第46話 脱出
「僕、お姉ちゃんと一緒に迷っちゃった。どこかに、帰れる場所はない?」
お姉ちゃんというのは当然シーファ。すまんな。勝手に役を決めて。
数人の人間たちはぎょっとして目を見開いていたが、すぐに冷静になった。
「どうしてこんなところに子供が?」
「迷い込んだのか?」
「そんなはずはない。だって、あの魔法陣は強力だぞ?ただの子供にーー。あ、お前お姉ちゃんがいるとか言ってたよな?そいつを連れてきてくれ」
俺は一人一人の顔を確認する。そして、見覚えのある顔を見つけた。
おじいちゃーーゲフンゲフン。温泉好きのサンカーだ。前あったなあ。で、ここはギルドマスターのサンカーがくるぐらいのヤバイ場所なのかな?俺きちゃいけなかった?
そう考えながらもシーファを連れてくる。スライムたちは待機だ。さすがに見せたら襲いかかってくるかもしれないし。
「シ、シーファです。この度は本当にすいませんでした」
礼儀よく謝るが、周りの人たちは怪訝に眉をひそめる。
「少しフードを脱いで顔を見せてくれないか?覚えておきたい」
マズイ。これではシーファが獣人だということがばれてしまうぞ。しかし、シーファはギリギリ獣耳が見えない位置までフードを脱ぎ、顔を見せた。そして、またフードを被りなおす。これで満足したのか、もう追求してくることはなかった。
「それで、会議の内容は聞いたのかな?」
細く、イケメンな男性が優しく話しかけてくる。俺は首を横に振った。すると、彼の目が怪しく光る。何か違和感を感じたが、それ以外は何もなかった。
「……は?」
男性が口をぽかんと開ける。どうしたんだ?やっぱり俺変なことでもした?
「ぼ、僕の《告白》スキルが効かない?どうして?」
周りがざわつく。それも、4人の人たちだったが。1人は例外として椅子に座っている。こちらには目もくれていないようだ。
そのスキルが効かないのは、きっと《告白》は状態異常系なのだろう。いわゆるば、ゆるい洗脳みたいな感じ。だけど、俺には効かないんだなぁ。残念!
「お主、一体何者だ?子供とは思えない」
サンカーが話しかけてくる。もう、隠せないな。子供の方がすぐに帰してくれるかと思っていたんだが。
俺は元来た扉の奥に消え、次現れた時は身長も高く子供の面影は消えていた。
「よう。久しぶりだな、サンカーさん」
「お前、誰だ!?子供はどうした?」
「俺がその子供。なあ、覚えているだろ?」
サンカーに呼びかけると、彼は信じられないものを見たという感じで頷いた。それを見て、また周囲がざわつく。
「ねえ、貴方はユニークスキル持ちなのね?」
中でも美人の女性が俺に話しかける。あまり明かしたくなかったので、どうだろうなとだけ答えておいた。
「まあ、誰でも自分の手を打ちは明かしたくないもんね……。例外はいるけど」
ちらりと先ほどの男性を見る美女。男は怒ったように、美女に食ってかかった。
「お前、喧嘩売ってるの?こっちは全然買うけど」
「あら、奇遇ね。私も最近ストレスを発散したかったところなのよ」
尋常ではない殺気が室内を埋め尽くす。俺は平気だったが、シーファは絶えず身震いを繰り返していた。
「あのなあ、俺たち迷ったって言ってるだろ?早く帰してくれない?」
美女と男性はムッとする。この2人が付き合ったら美男美女の誰もが羨むカップルになるだろうと俺は思った。
「貴方、かなり言葉使いが悪いわね。ギルドマスターに逆らうつもり?私、イライラしているの」
「さっきは弾かれちゃったけど、単純な戦闘なら君よりも強いと思うよ。それでもやっちゃう?」
なんだよこいつら。好戦的すぎるだろ。でも、この人たちステータスがサンカー並みに強いから逆らうのはダメだな。でも、俺に敬語は似合わないからこのまま突っ切るぜ。
「ああ。すまんな。それで、帰してくれないか?」
「ぐぬぬ……感情がこもっていない」
「もう、この子嫌い!」
その時、ため息を吐くのが聞こえた。1人のツインテールの女性が、男と女を睨む。
「お前ら、ごちゃごちゃとうるせーんだよ。少しは自重しろ」
あれ?女なのに男口調?
「す、すいません」
すると、さっきまでの熱が嘘だったかのように2人は縮こまった。この人、結構上の立場なのかな。鑑定鑑定っと。
ミィト
種族...人間種
状態異常...なし
《ユニークスキル》
・多重人格
『ステータスがかけ離れているため、他の情報は取得できませんでした』
見れなかったか。っていうか、今の俺でも見れないステータスはあったんだ。
「多重人格……?」
思わず口にしてしまい、ツインテールのミィトは軽く眉をひそめた。
「お前、鑑定持ちか?」
「……」
黙秘を続けていると、ミィトはまた大きなため息をついた。サンカーさん以外全員がビクついている。こいつ、かなりヤバイのか?
「もういい。帰れ。聞いてるかは知らんが、ここで見たものは聞いたものは誰にも言わないこと。それでいいか?」
周りの人たちが、早く頷けと促している。俺は頷き、奥と魔法陣へと進んだ。
「1つ聞いていいか?」
ミィトが言う。
「あっちの魔法陣を起動したのは君か?」
「……そういうことになるな」
そう言うと、ミィトは何もしゃべらなくなった。背中を向けて、腕を組んでいる様子がわかる。俺は、その場を後にするべく魔法陣を起動させた。
魔力を込める。魔力の使いすぎか、目眩がしたが構わず魔力を注ぎ込み続けて無事、塔からの脱出に成功した。




