〜塔の中で〜
少年たちがいなくなり、静まり返った会議室で最初に言葉を発したのは美女のキュラサだった。
「あんな若い子が魔法陣を使うなんて初めて見た……」
賛成というように頷く人たち。だが、ミィトは相変わらずの無表情だ。長年人の顔を見てきている人でさえ、ミィトの表情を読み取るのは難しいだろう。表情が変わると言っても、眉をひそめるだけだしあの人格で笑っている姿さえ見たことない。そう、私ーーキュラサは思っていた。
「あの子の将来が、楽しみだな」
そう口にしたのはサンカーだ。しわを寄せた顔で、微笑む。
「儂は、いつかあやつと戦ってみたいよ」
「好戦的は元だったらしいけど、今も健在ね」
私はそう言う。すると、サンカーは苦笑を浮かべた。
「お前もそう思うだろう?」
「私は……」
ーー私はいいよ。
そう言おうとしたが、本能が疼く。あの子と戦ってみたい。と。
「やっぱりそう思うだろう?あやつには、どこか人を引き寄せる力を持っているようだ。それが何かはわからないが、何か特別なものを感じる」
彼らは知らないが、その特別な力というものは転生者というものを表している。レベルの高い彼らはナニかというものを感じ取っているのだろう。
「ミィト様はどう思われます?」
私は聞く。ミィトは最初から何か気がついていたような表情だった。
「あれは、転生者だな」
「なっ!?……あの男ですか?」
「ああ。恐らくではなく、絶対だ。称号に《神に気に入られた者》がある。あれは、転生者にしかない特徴だ。俺は、昔見たことがある」
ミィトが鑑定持ちだということに何も突っ込まず、なんともないかのように5人は話を進める。
「僕は、あいつのことを監視してたい。転生者は安全とは言えない。この『セージ』に、危険をもたらすかもしれないから」
「……私も同意見だわ。転生者と言ったら、自分のことしか考えてなくて、ずる賢くてこの世を破滅に導くーーそんな存在だもの」
「なら、いっそのこと今始末しちゃおうか?強くなって来られたら大変だしさ」
そう口にしたのは、先ほどから話し合いにちょくちょく首を挟んでいるイケメンーーワヤだった。
ワヤは、押し黙って考え込む人たちに、声をかける。
「だってさ、他の世界から来た者は色々な知識を持っていて危ない。僕たちの想像をはるかに凌駕した物だって持っているかもしれない。それなら、殺しちゃったほうが楽だろ?」
少しの間があり、1人のごつい男が頷いた。私も、つられて頷く。一度広がった考えは、私の脳の中を占領して離れなくなっていた。もうそれしかないという考えに変わり、その結果私は頷くことになったのだ。
「異世界人は、全て悪いやつではないと思うぞ?」
そう言ったのはサンカーだ。
「前、儂の行きつけの風呂に彼奴が来たのだが、かなり気さくな奴だったぞ。邪悪な感じもないし、話していて楽しかった。これは単なる儂の直感だが、彼奴は悪い奴ではない」
「でも、それはただの直感だろ?信じられーー」
「私は、いいと思うよ」
透き通る美声に、誰もが心を奪われる。それは、女である私も同じだ。
その言葉を発したのは、ミィトだった。先ほどの彼女からは考えもつかない声だ。その場にいた全員の視線がミィトに降り注ぐ。気がつくと、窓から朝焼けに染まる町が覗いていた。
人格が変わったのだ。
私はそう感じる。今までの威圧もなく、ただの女の子という雰囲気だ。そして、彼女は1日ごとに人格が変わる。その人格は3パターン。偉い感じの男性の人格、可愛い女性の人格、そして控えめな男の人格。1つ1つステータスにも変化があり、偉い男性だと攻撃力、可愛い女性だと魔力、控えめな男だと素早さが格段と高くなる。使い勝手はいいかもしれないが、人格によって行動パターンも違う。それに、全てがミィト自身であり、本体という者は存在しない。それくらいだろうか。
「……意見はない?」
ミィトは小首を傾げる。
「で、てすが……。理由はいかほどに……」
「理由……か」
彼女は1つ間をおく。
「私の直感かな」
誰もが心の奪われそうなウインクをする。最初に我に返ったワヤが、呆れたようにため息をつく。
「はは。君も直感かよ……」
前の人格の時よりかは空気が和んでいる。こちらの人格のほうが、ヒヤヒヤすることはないし、突然怒鳴られることもない。みんな、この人格が現れる日を望んでいた。
「でも、監視することに越したことはないと思うよ。私だって、あの子のことはもっとよく知りたいし。転生者を見るのは、2回目だしね。貴重なデータが出るかもしれない」
「ごもっともな意見ですね。では、私が行きましょうか?」
私は立候補する。ワヤに任せれば、勢いで殺してしまいそうな気がしたからだ。
「うん。よろしく頼むね」
こちらの人格は、可愛い女の子というよりかは幼女に近いような気がするといつも思っている。だが、そんなことは口にしない。
「では、早速行ってまいります」
「気付かれない範囲でやって。あの子、風圧感知を持っているから。近くで動けばすぐに見つかるよ」
「は」
魔法陣を起動し、私はすでに消えてしまった男のあとを追跡する。そして、塔に残された4人は、解散となり次々に家への帰って行った。最後に残ったのはミィトだ。顎に手を添え、何やら考え事をしている。
(それにしても……)
ミィトは鑑定でみた結果に思考を巡らせた。男の方はわかったが、女の方は謎の種族だ。
(鳥獣人とはなんなのだろう?ユニークスキルの羽変化という見たことないスキルも持っていたし……。獣人というのは明らかだね)
口外するつもりはない。自分に利益が出ることもないし、相手が悲しむだけだ。男の称号に仲間思いと書いてあったぐらいだから、その仲間を奪うことはしたくない。結構、私は平和主義なところがあるのだ。
活発に動き始めた町を見下ろし、私は1人その景色を眺めていた。
次回から『もう1人の転生者』編です。
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