第60話 パグとお話
変化呪……。恐ろしい予感しかしないぞ。か、鑑定さんよ。変化呪とはなんだ?
『変化呪とは普段は変化できない龍に変化することができるもので、とてつもない力を持つことができます。しかし、一回使用すると自分の心は悪に染まっていき使用後1週間は全ステータスが10になります』
うおおう。聞いたからにはすごいやばいやつだね。これは封印かな。自分の中に悪の心が芽生えるのはシーファにも迷惑をかけてしまう。だから、これは使わないようにしよう。
あとはシーファのステータスかな。
バチィ!
音がして、シーファは跳ね起きた。あ、そう言えばシーファって鑑定遮断を持ってたっけ?
「ごめん。少し、鑑定をしようと思っててな」
「お、驚きましたよ〜。もう、やめてください」
頬を膨らませるシーファ。やはり可愛いな。
「本当にすまん。それで、シーファはその鑑定遮断スキルを止めることはできるのか?」
「ちょっと待っててくださいね……」
彼女は少し沈黙をして、口を開く。
「ミライはダメって言ってます。あの……」
言葉を濁すシーファ。俺は悟った。ミライは、まだ俺を信用していないのだと。
「わかった。ありがとな」
そうだ、さっき言ってたけど龍って普通に変化できないの?
『はい。龍は神が生み出したと言われる生物で、その対象に変化をすることはできません』
スライムドラゴンとかは?
『それは対象に含まれません。主に全く違う個体から進化した魔物は、龍ではなく竜と言われています。スライムドラゴンも、その類です』
へえ。よくわかった。ありがとう鑑定さん。
そうして俺は、眠りについた。
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重い瞼を開けると、どこか見覚えのある場所にいた。光の柱が何本も立っていて、建物を作り上げている。後ろの空気が揺れたのを感じ、俺はハッとなった。思考がとてつもないスピードで働く。
攻撃……?
その空気で感じ取れたものは、尖った凶器を俺に向けて突きつけようとしていることだ。とっさに身を翻して距離をとる。そこには陽気に笑う神様がいた。
「はは、避けられちゃったか〜。ま、これより速く攻撃をしていたらサトルは死んでいたけれどね」
パグだった。
「何のつもりだ?お前が言ったように、あと一歩遅れていたら俺は死んでいたぞ?夢の中ならどうか知らんが」
「まーまー。そんな怒らないでよ。ほら、せっかく呼んであげたんだから」
俺はため息をつく。
「何の用だ?」
「サトルがさ、元の世界の自分のペットのことを恋しがってたから、会わせてあげたいなーって思ってね」
「……」
突然のことで何を言っているのかがわからない。しかし、漸くして俺はパグの言葉の意味を理解した。また、シロに会えるのだ。そして、一緒に暮らせるのだ……!
「そういうことだよ」
パグは満足そうに頷く。
「それで、いつ連れてくるんだ?」
そわそわといった感じで俺は尋ねる。一瞬、パグは首を傾げた。
「ああ、サトルは僕がそのペットをこっちに連れてくると思ってるんだね」
「……どういうことだ?」
「僕が言いたいのは、元の世界に戻ってそのまま暮らすっていうこと。その際は僕が授けたスキルもなくなるし、この世界の記憶もなくなってしまう。何もかも忘れて、チキュウで過ごすんだ」
シロと会えばこの世界を忘れてそのまま地球で過ごす?ならばシーファは?もしかしたら、悲しみに打ちひしがれてしまうかもしれない。どうするんだ?俺は、シロとシーファ、どっちを選ぶ?
過ごした時間はシロとの方が長い。中学生の初めから飼ってるしな。だが、シーファも俺がいなくなったら……。また孤独の日々を過ごすことになる。異端者だと罵られ、最悪の場合生きるということを諦めてしまうかもしれないのだ。俺はシーファと世界最強になると約束した。ミライに乗っ取られようとそれまでは一緒にいてあげなくてはならない。どうする?どうする、俺。
「延期はできないのか?」
「無理だね。僕の力でここまで呼び出しているんだから、次までかなりのインターバルが必要なんだ。こっちの時間の方があっちよりも多少速いんだけど、そうなるともうサトルのペットは生きていないだろうね」
俺は奥歯を噛みしめる。
「じゃあ、シロをこっちに連れてくるのは?」
「リスクが高い。1人ならまだしも、2人転移となると僕の力が持つかもわからないし、途中で力に耐え切れずどちらかが死ぬかもしれない。もしかしたら、どっちも転移中にお陀仏だよ」
転生はいいとして、転移は術者もリスクが高いのか……。
「一回そのシロに会って、こっちに戻ってくるならいいよ。もちろん君だけだけど」
そんなの……俺が耐えられるわけがないだろ!
「ニ回に分けて転移させるのは?それなら負担もないだろ?」
「僕の力が持たないんだよー。転移はね、僕みたいな状況の神様でも出来るかどうか怪しいの。だから、二回は無理。僕が死んじゃうよ」
「一回にまとめるのは大丈夫なのか?」
「え?さっきもその方法いったけど……。まあ一回なら負担は抑えられるよ。でも、暫くは再起不能になるかな」
「そうか……」
数分か、数十分経ったかもしれない。俺はシロと無事に帰れる方法を考えていたが、パグによって思考を邪魔された。
「それじゃあ、もう時間だ。僕の力も持たない。決めるなら決めてくれ」
「……っ」
「?」
「お、俺は!シロと帰る!この世界に……シーファのところに帰る!それが願望だ。俺の願望!」
パグは眉を顰めた。
「それじゃあ君が死んじゃうよ」
「死ぬかはわからない。だが、賭ける価値はある」
俺がいなくなったらどれだけシーファが悲しむだろう?……いや、死なない。絶対に生きて帰るっ!
「……わかったよ」
敵わないといった感じでパグは両手を挙げた。
「僕も全力を出すから、行ってきてね!」
そして、俺の体は光に包まれたーー。




