第64話 マッハトカゲ見っけ!
外に出たので、早速手を離してもらう。体が自由になった俺は、鑑定に聞いてみた。
王者の咆哮だっけ?それって状態異常に含まれないの?
『含まれます』
え?なんで発動しなかったの?
『前にあんまりうるさいと気が散っちゃうからと言われたので、全機能を停止しております』
俺、敵を倒した後の音をやめてしか入ってないんだけど?
『基本的に1つの機能を停止することはできません。なので、全機能停止いたしました』
最初から言ってくれればいいのに。危うく死に損なっなんだぞ。じゃあ、全部の機能つけてくれ。
『承知しました』
これで大丈夫……かな?鑑定さんを信じることにしようじゃないか。
「シーファ、ありがとな」
そう言ってローブを渡すと、シーファはにっこりと笑って上からローブを羽織った。
「それにしても、ここやばいな。あんな奴がうじゃうじゃいるのか?」
「それはわかりませんけど、さっきのワイバーンがいるのは危険です」
「でもな、この依頼失敗したら違約金が発生するんだよな?あまりお金も持ってないし、それは避けたいんだ」
俺とシーファは顔を見合わせて唸った。すると、シーファがパンと手をあわせる。
「もう、倒しに行ったほうがいいのではないでしょうか」
「ああ。そうだな。危険とは言っても、あいつに見つからないようにすればいいんだろ?なら、俺に考えがある」
「頼もしいです!サトル!」
キラキラと目を輝かせているシーファを前に、俺は変化をした。状態異常無効がついているからもう効果は消えている。
変化したのはミストバードだ。これで幻覚を使ってワイバーンを騙す。我ながら完璧だな。
シーファに変化をかけ、俺以外にはカカシに見えるようにした。いや、これしかないんだよ。もっと小さいもののほうがいいかもしれないけど、俺の幻影はまだまだ操れなくて。ね?
俺はミストバードだし、空中を飛んでいれば背景に同化して見えなくなるだろう。いざという時にはすぐ助けられるし。よし、これでいこう!
「俺が幻影を使うから、ワイバーンに見られたら絶対に動くなよ。わかったか?」
「はい!」
「わう!」
わう?もしかして……。
足元を見ると、そこには可愛らしい犬がいた。長年暮らしてきた俺はそいつがシロだということにすぐ気がつく。きっと、スキルの嗅覚と追跡で追いかけてきたのだろう。
「来てくれたのか?よしよし、いい子だ」
顎を撫でてやると、シロは甘えた声を出した。それを見てなぜかシーファが羨ましそうな目で見ているが、気にしない。
「シーファも撫でたいのか?」
「ふぇ?あ、いや。大丈夫です」
間抜けな声を出し、拒否する彼女はどこか慌てた様子だった。本当に何がしたいのだろうか。
「でも、この先は危ない。シロは待っていてくれ」
「くぅ、くぅ」
耳をペタンと下げて悲しがるシロ。少し罪悪感があったが、これもシロのためだ。
俺は先に入り口をくぐった。安全を確認するためだ。そして、変化する。
「シーファ。大丈夫だぞ」
「わかりました」
シーファはサトルには内緒でシロに耳打ちをした。
「もしかしたら、私たちがピンチになるかもしれません。その時には、サトルの言葉なんか無視してもいいのですよ」
これは、シロに対する注意だった。助けに来いという意味で捉えられるし、もしかしたらもう戻ってこないかもしれないため、その時は帰ってほしいという願いだった。
「わう、わう」
小さな声でシロは鳴く。シーファは頷き、入り口をくぐった。
「よし、じゃあ今から幻影をかけるぞ」
俺はシーファに幻影をかけた。これで俺以外はカカシに見えるはずだ。
少し進むと、ワイバーンがいた。草原の中央でネズミを狙う鷹のような顔つきをしている。逃がした俺たちを探しているのだろう。
俺はなるべく気配を消し、シーファの幻影を強くした。
ワイバーンがこちらを向く。シーファはピタッと動きを止めた。俺はすぐさま上昇してワイバーンの視界から外れる。
「グウゥゥゥゥゥ」
シーファへ近づいていくワイバーン。その鼻面をシーファに近づけ、臭いを嗅いだ。これはヤバいんじゃないか?
「グウゥ」
間一髪。ワイバーンは身を翻し、空へ飛んで行った。姿が見えなくなったところで、俺は地面に降りる。そして、変化を解いた。ミストバードではなくなったため、シーファの幻影も消えているだろう。
「シーファ、大丈夫か!?」
「……」
目が死んでいた。体を揺らすと、すぐに我に帰る。
「はっ。わ、ワイバーンはどうなりましたか?」
「飛んで行ったよ。これで、俺たちも安心して空を飛べる」
ワイバーンがいる状態では空を飛びたくなかったしな。安全安心だ。
シーファはローブを脱いだ。俺も、もう一度ミストバードに変化する。そして、空を飛び始めた。かなりの高度を飛んでいるため、人目にはつかないと思う。
「あ、あれじゃないですか?」
地面に見える豆粒は、確かに赤い。試しに高度を少し下げみると、その姿を確認できた。
赤い体に長い尾。長い爪は光を反射して光っていた。
「ギュルッ!」
目と目があう。それは確かにマッハトカゲだった。
俺たちは空を飛んだまま攻撃をする。やつは飛べないし、マッハっていう名前が付いているからにはかなり速いんだろう。なら、空中にいた方が安全だ。でも、俺はMPが持たないからこれは却下なんだ。悲し。シーファは空から俺を援護しながら奇襲を仕掛ける役だ。
俺は変化を解き、着地をした。マッハトカゲは体を左右に揺らし、俺を翻弄しようとしている。そしてーー。右に揺れたと思った途端には、残像を残して目の前に爪が迫っていた。
「っ!?」
咄嗟に後ろへ下がるが、はらはらと髪の毛が何本か切れた。
ヤバいぞ、こいつ。思っていた以上の強敵だ……!




