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第35話 帰還したけど……

 そのまま俺たちは飛んでいった。人に見つからないよう、かなりの高度を飛んだが騒ぎにはなっていないようで安心した。街から3キロほど離れたところに着地し、そこからは歩いて帰る。俺は歩きながら本を読んでいた。植物図鑑に、魔法図鑑と魔物図鑑。全然読めていないが、隙あればこうやって頭の中に叩き込んでいる。それはシーファも同じだ。魔物は見たことあっても、名前までは知らないしな。


「よう、お二人さん」


 後ろから声をかけられ、振り向くとそこには御者のライズがいた。あの時ほどではないが、それなりの大きさの馬車に乗っている。


「どこまで行ったんだい?」

「深淵の滝まで依頼でね」

「深淵の滝まで足で行ったのか?それはご苦労さん。あと少ししかないが、今回は特別にギルドの前まで案内してやるよ」


 おお、気前がいいね。


 お言葉に甘えて馬車に乗り込む。前みたいな空間魔法は施されてなかった。まあ普通の馬車だし。


「ミストバードでも倒しに行ったのかな?それとも霧の調査?」

「前者の方かな」

「ほう、だが気をつけろよ。霧の中に入ったら2度と出れないっていう噂があるからな」


 俺たちは飛べるから問題ないんだけども。


「それにしても、最近は魔王の動きが活発だよなぁ〜」


 魔王!!


「魔物が急激に増えて、今日だけでも、えっと……4だ。4回襲われたんだ」

「そんなに襲われるんですね」


 シーファが言う。姿は見えないが、ライズの声だけが返ってきた。


「普通はこんなに襲われることはないんだぜ?こうなればもう魔王が動き出しているってことだろ」

「それってヤバイのか?」

「ん?そりゃあヤバイに決まってるだろ」


 ライズは説明してくれた。魔王の動きが活発になるとどうなるのか。それは、魔物が増え人間への被害が多くなること。魔人が国まで攻め込んできて滅びることもあるということ。異常気象が起こり、農作物が育たないこと。魔王城から汚染された空気が流れ込んで病気にかかるものが多くなること。ライズが知っているのは以下のものだったが、これだけでも人間滅亡しそうな気がする。


「そんなに知っているってことは、一度見たのか?」

「見たさ。その時はエルシャルト国の騎士だった」


 昔、ライズが騎士だった頃に一度だけ魔王が攻め込んだときがあるという。その時の国は魔王の影響によって壊滅状態で、その状況の時に襲いかかってきたらしい。ライズは少しだけ魔王と剣を交えたが、あっさりと敗れてしまったのだとか。しかし、そこに勇者が現れて魔王を一時退散まで持って行った。そこからは国も復活し、深手を負った魔王も魔王城でおとなしくしていたのだが……。


「今、動き出したと?」

「そういうことだ」


 なんか関わってきそうだなぁ。魔王。勇者っていうのも気になるし。まあ、今の所は頭の隅に置いとけばいいだろう。


「ライズさんは騎士だったのに、なぜ御者になったのですか?」

「魔王とぶつかった時にな、凄まじい衝撃波で足がダメになっちまった。もう騎士なんてやれなかったのさ」


 ライズはしんみりとした口調で言う。次にあげた声は今の雰囲気をかき消した。ある意味で。


「おい!国に魔物がいるぞ!それも大勢!少し飛ばすからしがみついてろ!」


 突然のことで、何もできず俺たちは床を転がった。


「いてて……」


 舌を噛みそうになったので、慌てて口を閉じる。ようやく掴んだものは、手すりのような場所だった。シーファも顔を青ざめながら手すりを掴んでいる。馬車って怖え。


 漸く馬車が止まったかと思い外に出ると、そこはギルドの前だった。多くの人が剣を持って魔物たちと交戦している。俺はフラフラしている気を引き締め、真っ黒な剣を抜いた。


 敵はここの前だけで大体30。蛇だったりゴブリンだったり、いろいろな種類の魔物がいる。


 その他にも一際大きいのが、蛇の頭を2つ持っていて馬の体を持っている……ってあれルーゲラバイガルじゃね!?なんでいんの!?


 くっ。まずは周りのやつを殺してからあそこに行くか。


 ルーゲラバイガルと思わしき魔物は他の魔物を殺している。あれ仲間なのかな?


 ルーゲラバイガルが炎を吐くとたちまち周りは黒焦げに。殺気帯びた咆哮をあげると周りの冒険者含む全ての動きが止まった。流石。やりぃ!


 ってそんなこと考えている暇じゃなかった。


 俺は動きを止めている魔物たちを剣でなぎ倒して行った。ここで変化を使ったら逆に狙われそうだしやめとこ。でも人間の姿で渾身の一突きは多少できるようになったぞ。前々から密かに練習してたんだ。火を宿らせることは出来るけど、肝心の威力はあまりないが。


 そうやって剣で殺しまくり、たまには渾身の一突きを使ったりして魔物を全て討伐した。周りの冒険者たちは俺を見て感嘆の声を上げている。それはシーファも同じだ。彼女もかなりたくさんの魔物を倒したらしい。


 それで……。問題はあいつだな、ルーゲラバイガル。


 俺がルーゲラバイガルの方を向くが、其奴は無表情で俺を見つめ返してくる。鑑定をすると、あの時のように軽く弾き返された。今の俺でもあいつには遠く及ばないようだ。またダメージを与えて隙を見せてくれれば見れるかもしれないが。


 少なくとも敵ではないかもしれない。それは冒険者とともに魔物を倒してくれていたからだと思う。その証拠に、近くにいても冒険者たちはルーゲラバイガルを気にも求めなかった。


「さっきの炎も嬢ちゃんが出したのか?」

「すげえ。にいちゃんが来た途端に魔物が動かなくなったから、あいつら只者じゃないよ」


 え?なんで?こいつらには見えていない?でも俺には見えているぞ?


 シーファも見えているのかと思い、彼女を見たが、シーファは首を傾げていた。見えていないのだ。


「どうして俺にだけ……」


 そこでパグの言葉を思い出す。


 ーーきっと転生者にしか見えないのかもしれない。


 彼は魔物や遺跡は転生者にしか見えないと言っていた。それと同じで、やつも見えないのではないか?


 ……調べてみたい気持ちは山々だが、今は国を守ることが即決だ。


 俺とシーファは残った魔物を殺すべく走り出した。

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