第30話 ルーゲラベアー
変化って進化あったんだ……ってそう言えば最初の方なんか言ってたなぁ。俺の力のせいでレベルを持つようになった……とか。詳しくは覚えていないが、俺の怪我が全回復した今がチャンス。一回後ろに飛びのいて、と。
後ろへジャンプし、ガイアから距離を置いた俺は選択肢のことについて思考を巡らせた。
きっと、進化をしてもルーゲラリトルベアーは消えないと思う。その後にもレベルを上げられるっていうことを言葉の中にちらつかせてたからな。次までの進化がどれだけかわからないし、ここは慎重に決めるべきか。
ガイアは襲ってこない俺を見て怪訝な表情をしている。彼から襲ってくることも考えたが、全回復している俺相手に真正面から向かってくることはないだろう。そういうことならこっちはじっくり考える。
攻撃特化か、魔法特化か。進化先にどのようなスキルがあるかわからない。今は渾身の一突きに助けられているから、攻撃特化にした方がいいかな?俺は近距離で戦うことも多いしそっちにしよう。体長とかデカかったらちょっとショックだけど。動きにくいし。
《ルーゲラベアーに変化が可能になりました。スキルを表示します。
・真拳波
・毒爪
・2連突き
・地獄の一突き
・毒歯
の5つです》
す、すごい!万能すぎるぞ変化スキル!新しいスキルが5つも増えるなんて!
「……仕掛けてこないか」
ガイアが呟いたのに気がつき、俺は目の前へと神経を集中した。完全にこいつのことを忘れてたぞ。
「やはりこちらから仕掛けなければなっ!」
ハンマーを振り下ろすガイア。俺は冷静にそれを避ける。今度はガイアから距離をとった。
「これは使いたくなかったんだが……」
ガイアが上に手を向ける。ついに、ユニークスキルを使うのか!
俺はユニークスキルが使われる前に駆け出したが、もう時すでに遅し。赤い閃光がガイアを包み込み、凄まじい威圧が辺りを駆け巡った。俺には効かないが。
あまり気乗りはしないが……ステータス観覧!
ガイア
種族 人間種
状態異常 なし
レベル40
HP...390/390
MP...300/300
攻撃...300+7
防御...130+7
素早さ...185+7
魔法...143+7
《スキル》
・気配感知・気配遮断・威圧・50%必中『未完成』・斬撃刃・障壁・火魔法・闇魔法・パワー
《ユニークスキル》
・ギガパワー
《称号》
・組織の頭・汚い・商人襲い好き
気持ち悪っ。攻撃力300って俺を優に越してるじゃないか!もうあいつの攻撃当たったら死ぬ。絶対死ぬ。うう、プレッシャーが半端ない。
拳を構える俺に、ガイアはまた巨大武器を目の前に構えた。暫く沈黙が続く。先に動いたのは悟だった。
「はあああ!」
剣で横なぎりにしようとするが、ガイアはハンマーでそれを受け止めようとした。俺はとっさに身を引く。あの攻撃力で武器同士を交じ合わせたら俺の方が吹っ飛んでしまう。ここは、新しい変化先に身をまかせるしかないか。
ハンマーが俺の鼻をかすめ、突風が吹く。全力で殴っているようだ。おお、怖い。
体勢を立て直し、俺の変化の準備が整った。みるみるうちに体が変わっていく。それはガイアと同じぐらいの身長だった。今まで見上げてきたものだから、真正面から視線が交わって少しひるんだ。だが、俺は雄叫びをあげる。
「な、何が……!」
ガイアが一歩後ずさる。俺は手に力を込めた。まずは真拳波から試していこう。
何か良からぬことを感じ取ったのか、ガイアは後ろへ飛びのいた。俺の拳がさっきまでガイアのいたところに炸裂する。すると、拳から風が出て、それは風刃のようにーー風刃を丸めたような感じでガイアに襲いかかった。
流石は敵の頭だ。直様避けるが、次の俺の攻撃の準備が整っている。2連突きだ。
とてつもないスピードでまだ空中にいるガイアに迫り、右手で殴る。ガイアがその300の攻撃力でハンマーを振り、俺が右手を引っ込めたが、その間を狙って本命の左手が彼を吹っ飛ばした。
すごいすごい。スキルのお陰か、普段で殴るよりも威力が出てるぞ。よし、後は……。
壁にのたれかかっているガイアに近づき、最後の地獄の一突きを食らわせた。
「っ!?ぐっ、た、助けーー」
最後は命拾いをするもんだ。だが、それを許してくれるほど世の中は甘くない!
特大の炎を宿らせた地獄の一突きはガイアを地面に打ち付け、地面を陥没させた。勿論、直撃を受けたガイアは、絶命した。
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広場の奥にあった扉を開けると、4畳ほどの部屋で手足に手錠をかけられていてグッタリとしているシーファがいた。
「シーファ!」
「……サトル?」
シーファは地面に横たわっている。周りに敵はいない。もう、全滅したようだ。
「今、外すからな」
ここは狭いので、小回りの効くルーゲラリトルベアーに変化して渾身の一突きで手錠を破壊する。シーファはホッとした顔をして、俺に抱きついた。
「……シーファ!?」
ようやくことの重大さに気がついた俺は引き剥がそうと手を動かしたが、シーファが泣いていることを知って優しく抱きしめ返した。
「サトル……ありがとうございます。本当に、ありがとう……!」
俺が彼女の涙を手で拭いてやった。目を赤くしたシーファがふぇ?と間抜けな声を出して俺を見つめる。
「笑え。俺が来てやったんだ。もう、心配することはない。俺こそゴメンな。1人にさせちゃって」
「いいのです。こうやって、助けに来てくれましたから」
俺が笑うと、シーファも幸せそうに笑った。そして、ハッとなった俺はシーファからゆっくりと離れる。
「とにかくここを離れよう。俺はここにはあまりいたくないんだ」
「はい。私もです」
俺とシーファは組織のアジトを後にした。




