第67話 ミィトと
俺たちは無事チノ大草原から出て、今はロット国の塔の中にいた。因みにこの塔の名前は幸塔というらしい。
ここにいる人は、俺、シーファ、ミィトだ。早速俺はどうして位置を知り、助けてくれたのかを聞く。
「お前がチノ大草原に行ったと知らされたのは、ここのギルドの受付嬢から聞いた。他の奴らも今は不在だから、俺が行ってやったんだ」
面倒臭そうにそう告げるミィトは、桃色の髪を静かに揺らした。甘い香りが漂ってくる。危うく心を奪われそうになったが、なんとか堪えた。
「でも、チノ大草原のどこに俺たちがいるかはわからないだろ?」
「ああ。どうするか迷っていたら、そいつが来てな。お前らの場所まで誘導してくれた」
成る程。シロが。
俺はシロの頭を撫で、感謝の言葉を述べた。シロは嬉しそうに尻尾をふる。俺は咳払いをしたミィトの声を聞き、慌てて顔を上げる。
「話の続きだが、あの依頼はギルドの者のミスでAランクの場所に貼るところをDランクの場所に貼ってしまったようだ。これはこちらから謝っておく。すまないな」
「いや、大丈夫だ。こうやって生きて帰ってこられたんだし」
「……そうだな」
そしてミィトは続ける。
「今回の依頼は違約金も発生しないようにした。だから、依頼を達成していなくても何も要求することはないぞ」
俺たちは顔をあわせる。マッハトカゲは、倒しているのだ。しかし、ミィトは俺たちがマッハトカゲを倒していないと思っている。これは言ったほうがいいのだろうか?
シーファが頷いたので、俺は真実を告げた。
「あのな……話を進めているところ悪いんだが、俺たちマッハトカゲを討伐したんだ」
「ほう」
驚いた表情も見せずに、ミィトはただただそんな返答をした。
「そうだとすれば、なかなかの逸材だな。魔物が大量発生した時も40体以上殺したという噂も聞いている。後々お前たちは大物になるかもな」
「そうなのか?」
「でも浮かれるな。生物はは調子に乗ってる時が一番弱いんだよ」
そしてーー。
ミィトはそう言葉を継いでシーファを見る。彼女はローブを羽織ってなく、獣耳も翼も外に出していた。
「わ、私はどうなってもいいので、サトルだけは助けてください!」
そう言ってシーファは頭をさげる。この人間の街に獣人が混ざっていることも可笑しいし、まず彼女は翼を持っている。体を解剖され、隅から隅まで調べ尽くされるかもしれない。俺は、シーファを庇った。
「ミィト。シーファは俺の大事な仲間だ。一緒に世界最強になるという夢も約束した。だから、お願いだ。どうか、見逃してくれないか?」
「サトル……」
ミィトはそんな俺たちをしばらくの間見つめていた。そして、ため息をつく。
「しょうがないな。お前らからは悪意を感じないし、その夢も信じるとしよう」
「ならーー」
「早まるな。俺はまだ、夢のことしか話していない」
口を開きかけていたシーファは喉の奥まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
「その姿のことは誰にも言わない。その姿には悪さはない。悪いのは、そこまでした組織だろ?」
シーファは憎悪の念を含ませた視線でミィトを見ながら、こくりと頷いた。
「その組織のアジトが、エルシャルト国に造られていたという情報があった。何日か前の情報だが、2人の男女がその龍の鯖だったっけ?龍の裁きだったか?まあどちらでもいい。組織を根絶やしにしたという」
それ、俺たちだね。
「お前らだろう?特徴も一致しているし、なんといってもマッハトカゲを2人だけで倒す実力。これで確信した。それでな、エルシャルト国のギルドマスターのキュラサが報酬をまだ渡していないと言っていた」
そうして、ミィトは懐から革の袋を取り出した。中からはジャラジャラと金の擦れ合う音がする。ずっしりとした見た目に、かなり金が入っていることは明らかだった。
「それが報酬か?」
一応聞いてみる。
「そうだが、少なかったか?」
「いや、それだけ貰えるなら大満足だ」
「ならよかった」
ふっと息を吐き、ミィトは金の入った袋を渡してくれた。
俺は中の金をちょうど半分にしてシーファに袋ごと渡す。俺は自分の金をアイテムボックスの中に入れた。
「そ、そんな。私は何もしていませんよ……。こんなに貰っては、サトルに申し訳ないです」
「いいよ。シーファも買いたいものがあるだろ」
「ですが……」
「じゃあこれは今まで俺を助けてくれたお礼だ。まあ、命を何回も助けてくれたからこれだけじゃ全然貸しは返せないがな」
無理やりシーファに渡すと、彼女は渋りながらも袋を受け取ってくれた。その様子を見ていたミィトは口を挟む。
「欲がないのだな」
「どうかな」
ミィトはぎこちない笑顔をちらりと見せ、すぐに引き締まった表情になった。
「最後に、もうチノ大草原には近づくな。あれでわかったと思うが、あそこには強い魔物がうじゃうじゃいる。お前らも見たハカイもその一種だ。あいつを封印するために昔超大型の結界を開き、その中に大量の魔物が閉じ込められた。そして、弱い者は殺され、強い魔物だけが生き残って長い年月をかけて自然進化し、ああなったということだ」
『自然進化とは、長い時間をかけると自然に進化するもので、どんな弱い魔物でも経験値を稼がずに進化することが可能になっています。ですが、その代わり一回の進化に最低でも150年かかると言われています』
解説ありがとよ、鑑定さん。
「俺から言えるのはこれだけだ。外に出るときは、きちんとローブを羽織って出るのだぞ」
ミィトは別れを示すために手を上げて魔法陣から消えてしまった。
「これ、ローブだ」
シーファにローブを渡すと、彼女はすぐにそれを着た。フードも被って獣耳をすっぽりと隠す。
「さあ、いきましょう」
そうして、俺たちは塔から出た。




