第39話 ルーゲラビートル
絶望絶望絶望…………。
ああ、もうお前ら全員炭になって死んどけ!
俺が魔法を打つと、巢の中にいたホーンビートルは悲鳴をあげて死んでいった。
《ホーンビートルを倒しました。経験値合わせて652獲得。レベルが38に上がりました。ホーンビートルに変化することが可能になりました》
頼まれたって変化するかよ!
そうして俺たちは巢に向かって魔法を打つ仕事を繰り返した。
いつまでそうしていただろう?いつの間にか、上がってくるホーンビートルはいなくなっていた。シーファは魔力切れのようで肩で息をしている。だが、かなりもってくれた。前とは比べ物にならないぐらい威力が上がっていたし。俺が追いつかれるのももしかしたらあるかもしれないな。
「まだ中にいるかもしれません」
お前は鬼か。俺が嫌がってるのわからないの?
「ですが、サトルが死にそうになりそうなので中には私1人が入ります」
えっ、ちょーー。
「サトルは待っててください。私が、残りを倒してくるので心置きなく休んでいてくださいね」
その言い方はずるい!わざとやってるのかな?って、俺がシーファを1人にしたくないこと絶対に知ってて言ってるだろ。酷い話だ。
そうして俺は、ホーンビートルの巢の中に入ることになった。
「中は思ったより綺麗ですね。てっきり汚い感じかと思ってはいましたが」
それに関しては俺も同感だ。これで中が虫の残骸だらけだったら俺は狂ってこの国を壊す自信がある。そのために火魔法を連打してたんだがな。
ずんずん進むシーファとは違い、俺は慎重に歩いていた。だって、どこから襲われるかわからないんだもん。風圧感知も全開で発動し、わずかな風圧も逃さないようにしている。今までではこれといった風圧は感知していないし、ホーンビートルを見てもいない。きっと、火魔法で焼け焦げたか窒息死をしたんだろうな。今はシーファが風圧変化で外の風を送り込んでいるからいいけど。
「どうやら、全滅したみたいですね」
シーファのその言葉で、俺は安堵する。その時、緊張を解いたのがいけなかった。風圧感知に引っかかった時にはもう遅い。俺の背中にそれはぶっささった。
「がっ!?」
痛い。防御力はあるが、普通に痛い。
俺がその刺さったものを引っこ抜くと、さらに激痛が走った。俺を刺した張本人はホーンビートルよりもかなり大柄で体長は1メートルほど。いやデカすぎんだろ。
8本ではなく10本の足で、やっぱりあのカサカサという音を立てて地面を引っ掻いていた。俺が掴んでいるため、逃げられないのだろう。ここで、普段なら蹴ったりなんだりしていたが、Gを掴んでいると気づいた俺は、悲鳴をあげて遠くへぶん投げた。
「キュルル……」
背中にある羽をブーンという音を立てて羽ばたかせる。華麗に地面に着地すると、猛スピードで近づいてきた。
「うおっ!」
怖い怖い怖い怖い。
俺は身構えただけで攻撃はできない。シーファの風刃も余裕で避け、まだ身動きできない俺の横をすり抜けていった。そのまま奥の方へと消えていく。安堵の息をつくが、すぐにシーファに奮い立たされた。
「追いましょう」
もう一度言うぞ。お前は鬼か。
「悪いが、俺は役に立ちそうにない。ここは一旦ギルドに申告して他の冒険者が倒すーーって、痛い痛い!引っ張るなよ、おい!」
シーファは乱暴に俺を引きずりながら巨大ホーンビートルの後を追った。その姿を見て、俺は気がつく。
シーファは怒っているのだと。
どんな敵にも屈しなかった俺が、あんな昆虫ごときにビビっている姿を見て情けないと思っているのだろう。そして、しまいには他の冒険者になすりつけて帰ろうとしたところで彼女の堪忍袋の緒が切れた。
「わ、悪かった。自分で歩くから、離してくれ。ちゃんとあいつを倒すからさ?ね?」
必死に説得しているとシーファは急に手を離した。
「うおっとっと」
転びそうになったがすぐに体制を立て直して、シーファの後を追う。その道中も、彼女は話しかけてくれなかった。俺も話そうとするが、話題が見つからず開きかけた口を閉じる。
奥まで進んでいくと、急に開けた場所に着いた。その中には何百という白い卵が密集している。思わず吐きそうになったが、なんとか堪えた。
「キュウウウ!」
頭上から風圧。ああ、仕方ない。やればいいんだろ!もうどうなっても知らん!
剣を抜き、真上へと切りつける。しかし、ぎりぎりで回避した巨大ホーンビートルにはかすり傷1つつかなかった。シーファも杖を構える。俺は鑑定を行った。
ルーゲラビートル
種族 昆虫種
状態異常 なし
レベル58
HP...420/420
MP...100/100
攻撃...150
防御...315
素早さ...197
魔法...65
《スキル》
・風刃・風圧感知・砂煙・クイック
《称号》
・俊足・人間殺し
ルーゲラビートル!?なんでこんな場所にルーゲラ大森林の魔物がいんだよ!しかもくそつええ。防御300超えは初めて見た。攻撃だって、素早さだって油断したら俺だって追いつかれかねない。ヤバイな。こいつ、かなりの強敵だぞ。
よし、俺のステも一応見ておこう。
サトル・カムラ
種族 人間種
状態異常 なし
レベル40
HP...490/580
MP...620/1090
攻撃...228+10
防御...210+10
素早さ...214+10
魔法...315+10
《スキル》
・状態異常無効・鑑定・火魔法・聖柱・風圧感知・意思疎通・言語理解
《ユニークスキル》
・変化
《称号》
・神に気に入られた者・感知ができないただの馬鹿・怒ると怖い・仲間思い・馬鹿買い・詐欺師・ドジ
おお、高くなってる。でも、防御だけは相手の方が高いか。いや、ぶち破ってやんよ。
さて、やろうじゃないか。
ん?
足が震えていることは気にしないでくれたまえ。




