。
「最近、人を殺していないしなぁ……」
人を殺した時の絶望の顔。あれを見ただけで心の中が幸せに満たされる。殺す時のゾクゾクする感覚がたまらない。あれをやって、病みつきにならない奴がどこにいるのだろう?
そう思うほど、和樹は殺すということに飢えていた。
「殺す、次は必ず……ね」
そして、和樹は森の奥へと消えた。




