第56話 魔物退治 3 (=゜ω゜)ノ
さあどうしようか。まだまだ解決法が浮かんでこない。ここでは変化ができないしな。俺の切り札は変化と聖柱と渾身の一突きだが、先ほども言ったように変化は使えないし聖柱は詠唱の隙に攻撃される。渾身の一突きはこんな硬い鱗を持ったやつに効く感じがしない。
「シィィィ!!!」
とうとう長いにらめっこに飽きたスネークマンたちが地面に這いつくばって移動してくる。スネークマンは4方向に分かれ、悟を囲むつもりだった。しかし、俺はそれを免れるために上へジャンプして靴の効果で中をかける。三歩だけだけどね。
スネークマンの頭上を越え、そのまま地面で走り続ける。後ろからスネークマンが追ってくるが、俺のスピードには追いつけない。
「おいおい!お前らの力はそれだけか?本当どうしようもないクズだなぁ!」
そう言うと、スネークマンたちは怒りを露わにする。これでシーファのところへ行く心配は無くなった。あとは……。
激戦区からなるべく離れた俺は、追いかけてくる魔物に向き合った。ここならあまり人目につかないし、変化を使っても大丈夫だろう。
そして……。
ルーゲラベアーに変化だ!
急に姿を変えた俺に多少驚いた雰囲気を出すものの、すぐに相手は冷静になり襲いかかってきた。長い尾を駆使し、スネークマンの連携プレイで両サイドから尾が迫る。だが、俺にそんなものが叶うと思ったのか?ふふ、図体がでかいからってなめんじゃないぞ。こっちには《変化》があるからな。
ルーゲラベアーから一変、ミストバードに変化し、そのまま尾を気にせず突っ込む。体の一部が尾によって削られたが、速度を緩めず一体のスネークマンの前でまたルーゲラベアーに戻る。そのまま2連突きで硬い鱗を剥がし、剥き出しになった肉へともう一撃を加える。肉片が飛び、スネークマンは絶命した。後ろから迫る爪を大気感知で敏感に感知し、しゃがんで避ける。まさか避けられるとは思ってもいなかったのか、スネークマンは前のめりになった。
「油断はすんなっ!」
その腹へと地獄突きをくらわせる。血の雨が降り注ぎ、悟は眉を軽くひそめる。
「シイイィィィィィィ!」
仲間を2匹殺られたことにしびれを切らしたのか、スネークマンの動きが先ほどよりも速くなった。大きい姿では対処できないと悟り、俺は使い勝手のいいルーゲラリトルベアーに変化する。こっち方がMP消費も少ないしね。
スネークマンたちの攻撃を紙一重で避け、渾身の一突きをくらわせては後ろに下がる。その攻撃を繰り返し、相手のHPは徐々に減っていった。
ついに、片方が膝をつく。その隙を見逃さず俺は人に戻り、剣で剥がれた鱗の中身を刺した。横から迫るもう1匹の爪攻撃もかがんで避け、アッパーをする。手が痺れたが、スネークマンにも効果があったようで空中を回転して地面に倒れた。これで討伐完了だろう。
俺は静かにその場を立ち去り、シーファの元へ戻った。
あの戦力だと勝つのはラクショーだと思っていたが、シーファは未だにフェルノウルフと戦っていた。その数はすでに1匹しかいないが、シーファは肩で息をしている。そして、フェルノウルフは動いた。大きな火の玉を吐く。普通にかわすか防げるものだったが、シーファのウォールバリアも簡単に突破し、彼女の体に直撃した。
すぐに水球で炎が燃え広がるのを防ぐが、その間に奴は距離を詰める。そして、尖った牙でシーファを噛み砕こうとした時ーー俺が横からそいつをぶん殴った。
「ーーギギャガっ!」
見事拳はフェルノウルフの頬へとクリーンヒットし、数メートル先まで吹っ飛んで行った。
「あ、ありがとうございます。あのウルフ、最初はフェルノウルフかと思っていたんですが、急に色が変わったと思ったらダークウルフになり、先ほどとは段違いの力で攻めてきまして……。本当に、すいません!」
「いや、大丈夫だ。むしろここまで持っていてくれてありがとな」
そこで俺は鑑定さんに聞く。
ダークウルフってどんなやつだ?
『ダークウルフとは、主に闇属性を使い手にする魔物です。しかし、闇属性ではなく進化前の個体で得意だった属性の魔法も使えるので、2属性のダークウルフというものが多いです。冒険者たちからも厄介な相手として知られており、その素早さと攻撃力も特徴です。近距離と遠距離、どちらからも攻撃ができる魔物となっています』
げげげ。めんどくさい相手だなあ。これ。
ダークウルフ(よく見るとフェルノウルフと全く色が違ってた)は大きく息を吸い込んだ。
「シーファは下がってろ。ここは俺がやる」
「はい。ご武運を」
素直にシーファが後ろへ下がり、俺の陰でヒールをしていた。彼女は回復に努めてもらいたい。
ダークウルフは吠える。スキル《遠吠え》だろう。だが、俺はあいつよりも格下ではないため、全く怯まずに距離を詰める。相手は俺に遠吠えが効かなかったことに全く驚く様子も見せず、爪を伸ばして攻撃してきた。俺は後ろへ飛び退くが、爪から出てきた銀色の風に脇腹を抉られた。
「ぐっ……」
痛え。あともう少し真ん中らへんだったら隙を作ってたかもしれない。危なかった。
『斬撃波。斬りつける攻撃のものから出てくる風属性の攻撃です』
は?風?こいつ火と闇だけじゃなかったの?話が違うよ?
『ダークウルフの中には突然変異で2属性よりも多い属性を持つ者もいます。現在発見されている中では全属性を持っている個体が1万年前に発見されています』
1万年前って色々やばいよね。全属性とかやばたん。
脇腹を押さえながら俺はダークウルフを睨む。やつは得意げな表情で嘲笑うかのようにこちらを見た。これは挑発だろう。俺は深呼吸をして、挑発に乗らないように気持ちを落ち着かせる。
「そんなに挑発ばっかして、真っ向から勝負したことないのか?お前は」
目には目を。歯には歯を。挑発には挑発だ。
「期待外れだな。もう少し頭が回るやつだと思ったが、挑発しかしてないビビリなんじゃあ俺に届くことすらそこらへんのスライムにも勝てないんじゃないかぁ?」
明らかにダークウルフをとりまく空気が変わる。あいつ自身もイラつかないようにしているように自分を押さえ込んでいるようだったが、所詮は魔物。そこまで知能は高くないだろう。
ーーって、思ってるだろうな。
ダークウルフは思う。あいつは俺を挑発しているようだが、適当にイラついた雰囲気を出しておけばすぐに騙されてくれる。このままいけば、好きが伺える!
いや、もしかしたら俺を騙している可能性もあるな。機嫌を悪くしている空気を出して、隙を突いてくるかもしれない。いや、これは相手の心を読みすぎか?まあ、どちらにしろ隙を見せるのはやめたほうがいいな。
そのためにはーー。
もしかしたらこちらの意図に気がついている?そうかもしれない。なら、こちらも隙を見せないように気をつけなければ。
そのためにはーー。
2人の思考が重なる。
『この勝負、駆け引きなしで挑むっ!』




