第54話 魔物退治 1 ( ̄^ ̄)ゞ
次の日の朝。俺は目を覚ました。
「おはようございます!」
元気よくシーファが挨拶をする。俺は挨拶を返し、朝食を食べに下へ向かった。
「……皆の者!!」
食事をしていると、ごつい男がど真ん中のテーブルの上に立って注目を集め始めた。なんだなんだ、俺の優雅な朝食の時間なのに。
無視しようと思ったが、どこかピリピリした雰囲気を纏っていたため、思わず手を止めてそちらを伺う。
「今日、ロット国の周辺で異常が発生していることが分かった」
冒険者たちはざわつく。
「その異常というのは……まあ、お前らも想像している通り魔物の大量発生だ。まだ何故大量発生したかはわからない。今、調査チームを派遣中だ。それに、この魔物を退治するには俺たちーー『銀の雷』さえも厳しいかもしれん」
またまた冒険者たちはざわつく。『銀の雷』ってなんだろ? 有名な冒険者なのかな?
「そこで、諸君の力を貸してもらいたい。どうだ?乗る気はあるか?」
すると、1人の冒険者が叫ぶ。
「報酬はどうなるんだよ」
「報酬は、ギルドマスター直々に決めてくれてな。この依頼をクリアするだけで金貨5枚っ!」
おおっと歓声が上がる。その男は指を振った。その行動に、辺りは静まる。
「まだまだあるぜ?討伐部位を5つ持ってくると銀貨一枚。さらに、10つ持ってくると銀貨三枚。こんな感じで5つ持ってくるごとに最初の銀貨一枚から+3で報酬が増えていくんだ!」
熱狂の嵐と化すギルドの中には、すでに依頼へ行くと決めている人たちもいた。その人たちはいち早くボードに移っているが、その中からこの依頼紙を見つけられないらしい。そこに、男が声をかける。
「おっと、すまん。依頼紙はこっちにある。数百枚はあるから、やると決めたやつは持っていけ!」
男の元に押し寄せる人々を見ながら、俺は最後の一口を食べ終える。どう考えても冒険者は百人以下であり、依頼紙が無くなるなんてことはないだろう。こういうのは焦らないことが大事だ。
「どうします?」
周りが騒がしく、声が聞こえないため、シーファが近寄る。その美顔が間近にきて、俺は少し緊張する。いや、こういう場合じゃないんだって!
「ど、どうしたい?」
詰まりながらも漸く声を出すと、シーファは考えて言った。
「私は、行っても全然いいですよ。報酬を貰ったらこの先暫くは困ることもないと思いますし」
「そうだな。そうするか」
俺は水を飲み干し、すでに人のいなくなった男の前に立つ。
「おお、君も参加かい?でも、敵を侮るなよ。魔物の数は想定で500。この周りでウロウロしているんだ。国から飛び出たらすぐ殺されるといったこともあるかもしれない。それでもいいか?」
あまりにも俺が若いからって少し心が傷つくぞ。人は見た目で判断しちゃいかんぜ。
「ーーって言いたいんだけどな。お前からはとてつもない魔力を感じる。若いくせにやるじゃねえか。そこの嬢ちゃんからも強い魔力を感じるしな」
お、このおっさんわかってるじゃないか。見た目で判断なんかしてなかったな。確かに周りの冒険者とは違う。
「というわけで、頑張れよ」
「ありがとう」
礼を言い、受付に向かう。依頼紙を出すと、
「この後、ロット国の正門の前に集まってください」
そう言われて俺たちは足早でロット国の正門に向かった。
やっべ、ちょっと間に合わないかも? 優雅な朝食とか言ってる場合じゃなかった。
正門の周辺にはまだ冒険者が残っていた。とりあえず安心する。これで取り残されてたらダサかったな。あぶね。
すると、俺たちを見て数人かが近寄ってきた。あ、これって……。
「おいおいおい。こんなガキンチョが依頼に挑もうってか? 笑わせるなよ」
はい、でました! でました!
「ガキはすっこんでな! 僕はこんなクソ弱っちい冒険者なんて守らないからね? あーあ、こんなガキがいたら冒険者が舐められちゃうよ」
その中でもリーダーぽいのが、最後に喋ったやつだ。貧弱そうな体つきとは裏腹に、とてつもない覇気を放ってくる。ように見えた。俺にはただのアリンコ程度にしか見えんがな。ん?この世界にアリンコっていないんだっけ? まあいいや。
「シカトしないでさ、わかったんならさっさと帰れごみくず」
小学生かな? めっちゃ暴言吐いてくるな。もうそろそろ俺を侮辱しないほうがいいんじゃないか? ぶちぎれるぞ? シーファが。
「ちっ! いつまでもスルーすんじゃねえよ!」
男は俺の顔面めがけて拳を振り上げる。それは流石にだめだろ。シーファが即座に反応したが、彼女が魔法を発動する前に振り下ろされた拳を誰かが受け止めた。
「争いごとは禁止だ。それがわかっているのか?」
『銀の雷』の男だった。
「次やったら、規則違反で謹慎処分にしてもらおうか。いいな?」
「くっ……! だが、こいつがーー」
「それとも今すぐがいいのか?」
ギリギリと奥歯を噛み締めている細男だったが、ついに何も言わなくなった。その仲間らしい人たちが彼の腕を引っ張り、その場を立ち去っていく。
「ありがとな」
「当然のことをしたまでだ」
かっこよ。
それにしても、迷いがなくて洗練されている動きだったな。よほど戦闘に慣れているのだろう。でもあれが全力ってわけではなさそうだ。俺も避けられるくらい、あの細男のパンチ遅かったし。
有名らしい『銀の雷』の男ならあれくらい受け止められても当然、だろうな。
「よし、お前ら出発だ! 準備は整ったか? ポーションは? 装備は?」
明るい声で告げる『銀の雷』の男。その言葉を合図に冒険者たちが最後の準備を確認する。
「ユリガさん、装備はこれで大丈夫ですか?」
「あー……ま、行けるだろ。ステータスはどんな感じだ?」
「素早さが1番高いです!」
「なら大丈夫だな! 攻撃に当たらないように気をつけろよ!」
「はい!」
冒険者にアドバイスをする『銀の雷』の男ーーユリガ。ユリガかあ、覚えとこう。
「すいません、私たち、ポーションなど持っていないのですが……」
そう耳打ちしてきたのはシーファだ。確かにポーションは持っていないが、まあなんとかなるだろう。
「大丈夫だろ。シーファも、自分が傷ついたら俺に構わずヒールを打っていいぞ。残りMPとか気にせずにな。あと、わかってると思うが絶対に空を飛ぶな。俺から言えるのはそれだけかな」
「わかりました。私、全力を尽くします!」
シーファが燃えている。じゃあ俺も全力で戦おうかな。変化はあまりしたくないけどね。魔物と間違えられて斬られそうだし。
「魔法が得意な者は極力後ろの方で攻撃をしろ!近距離が得意な奴は俺とともに来い。一緒に魔物どもを殺してやろうじゃないか!」
ユリガは拳を真上に突き上げる。それに伴って冒険者たちが吠えた。正門が開けられて冒険者は一斉に外へ出る。
「ユリガ」
すると、1人ユリガの元に近づいてきた女を俺は見逃さなかった。
その女はユリガに耳打ちをして何かを伝える。彼は驚いたような表情を示して、冒険者に呼びかけた。
「今調査チームが戻った。魔物たちはラギ森林方面から進行中だ。ここら一帯の魔物を潰してからそちらへ向かう。それでいいな?」
「おおーーっ!!」
叫び声が辺りをこだまし、すぐに遠くの空へと消えていく。そうして、俺たちの魔物退治は始まった。




