第26話 王
大きな王冠に全身青色の服を着ていた。片手には魔法攻撃が+10の杖が握られている。鑑定をしてみると、俺よりも少し弱いが、魔法を駆使すると勝敗がわからないくらい相手は強い。俺は変化を解いて人間へと戻った。
かなりの修羅場をくぐってきているのか、変化を解いたことにも驚きを見せず、王(?)は口を開いた。
「この度は姫が迷惑かけてしまって申し訳ない。儂はクラウス。こいつはリンだ。ほらーー」
王(絶対)が促すと、姫は頭を下げた。そのわがままっぷりに、こいつは何をしても頭を下げないだろうと思っていた悟は目を見開く。
「す、すいませんでした!」
あ、でも目はこちらを睨んでいる。やっぱり恨みはそう簡単には消えないものなのだな。
そこでようやくリンを見る機会ができた。整った髪はストレートに降ろされていて、金髪に輝いている。ティアラこそつけていないが、ティアラにと同価値か、それ以上の宝石が輝いたネックレスが揺れていた。胸は少し膨らんでいて、シーファよりは小さい。まだ、幼いのかな?
「幼女?」
思わず口に出した途端、護衛は背中を抑えながらも剣を構えた。リンも鋭い視線でこちらを睨んでいる。しかし、その中で1人だけ爆笑したものがいた。
「はっはっは。リンが幼女か。これは面白い」
王のクラウスだった。腹を抱えてこれでもかというぐらいに笑う。
「ちょっ、ちょっと!?父上?」
顔を赤らめてリンがヒステリックに叫ぶ。
「確かにリンは幼女だな。彼女が気にしていることをそんなにすっぱりいうやつは初めてだぞ。このわがまま姫に、意見をきっちりいうとはな。面白い」
俺のことを気に入ってくれたのかな?ならこっちももう襲われなくてすむからいいのだが。
「入れ。リンのことのお詫びもしたい」
「陛下!?なにをおっしゃるのですか?今あったやつを信用しろとでも?」
護衛はありえないといった表情で王を見つめた。王はふっと笑う。
「最初に手を出したのもリンだ。其奴は何もやってはおらぬ」
「ですが、信用とそれとでは全く話が違うのでは・・・」
護衛が口を閉じる。心なしか、どこか震えている。俺は何も感じなかったが、その場にいた護衛と姫は、ブルブルと震えていた。クラウスをみると、目で威圧を発している。俺も怯んだが、震えることはなかった。
「よし、意見はないな?」
こいつ、自分が決めたことは何があっても押し通すタイプだな。こんなのが王でいいのか?
クラウスはどこか満足した顔でこちらを見る。手招きをされたので、俺は後を追っていった。
姫とその護衛はどこに行ったのか知らないが、俺と王は2人で城の中へ入った。
「なにがいいか?侘びの品をあげたいな。この城の中にならほとんど何でもあるぞ」
「そんなに有名な城なんですか?」
「知らぬのか?こ エルシャルト城はこの世界有数の古代城なのだぞ?」
「・・・古代城?」
「それも知らぬのか。まあ、説明してやろう」
クラウスは説明をしてくれた。古代城というのは、一万前に死神が生きていた時代からあった城だ。強い魔力を流して形を保っており、そのため魔力のせいでボロボロになった遥か昔の本が厳重管理して置いてあるのだ。俺はこの世界の図鑑を読んだことがなかったので、興味が惹かれた。
「それを読ませてくれるわけではないですよね?」
一応聞いてみる。
「無理だな。これだけはシャルの言う通り、外から来た部外者に貸すことはできぬ」
無理か。って、シャルって誰だろう?護衛のことかな?
「普通の図鑑でもいいです。少し貸してくれませんか?」
「おお、それぐらいならいいぞ。植物図鑑と魔物図鑑と魔法図鑑を貸してやろう。魔法図鑑に関しては、かなりな代物だからなくしたら弁償金は光銀貨3枚ほどとるぞ」
わあ、すごい高いね。シーファの羽3本分だぁ。なんか例えが羽だと安く感じるが、決して安くないぞ。
「じゃあ、貸してくれませんか?1ヶ月くらいで返します」
「うむ、いいぞ。それにしても、何も要求せんのだな」
「・・・?」
「普通の冒険者だったら、儂たちが貴族だということをいいことに光銀貨を求めてくるのだ。なのに、図鑑とは・・・変わった者もいるものだ」
俺は何も反応できなかった。だって、誰でも知らない世界に行ったらその生物の図鑑欲しくなるでしょ?何よりも情報が必要な世界ということはどこも変わらないだろう。
図書館まで案内されると、俺は感嘆の息を漏らした。
「これは・・・すごいな」
「だろう?世界中の本を集めているんだ。古代書はないがな」
まあ、古代書はまた違う場所に保管してあるのだろう。
「えっとな・・・これだな。植物図鑑と魔物図鑑の魔法図鑑だ。そうだ、持ち運びも面倒だと思うし、特別にアイテムボックスを貸してやろう。だが、これも図鑑を返すときには返してくれ」
アイテムボックスまで貸してくれるのか。気前がいいな。
「有難うございます」
俺はまたクラウスと一緒に城から出た。そこにはもう姫たちの姿はない。俺は去る際に、1つだけ聞いた。
「どうして見ず知らずの人にここまでするんですか?」
「儂の戦闘の経験上だな。お主からは敵の感覚がない。・・・安心せい、儂は今は老ぼれでも昔は名の高い騎士だったのだぞ?戦闘で相手からの殺気はいつも浴びていたから、よくわかるようになった」
「分かりました。変なこと聞いて、申し訳ありません」
「いいんだ。誰でも、気になると思うしな」
俺はもう一度礼を言って、城を出た後に走った。シーファがいたところに来たが、彼女の姿はない。シーファは外に出ているときはフードを被っていたが、それらしき人物は1人も見当たらなかった。
「シーファ・・・?」
何か良からぬことを感知する。俺は路地裏まで隅々まで探した。そこで、誰かの声を聞く。
「おい、10年前以上昔に逃亡した翼のある獣人が捉えられたようだぜ?何にも、街をうろついていたって」
「本当かよ、それは笑えるな。のこのこ街まで来てくれたってわけか。魔物と記憶でも混合して、アホにでもなっちゃったんじゃないか?」
「はは。面白いこと言うな」
曲がり角の先で誰かが話している。その話題の人物は恐らくシーファ!
俺が考えるよりも先に体が動いていた。曲がり角を曲がった先には2人の人がいる。1人の首を跳ね飛ばし、もう1人の武器を奪って首に剣を突きつけた。
「その獣人の居場所を教えろ。早く!」




