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第41話 決着と一休み

「ギュウゥゥゥゥ!ギイイイ!」


 悶え苦しむルーゲラビートルは、目の前に突如現れたスカイホースを睨みつけた。俺も同じ思いだ。何故、シーファを守ったのか、意図がつかめない。どこから現れたのかも不明だ。今は、安全かどうかわからないしここは一度シーファののところへ行って安全な場所へと避難を……。


「シーファ」


 ビートルを警戒しながらそばに駆け寄り、彼女の手をとる。


「大丈夫か?」

「はい。私はこの通り、無事ですよ」


 安堵の息をつく。シーファが普通に話してくれたのも嬉しい。しかし、今は横のスカイホースだ。あいつが何者なのか、しっかりと聞かないと。


「あの魔物は?」

「私の中のスカイホースです。乗っ取ろとしていたところを説得して条件付きで私たちの味方をしてもらうことになったのです」

「スカイホース?危険じゃないのか?」

「大丈夫です。襲わないようになっているみたいですし。少なくとも使者とか言っている私だけですが……」


 最後の方は声が小さくなったが、彼女がここまで言うなら信用してもいいだろう。スカイホースは角が折れたルーゲラビートルの正面に立って高く嘶いた。俺はそいつへと近づく。


「これからは俺がやる。これは、シーファを守れなかった俺の問題でもある。やらせてくれ」

『……』


 何も喋らずに、スカイホースは後ろへ下がった。そして、シーファの体の中へ黒い煙状になって消えていく。俺は目の前の魔物に意識を集中した。すでにビートルは混乱状態から治っており、さらに怒った様子で俺を見つめていた。自慢の角を折られたものだから当たり前だろう。


「《偉大なる光の精霊よ。闇を退け世界をその光で満たせ》」


 詠唱が完了する頃、ビートルは何か危険を察知したのか突進をかましてくる。俺は宙返りでひらりと避けた。


 ……以外と俺って身軽!?


 って、そんなことはいいから!


 余計なことを考えてしまうのが俺の悪い癖だ。それが命取りになるかもしれないからな。


「聖柱!」


 壁の目の前で方向転換したビートルの足元に巨大な魔法陣が広がる。それは光り輝き、危険を察知して逃げようとするビートルをのみ込んだ。

 

「ギュエエェェェェ!」


 叫ぶビートル。光の柱が全てを焦がし、跡形もなくビートルは消え失せた。これ、逃げられる可能性もあるし時間もかかるし弱った時にしかできないから最初にはあまりやりたくないんだよね。


「やりましたね!サトル!」


 シーファとハイタッチをする。そして、俺はあっと気がつく。突発部位も一緒に焼いちゃった。


「突発部位はいいのです。サトルが無事ならなんでもオッケーです!」

「ありがとう。シーファ」


 前世の俺ならリア充死ねとかやってたけどこれはこれでいいな。……シロはどうしているだろうか?


 シロというのは俺の犬のペットだ。俺が勝手に死んで、全く違う世界に転生して良かったのか?


 不安しかないが、今の俺には何もすることができない。いや、あるんじゃないか?誰か他の世界に転移できるスキルを持っているやつを殺せば、変化でいけるんじゃないか?


 そこで俺は気がつく。人間は変化対象にならないことを。今までだって、人間を殺してその人間に変化できるという情報は来ていない。シーファを捉えていた敵のボスは融合とかギガパワーとか持ってたけど、人間には変化できないからそれはゲットできていない。


 じゃあ、協力をお願いすればいいのでは?仲良くなって元の世界に戻ってシロを連れてきてからまたここに戻るーーみたいな。なんかそんなスキル持っている人はいないかなぁ。


 そこで2人だけ思いつく。1人はパグ。俺を転生させた超偉大な神さま(自称)だから他の世界にもいけるかもしれない。そして、もう1人が死神だ。前はかなり愛想がよかったし、シーファとも仲良くなったはずだ。もう少し和解すれば、何かしら手伝ってくれるかもしれない。死神がそのスキルを持っているかによるが。


 ……めちゃめちゃ話が逸れたな。話を戻そう。今、俺が考えている間にはすでにギルドの前に来ていた。俺は、受付の男の場所までこれでもかというぐらいのスピードで迫る。


「ここに、風呂はあるか!?」

「え?あ、はい。でも料金が……」

「なんでもいい。入らせろ。金はたっぷりある」


 俺は金をすぐに払うと、風呂がある場所へと案内を急かした。もうただの迷惑客だな。ワイ。


「こちらが風呂場になります。男性用の風呂場が右で、女性用が左となっております」


 そこまで言うと、男性は急いだ様子で受付まで戻って行った。すまんな。


 因みに風呂はシーファの分も払っている。彼女も旅の疲れを癒したいそうだ。あ、普通の風呂だと翼と耳が見えるから、個室の風呂な。


 集合場所は部屋にした。俺たちはそれぞれの風呂場へと入っていく。俺は、早速服を脱いで近くに浮いていた水の泡みたいな物の中に突っ込んだ。この中に入れると、洗浄できるらしい。魔法がある世界って便利だな。


 腰にタオルを巻いて、浴槽へと入る。暖かい湯に浸かると、自然と頬が緩んだ。


 やっぱり日本人だから、風呂は行かなきゃなぁ。ああ、体の芯からポカポカしてくるぞ。この風呂はどんな効果があるんだ?


 壁に紙が貼ってあったので、読んでみると。



【この風呂は、以下の効果があります。

 ・MP回復

 ・HP回復

 ・状態異常回復】



 おお、万能じゃないか。MPとHP両方回復するって、普通に嬉しいな。結構利用者数多いんじゃないか?


 周りには、人が1、2、3、4、5……あれ?5人しかいない。なんでなの?


「その顔、ここに来るのは初めてかな?」


 右から声をかけられる。そこには微笑んだおじいちゃんがいた。常連客って感じだな。


「ああ。この風呂の効果みたら、凄いな、って思って」

「そうだろ、そうだろ」


 まるで自分のことのように喜ぶおじいちゃん。


「だが、ここに来る客は少ないみたいだな。あまり人気じゃなかったのか?」

「前は人気だったのだよ」


 先ほどとは打って変わって顔を暗くする老人。聞かないほうがよかった感じ?


 しかし、おじいちゃんは話してくれた。


「何故かホーンビートルが大量発生するようになって、この宿に泊まるものもいなくなり、ギルドからは受付嬢が去って行った」


 ん?


「巣もわからず、依頼を出しているのだがまだ誰も依頼をこなしたものはいない。これでは、風呂どころかこのギルドにも支障が広がっていって、最後には魔物が発生するというギルドとして潰されるかもしれん」


 あれあれ?


「はあ、誰かホーンビートルを倒してはくれんかな。儂はあいにく忙しいし」


 風呂入ってるぐらいなら依頼いけヤァ!


 っとと。って、俺がそれ討伐したやつじゃん。絶対。あ、まだギルドに報告してないんだった。


「あのう……」

「ん?」


 優しい目で見つめるおじいちゃんは、首を傾げた。俺は告白する。


「それ、俺達(・・)が倒したんだけど」

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