第63話 逃亡
俺たちは大草原を歩いている。今のところ魔物らしき影は一切見ていない。運がいいのか、はたまた中まで来たところをはめて襲うのかはわからないが、俺とシーファは進むしかない。
「マッハトカゲってどんな姿なのですか?」
「ちょっと待ってろ」
俺は図鑑を取り出し、写真を見せた。体はゴツゴツしていて、尾は長い。見た目は赤く、いかにも火って感じだ。本物はどうかわからんけどな。
「あ、何か飛んでますよ」
シーファの視線を追うと、大きな翼を広げた何かがこちらへやってきた。プテラノドンみたいな外見だが、確かこいつの名前は・・・。
念じながら図鑑を広げると、すぐに見つかった。ワイバーンというらしい。・・・ワイバーン!?
近づいてくるとその姿がよくわかった。鋼のような鱗に、後ろ向きに生えた二本の角。足の爪も伸びていて、あれを食らったらやすやすと体を貫通してしまうそうだ。
「あれ・・・大丈夫なのですか?」
「大丈夫じゃない。殺意ビンビンだ」
すると、黒い煙がワイバーンの口の周りから出た。これって・・・。
「シーファ、くるぞ!ブレスだ!」
俺たちは左右別々の方向に飛びのいた。先ほどまでいた場所に熱を帯びた炎が当たる。地面に当たっても勢いは止まらず、そのまま直線上50メートルほど焦がした。そこから炎が広がっていく。あっという間に俺のところまで炎が来た。
肝心のワイバーンはというと、もう一度ブレスを吐く体制になっている。たった1発でもこうなるのに、こいつはこの草原全て燃やすつもりか!?
俺は思考をフル活用し、変化できるものを探した。
ミストバード?いや、体が水っぽいのでできているからすぐに蒸発してしまう。ならルーゲラベアーか?ダメだな。空を飛べないし、真拳波で衝撃を飛ばしてもかわされるだろう。なにか、空を飛べる奴がーー。
俺はハッとなった。ありえない。自分の出した答えに戸惑う。でも、それしかいないんだ。空を飛べるのは、ルーゲラビートルしかいないんだよ!俺の嫌いなゴキさんの見た目をしたやつ。やだ、変化したくないよお!
シーファは必死に風で炎から身を守っているが、いずれMPが尽きるだろう。
もう、これしかない!俺はこれに変化するんだ!
そうして変化したのは、ルーゲラフラワーだった。
毒よ、飛んでけーーーー!
毒の煙を出すと、呆気ないほどに速く、ワイバーンの場所まで煙が飛んで行った。炎の上昇気流もあったおかげだろう。今にもブレスを吐こうとしていたワイバーンは、身に危険が迫っていると感じてさらに上昇した。しかし、煙もついてくる。大きく翼をはためかせると、煙は空中で分散して消えてしまったがいい時間稼ぎになった。なぜかって?ワイバーンの後ろにミストバード(炎の中じゃないから大丈夫)に変化した俺が潜んでいるからだよ!
ミストバードで使えるスキルは、幻覚と水刃と霧。ふふふ。気がついたか?俺はこのスキルを活用したのだよ。
ワイバーンの目の前に突然毒の煙が現れる。ワイバーンはなすすべもなく、煙の中に飲み込まれた。
「『幻覚と霧で、霧を毒の煙だと思わせて、吹き飛ばした隙を狙う作戦』だ!」
このネーミングセンスよ。
俺は紫の煙の中に水刃を放った。あまり手応えはないと思うが、やらないよりかはマシだろう。
「グオオォォォォーーーーーン!!!」
ワイバーンが高く鳴く。その途端、俺の変化が解けた。
え?これって・・・前にも同じようなことがあったような・・・。
地面に落下するが、靴の効果で空中を飛んだ。そして、見事に地面へと着地する。あれってなんなんだ?結構前に遺跡に入った時にルーゲラバイガルに出くわして・・・。そうして、あいつが咆哮を上げたら俺の変化が解けたんだ。それと同じ原理なのか?そうだ、鑑定忘れてたな。
ワイバーン
種族 龍種
状態異常 毒
レベル190
HP...1950/2000
MP...5900/6000
攻撃...2580
防御...2685
素早さ...2863
魔法...5429
『レベル差がかけ離れているため、表示できませんでした』
やっばああああ!強くない?え?やばくない?ルーゲラバイガルくらい強いよね?いや、まだルーゲラバイガルの方が全然強いか。
でも肝心のスキルが確認できなかった。俺ももっと強くなる必要があるな。
『王者の咆哮』
ん?あれ今鑑定さんすごい重大なこと言わなかった?それを詳しく教えてよ。
『王者の咆哮とは、一回発動すると1週間使えなくなるというスキルで、敵が発動している継続スキルの効果を消すことができます。その効果は30分続き、一切継続スキルを使えなくなります』
あ、死んだ。
俺は変化を使おうとしたが、鑑定さんの言った通り体に変化が起こることはなかった。これは終わった。助からない。
「サトル、逃げましょう」
シーファがローブを脱ぎ、翼を広げた。俺はローブを持つ。
「乗るの?」
「やめてください」
却下された。
「私が掴みますので、じっとしていてくださいね」
それ落とされる確率も高いんじゃ・・・。まあ、ここから逃げられるのなら何も文句はないけどね。
「グオオォォォォーーーーーン!!!」
もう一度ワイバーンが高く鳴く。俺は意を決した。
「シーファ、俺はいいぞ。あとは自分のタイミングで行ってくれ」
「わかりました」
ワイバーンはブレスを吐こうと口一杯に空気を頬張った。
「行きます!」
俺を両手でつかんで、シーファは羽ばたく。後ろからブレスが飛んできたが、紙一重で避けた。
「あそこだ、入り口!」
入ってきた場所を指差し、シーファは降下した。そして、俺たちは無事に脱出したのだった。




