第36話 意思疎通
「これで全部のようだな」
「はい。そのようです」
俺とシーファは辺りを見回し、敵がいないことを確認するとギルドの前へ戻った。ルーゲラバイガルはいなかったが、その代わりにたくさんの冒険者が俺たちを讃える。嬉しそうに微笑むシーファとは裏腹に、あまり目立ちたくなかった俺は少し不機嫌だ。
逃げるようにギルド内に入ると、ミーノが迎えてくれた。
「お帰りなさい!聞きましたよ。ギルドの前にいた殆どの魔物を殺してくれたんですね?私たちも安心しました〜」
俺は1つぺこりと頭をさげる。シーファはミストバードの突発部位の嘴を3つ差し出した。それと同時に俺も依頼紙を出す。
「えーと。三羽で銀貨3枚です。それと、報酬も合わせて全部で銀貨5枚です」
お金を受け取ると、俺たちは何泊かお金を払い部屋へと戻った。疲れたようにシーファは寝転がる。俺もベッドに転がり、2人で夢の中に入った。
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ーー憎イ、憎イ、憎イ……。
私ーーシーファは目を開けた。周りは真っ暗闇で足元さえ見えない。なぜ、どうしてこんなところへ来てしまったのかと思考を巡らせたが、これといったものは考えつかなかった。
ーー人間ガ憎イ……。
眉をひそめる。この空間のどこかで何者かが呻いていた。その姿は見えない。これが、私をあの時操っていた奴の正体なのだろうか。
ーー何故オレガ、コンナ目ニ。何故。何故。何故。何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。
念仏のように繰り返す言葉を遮ろうと耳を塞いだが、その声は直接頭に響いていた。
「どこにいるの!?」
今度は姿を見つけようと声をはりあげる。その途端、ピタリと全ての音が消えた。
ーーオ前ガ、全テヲ奪ッタ!
影が私に近づいてくる。それは私よりも大きかった。
「……スカイホース?」
大きな翼に青色の体。その瞳は黄金に輝いている。私は驚嘆の声を上げた。
「どうして?なんでここに、スカイホースが……!」
スカイホースは前足を振り上げた。殺されると思ったが、私に届くギリギリで迫っていた足は止まる。スカイホースは苦しそうに喘いだ。
ーーオレハ使者ヲ殺スコトモ出来ナイ。ソレモ、全テオ前ノセイダ!
「私じゃない!」
私は反射的に叫び返していた。スカイホースは前足を下げて少しだけ怯む。
ーーモウ、オレハ……何モカモ、ナクシテシマッタ。ダカラッ!
敵意に満ちた目で私を見つめるスカイホース。今度は私が怯む番だった。
ーーオ前モ奪ウ!全テ!
そして、周りは輝いた。眩しくて目を開けられない。手を伸ばしたが、そこには何もない。そこでシーファの意識はぷっつりと途切れた。
《スキル意思疎通を手に入れました》
スカイホースの頭に女性の機械音が響く。シーファの頭には、何も聞こえていなかったが。
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悟は目を覚まし、起き上がった。横にはシーファが寝ている。ウンウンと唸り、魘されているようだった。その背中をさすってやると、彼女はすぐに起床した。その目は恐怖に怯えていて、余程悪い夢を見たようだった。
「おい、大丈夫か?」
「サトル……サトル!」
シーファは俺に抱きつく。俺は混乱したが、いつものように抱きしめ返した。
「怖い……嫌だよ、サトル……」
彼女は俺に夢の内容を話してくれた。俺は相槌を打ちながら真剣に聞く。全てが話し終わると、シーファは落ち着いたような表情に戻っていた。
「夢の中に、自分の翼のスカイホースが現れてシーファの全てを奪うと?」
「そうです。すごい恐ろしい形相で、私を睨んできました」
すると、シーファはまた苦しそうに喘ぐ。
「何故か、今もあの声が聞こえるような気がするのです。どうしたのでしょうか?私は……」
試しに鑑定をしてみる。
シーファ
種族...鳥獣人
状態異常...なし
レベル...19
HP...80/80
MP...140/140
攻撃...40
防御...31
素早さ...82
魔法...91
《スキル》
・風刃・風圧変化・MP自動回復・火球・水球・風球・ウォールバリア・ヒール・エリアヒール・料理・飛行・意思疎通
《ユニークスキル》
・羽変化
《称号》
・風使い・実験台・融合された者・寂しがりや
ん?特に何もないような……。あ、実験台の核印がなくなってる。ステータスも元どおり、ってそうじゃなくて。スキルに意思疎通があるんだがあれ前なかったよね?誰に意思疎通するの?
そのことを伝えると、シーファは目を見開いた。
「意思疎通……!じゃあ、今聞こえてるのはあのスカイホースの……」
恐ろしいことを聞いているかのように彼女はブルリと震えた。
「何をしゃべっているんだ?聞いたものを話してくれ」
少し間が空き、シーファは口を開いた。
「乗っ取る。体を乗っ取って世界を滅ぼす。まずはオ前カラダ、サトル!」
様子がおかしくなっていく。俺はすぐにシーファを揺さぶった。
「……っ。私は何を……」
これはかなり深刻な状況だぞ。早く解決方法を見つけなければいけない。
俺は部屋を出てギルドのミーノに話しかけた。
「突然ですまん。どこかに有名な医者がいるか、知ってるか?」
「医者ですか……」
突然でもかかわらずミーノはすぐに対応してくれる。
「ここにはあまり名の高い医者はいませんが、ロット国なら結構いると思いますよ」
「ロット国?」
「ここからルーゲラ大森林をこえたところにあります。ですが、ルーゲラ大森林は危険なので迂回していったほうがいいですよ。あ、あとランクアップおめでとうございます」
俺はランクアップしていた。今はそんなことに思考を巡らせている場合じゃないが。
「ありがとう。少し留守にするぞ」
「では宿泊費をお返しいたします」
仕事が早い。俺はお金を受け取ると、すぐに出発の準備に取り掛かった。




