第59話 レストランにて
俺たちの前に運ばれてきた料理は美味そうな香りに体を引かれる。
ポカポカ草はてっきり赤い感じだと思っていたが、本物は桃色だった。口に運んでみると、ほんのりした甘みとシャキシャキとした葉がよくマッチしている。体の中に入ると温もりが全身に広がった。成る程、これでポカポカ草か。
次に目を移したのはマウンテンクラブのザズ調味料あえだ。味も何もかもさっぱりだったが、口に運んだ途端胸から何かが這い上がってくる。
「う、うまいいぃぃぃぃぃ!?」
店員が言っていたように身はプリップリで口の中で弾力を与える。そして、噛むほどに出てくるカニ汁。さらにピリリとした辛味が美味さのアクセントになっている。これほど美味いものを食べたのは初めてだ。
カニ汁というものに突っ込んではいけない。
「お、おい。このマウンテンクラブはどこで取れるんだ!?」
男性の店員は爽やかスマイルで笑う。
「聞いてくる人も多いんです。ですが、これは企業秘密ということで」
くっ。やはり教えてくれないか。ならばーー。
「シーファ。明日、外へ出るぞ」
「明日ですか?でも、キュラサとの約束が……」
「もともと一週間後にここへ戻るつもりなんだ。丁寧に断っておこう」
「……わかりました。それで、何をしに行くつもりなのですか?」
魔物退治に行ったばかりだというのに、外へ行こうと言い出す俺へと嫌な顔一つ見せない。
「……それはあとで話す。店員さんに気がつかれないようにな」
そう。俺の目的はマウンテンクラブを狩りに行くこと。どこにいるかは知らないが、誰かしらは情報を持っているだろう。あれがお金無しで食べられるのだと思うと唾が滴る。幸いなことに、今は店員が違う客の接客をしているところなので会話を聞かれることはなかった。
「3名です……!あの、誰かいませんか?」
弱々しい女の声とともに、ガヤガヤした人たちがやってくる。俺はちらりと目をやって驚いた。あれ、ミィトと他のギルマスじゃないか。サンカーにキュラサ、他の名前は知らんが塔にいた奴がまた集合している。
「はい。かしこまりました。こちらへどうぞ」
店員が誘導した席は、俺のちょうど背中側だった。こんな奇跡ってある?
そして、普通に俺に気がつくギルマスたち。
「お、あの時の少年じゃないかぁ。食事中か?って……」
1人のヒョロ男がシーファを見つめてにやける。
「なんだ、デート中か。せいぜい頑張れよ」
「ちょっと、ワヤ!その言い方は酷いんじゃない?」
そう言って抗議したのはキュラサだった。あの男はワヤというらしい。
「酷い?なんで僕に突っかかってくるのさ。僕は、励ましの言葉をかけてあげただけなのに」
「そういうのが癪にさわるのよ、ワヤ!」
「あ、もしかしてその子をかばってるの?ヒューヒュー。キュラサが惚れた男発見〜」
「違う!ワヤだってサトルの近くに可愛い女の子がいるのに嫉妬しているんでしょ?」
「ぐっ」
「ほら、図星じゃない」
「でも、君だってその子を監視している間に見つかって、無様に攻撃されたんだよね?それから友達の誕生日パーティーに遅れるとか言って離脱してさあ。知ってた?僕、全部見てたんだよ?」
ええ。全然気配を感知できなかったぞ。大気感知を発動していたらどうだかわからなかったけど。
そしてそのまま口喧嘩は続く。
「その話とこの話は関係ないわ。今は貴方の恥じらい話でしょう?」
「あれ?僕は君の失敗談を聞きたかったんだけどね」
「なんですって!?」
「はは、怒ってるキュラサも可愛いね!」
「バカにしてるでしょ?もういい加減にして」
「いい加減にしろ」
キュラサの声とかぶるようにして、しわがれた声が響く。声の主はサンカーだった。
「そろそろやめないか。周りの客にも迷惑だ。まったく。ギルドマスターがなんのことをしているのか」
はあ、とため息をつくサンカー。キュラサとワヤは反省したようで、かなり縮こまっていた。
「すまないな。少年。迷惑をかけて」
「サトルだ。別に、迷惑になってはいないから大丈夫だぞ」
しっかりと自分の名を名乗る。
「あ、キュラサ。明日は少し後々用事があって行けなくなった。すまない」
少し驚いていたキュラサだが、ワヤとともに大人しく席に座る。俺たちは食事を続けた。
ん?もうシーファ食べ終わってるじゃん。それに俺の飯をずっと見つめて……。く、食いたいの?俺もこれ食べたいんだけど……。
…………。
ああ、もういいよ!あげればいいんだろ!
そうして俺の飯はほとんどシーファに食べつくされた。
がっくりと肩を落としていると、後ろからくすくすくすと笑う声がした。
「あ、ごめん……」
俺が視線を向けると、ミィトが小さくなって謝った。また人格が違うのだろうか。感じ的には弱々しい男の子っていう雰囲気だな。
「そろそろ帰るか」
しょげ返る気持ちを奮い立たせようと、俺は勢いよく立ち上がる。
「はい。サトル、有難うございます」
「あのなぁ。これは貸しだからな」
「わかっています。いつか、返しますからね」
いつか……。まあいいや。心の中に入れておこう。
「じゃあ、先に帰らせてもらうわ」
「今度また、温泉にでも行こうな」
「ああ。約束だ」
サンカーは嬉しそうに目を細める。そうして俺たちは金をしっかりと払い店を出た。
……金は結構取られた。
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宿に戻った俺たちは早速就寝する。寝る前に、悟はステータスを見た。もちろん自分のものだ。驚愕の言葉が書かれていた……!
サトル・カムラ
種族 人間種
状態異常 なし
レベル49
HP...700/700
MP...1500/1500
攻撃...285+10
防御...263+10
素早さ...269+10
魔法...401+10
《スキル》
・状態異常無効・鑑定・火魔法・聖柱・融合魔法・渾身の一突き・大気感知・意思疎通・言語理解
《ユニークスキル》
・変化・変化呪
《称号》
・神に気に入られた者・感知ができないただの馬鹿・怒ると怖い・仲間思い・馬鹿買い・詐欺師・ドジ・料理への執念
ん?んん?んんん?えええええ!?
変化呪ってなにぃぃぃぃぃ!?




