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第25話 姫の護衛と

 街に出ると、そこは祭りのように賑やかだった。多くの屋台と人混みが交わってできている。その中でも、串焼きを売っている屋台が1番不人気だった。俺はその屋台へと近づく。中には中年のおじさんが退屈そうに本を読んでいた。


「おい、ここで串焼きを買いたいんだが」


 その声に気がついたおじさんは俺たちの方を向いて慌てて立ち上がる。


「いらっしゃい。今日はルーゲラリトルベアーの肉が取れたんだ。食べていくかい?」

「本当か?」


 悟の顔が変わる。


「本当だとも。でも、ルーゲラ大森林は縁起が悪いっていう噂でね。誰も寄ってこないんだよ」

「じゃあ、二本くれないか」

「まいどあり。二本で銅貨6枚だよ」


 少し高いが、ルーゲラリトルベアーがもう一度食べられると思えばまだまだ安い。


 嬉しそうにおじさんは、横から緩やかな動作で串と肉を取り出した。串に肉を刺し、目の前にある鉄板で焼き始める。魔力が感じられるので、鉄板は火魔法で温めているのだろう。


「よし、出来たぞ」


 二本の串焼きを渡され、俺は銀貨一枚を払う。お釣りの銅貨4枚を貰い、焼き串店を後にした。


「これ、おいしいれすぅ」


 熱々のルーゲラリトルベアーの肉を頬張り、シーファは幸せそうな顔をする。俺も一口頬張ると、前食べたところよりもいい部位が合わさっているのか、口の中でとろけて一瞬でなくなった。後から肉の旨みが口の中を刺激する。


「うめぇ」


 あっという間に平らげると、次はシーファの意見で屋台に行くことになった。その時。


「ちょっと、そこを通させなさい」


 後ろから騒ぎ声が聞こえ、俺たちは振り返った。町の人たちが2つに分かれてその間を見たことのある女性の顔が通過する。俺はとっさのことで動けなかった。いや、動いていても同じ結果だろう。その姫は、俺が目的だったのだから。


「久しぶりね」

「そうだな。俺に何か用か?」


 姫は唇を尖らせた。


「何か用かって、決まってるでしょ?貴方が私に恥をかかせたこと、今でも記憶に残ってるわ」


 あの時の護衛をボコしたやつかな?でも肩がぶつかっただけで捕らえろなんか言われたから、自身に降りかかった火の粉を振り払っただけなんだが。完全な逆恨みだなこりゃあ。


 姫の横には圧倒的な威圧を発する護衛が付いていた。前のやつとは比べ物にならない。こいつが本領なのだろう。


「……それで、何をしろと?」


 俺が聞くと、その質問を今っていたかのように姫は踵を返した。


「ついてきなさい」

「……」

「牢に入れることはしないわよ!何を警戒してるの?」


  信じていいかな。もうここは逃亡してルーゲラフラワーに変化してやり済ますか?


「もう、じれったい!」


 姫は俺の手首を掴み、強引に連れ出した。すぐに振り解けるが、ここでそれをしたら姫的にも周りの群衆からも許されるかどうかわからない。俺は肩をすくめながら姫の後を追った。


「ちょっ、ちょっと、サトル!」


 シーファがついてこようとするが、護衛に道を阻まれる。俺は目でついてくるなと訴え、姿を消した。


「サトル……!」


 護衛が姫の後を追って消える。シーファも追いかけたが、すでにそこにサトルたちはいなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 姫と走っていると、目の前に城が見えた。あの中に入るのかと思ったが、その前の庭で姫は歩みを止める。護衛が数秒と経たないうちに到着し、剣を構えた。


「おい」


 俺がそう言うと、姫は顔で笑みの形を作る。


「貴方を殺さないそは言ってないわ。私にあんな恥をかかせたのだもの。こういうことになるのは当たり前よ」


 しょうがない。まあこうだろうと薄々感じていたんだ。受けて立とう。


「貴方が勝ったら解放してあげる。もう関わらないと約束するわ。でも、勝ったらの話だけどね」


 おお、じゃあここは本気で変化しようかな。あまり見ている人いないし、こっちも本気でやるぞぉ。


 剣を構えると、問答無用で相手は切り掛かってきた。


 その剣を受け流し、鑑定をしようとするが流石は姫の護衛だ。その隙さえ与えない。


「せいや!」


 それに俺よりも剣さばきが格段にいい。たまにフェイントを入れてくるのが厄介だ。


「ふふ。押されてるわね。やっちゃえ、やっちゃえ!」


 姫が護衛を応援する。その声に合わせて護衛の動きが格段に良くなった。


 俺は横切りの攻撃を避け、変化をした。スライムになり、分裂をする。すると、プイが生まれた。


『おーす。っ!?』


 突然攻撃されたことに驚いたのか、プイは後ろへ飛びのいた。そして、俺へと説明を求める。


『説明は後。取り敢えず、目の前のやつを倒す!』

『オッケー』


 当然のごとく、護衛は目を丸くして動きを止める。


「ま、魔物?何故ここに!」


 プイは護衛に体当たりをかまそうと前に動くが、剣でガードされる。


 その隙を俺が狙わないわけもなく、ルーゲラウルフに変化。突進で後ろから攻撃をする。


 体勢を崩したところでプイが顔にまとわりついた。息が出来ないはずだ。


 これで、決着はついたな。


 しかし、護衛は馬鹿力でプイを引き剥がし、俺へと投げつける。合体した俺は、人間へと戻って剣を突き出した。


 護衛はそれを受けずに後ろへ飛び退く。


 その顔は混乱が浮かんでいた。人間が魔物になったり戻ったりして頭が追いつかないのだろう。まあ、それもそれでこちらには好都合だ。


 剣を突き出すと見せかけて、ルーゲラフラワーへと変化。前に飛び出した俺は風に乗って敵の背後へ。


「なっ!?」


 危険だと感じたのだろう。俺は、ルーゲラリトルベアーに変化しその背中へと渾身の一突きを構える。


「《火よ、我が身につきーー》」


 護衛が剣でガード状態を作る。俺は飛び出した。


「《力を与えよ!!》渾身の一突き!」


 今まで以上の炎が手に宿る。護衛の剣を砕き、その鎧へと直撃した。鎧さえもヒビが入り、熱によって溶けていく。


「あ、熱い!止めろ!」

「やめ!」


 護衛の声と誰かのしわがれた声が重なったのはその時だった。俺は攻撃を止める。姫の横に、王冠をかぶった大柄の男が立っていた。

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