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第40話 スカイホース

「シーファ、援護を頼む!」

「……」


 無視されたかと思ったが、彼女はしっかりと頷いていた。この状況で仲間割れすると危ないことはシーファもわかっているのだろう。


「キュルゥゥゥゥ……!」


 ほのかな光がルーゲラビートルを包む。これ言いにくいからビートルでいいかな。ただのカブトムシになっちゃうけど。


 さっきの光はきっと奴のスキルの中にあったクイックだ。素早さを上げてきたのだろう。くそ、あの状態でまだ素早さあげられたらこっちもきついぞ。俺はギリギリいけるがシーファは分からない。ターゲットが変わってシーファだけを狙ってきたら最悪だ。だから。俺がビートルの注意を引かなければ。


「こっちだ、ルーゲラビートル!」


 大声を張り上げると、思惑どうりビートルの目がこちらを向いた。こいつの目も、やはり濁っている。何故だろう?状態異常には洗脳とか書いてなかったしなぁ。


 俺とビートルは睨み合う。その間に小声でシーファが詠唱を始めた。俺もいつでも変化ができるように構える。最初に動き出したのは、ビートルの方だった。とんでもない速度で走り、その場所には幻影が残る。気がついた時には、俺は壁に押し付けられていた。


 ズブズブと角が俺の腹に刺さり、激痛が走った。ビートルの顔を殴ろうとするが、距離が遠くて届かない。シーファの風刃も弾かれる。俺は変化をした。


 スライム!


 軟体生物になったおかげで俺は腹の場所に自分で穴を作り、角から逃れた。急にスライムになった俺に混乱しているのか、すぐにはビートルも動けない。その状態を狙って、俺はルーゲラベアーに変化した。地獄の一突きは溜めが必要なので2連突きでその甲羅を削る。しかし、傷跡がついただけでビクともしなかった。やはりヤバイな。この防御力は。


 角を振るってきたので俺が真上に飛び退くと、そこを狙ったかのように先ほどとは比べ物にならないぐらいの大きさの風刃が1つ飛んできた。いつもは3つだが、その分の威力を一撃に溜め込んだのだろう。この方が、一箇所に攻撃が集中していい。


 風刃は角にぶつかるかと思ったが、急に方向を変えてビートルの右目に当たる。悲鳴をあげてビートルは一歩下がった。きっと風圧変化で軌道を変えたんだな。俺はそこを見逃さない。片目が突然見えなくなったことで暴れるビートルの真上にジャンプをする。そこから落下の衝動とともに地獄の一突き!手に宿した炎が広がってビートルの体を包んだ。


「ギュウゥゥゥゥ!」


 苦しそうに唸るビートル。殆どの物はこれで相手を殺したと勘違いするだろう。しかし、俺達(・・)は違う。決して相手が息絶えるまで気を抜かない。案の定、ビートルは羽ばたきで火を消して見せた。しかも、スキルに火耐性が追加されてる。もう同じ手は使えないな。相手ももう俺の攻撃の仕方を知っちゃったみたいだし、次は上手く立ち回ってくるだろう。


 ビートルの甲羅は焼けただれていた。これでダメージが通りやすくなったはず。だがその代わりと言っちゃあなんだが、顔を怒りの表情に歪ませていた。先ほどの動きとは似つかないようなほどのスピードで近づいてくる。それも、これだけ怒り狂っているのに冷静さを失わずに俺を翻弄しながら近づいてくる。


「もらった!」


 目の前に来たところを狙い、俺は毒爪を発揮した。しかし、たやすく避けられる。避けられるとは思っておらず、反応が少し遅れた。


「ぐっ……」


 俺の腹の傷にさらに攻撃を加える。横から地獄の一突きをかますが、今度はすぐにかわしてシーファの方へ向かった。


「しまっーー」


 動き出した俺に、すかさずビートルの風刃が送られてくる。それを避けるが、腹の痛みは一層増した。


「シーファ!」


 痛みなど知らない。俺は走り出す。だが、その時にはすでにビートルの鋭い角がシーファの喉づらに突きつけられていた。そのままビートルは羽ばたいて全てを突き刺そうと進む。俺は目を閉じた。


 ーー無理だった。俺は、シーファを助けられなかった。あの時、約束したのに。俺は守ると言ったのに。


 ガキン!


 人を刺したとは似つかない音が響く。ゆっくりと目を開けると、そこには翼を持った大きな馬とシーファが。シーファは驚いたような表情をしていて、馬は前足で角をへし折っていた。そいつは俺の方を一瞬だけ見る。


『人間。次ハヘマスルンジャナイゾ』


 俺の頭の中に、直接声が響いてきた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 シーファはサトルの援護をしながら考えていた。あの時は、少し悪いことをしてしまったなと。


 この戦いが終わったら謝ろう。


 そう決心をする。しかし、サトルが傷つくところを見ていて、私は不安になった。


 戦いは本当に終わるのか?私たちはここで死なないかと心配になってくる。そこで鬱陶しく話しかけてくるのは例のスカイホースだった。


『ソノママ死ネバイイ。楽ニナル。オレモ解放サレテ静カニ暮ラセル』


 ずっと、死ねばいいの繰り返しだった。私は心の中で言い続けている声に、反論する。


『死んだら、貴方はどうなると思いますか?私と一緒に天国に行くか、死神に連れられて冥界に行くかの2択です。いや、どっちにしろ貴方は魔物だからどこに行くかわかりませんけど、人より悪い対応を受けるのは確かなことです』

『……オレガ、死ヌ?』


 自分が死ぬことは考えていなかったみたいで、スカイホースの声はわかりやすく震えていた。


『人間ニ融合サレタママデオレノ生涯ハ終ワルノカ?嫌ダ。嫌ダ。嫌ダ嫌ダ嫌ダ嫌ダ!』

『私だって、こんなことになるとは思ってもいませんでした。幼い頃だったから故郷の名前すら覚えていないし、風景なんて一切思い出せません。両親も生きているかわからないんですよ。けれどもーー』


 私は心の中に秘めた想いを暴露する。


『サトルがいるから、ここまで頑張れました。私は、サトルが好きになってしまったようです』

『ス……キ?』

『そうです。でも、サトルには言えません。だって、迷惑がると思いますから。だけど、たとえ思いが伝えられなかったとしても私は期待に応えられるように頑張りますよ』


 特大の風刃を作り出し、ビートルに発射する。風圧変化で上手く起動を変え、右目に命中させた。


『大切ナ人……オレモ、イタ。両親ハ人間ニ殺サレタ。その人間ハオレモ殺ソウトシタガ、必死ニ逃ゲテ助カッタ。ダカラ、人間憎イ!』


 ビートルがサトルの炎に焼かれる。私は決して警戒を緩めない。


『少なくとも私たちは貴方に危害を加えません。だから、手伝ってあげたいんです。それが、私を乗っ取らない条件』

『手伝ウ?』

『その貴方の両親を殺した人間に復讐をするのが、望んでいることなんでしょう?だから、私も参加します。その人は、1人の転生者だから……』


 スカイホースとの記憶を協調できるようになったシーファは、その人の顔を知っていた。それも、危うく私を奴隷にしようとした人間。サトルのいう1人目の転生者だった。


 その人とはルーゲラ大森林で会った。私の翼を見て、これは高く売れると意地悪い笑みを浮かべていたのを思い出す。そのあともストレス発散のためにサンドバッグにされたり、散々な目にあった。だから、私もその人を強く憎んでいるのだ。きっとサトルも許してくれるだろう。


『……ノッタ。面白ソウダ。ダガ、アクマデモオレガ付キ合ウノハソノ人間ヲ殺スマデ』

『分かった。ありがとう』


 すると、私の方にビートルが突っ込んできた。それもとんどもないスピードだ。スカイホースはそこで叫ぶ。それも念話の中だが。


『心ノ中デ、オレノコトヲ叫べ!オ前ヲ守ルヨウニ!』

『え?どうして?それに名前は……』

『ナンデモイイ!早クシロ!』


 ビートルは私の喉元に迫る。サトルは絶望的な表情を示していた。


『……ミライ!私を守って!』


 すると、大きな影が現れてビートルの角をへし折った。それは、スカイホースだ。彼は、サトルの方を向いて一言言う。


『人間。次ハヘマスルジャナイゾ』

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