第224話 治療
「魔王の進軍を確認! 街の冒険者はギルドに急行してください! 繰り返します! 魔王の進軍を確認! 街の冒険者は直ちにギルドへ急行してください!」
受付嬢がギルドの外へ出て、大々的に告知をしている。そのおかげか、冒険者たちが続々とギルドに集まってきていた。
「おー、すごいすごい。何人くらいいるんだ、これ」
もはやギルドに収まりきらないほどの人数。冒険者ってこんなにいるんだ。
ーーざっと1000人はいるよね。
すげー。
でも、魔王軍の方が断然多い。冒険者と言っても、全員が全員強いわけじゃないだろうし。正直戦力差がなあ。アーヌがいてくれたら多少気が楽になるけど。
ちなみにシーファはアーヌを迎えに行っている。俺は飛べないし、シロは疲れたと言って譲らなかったし。仕方なくシーファが行くことになった。
みんなで行っても、その間に何か動きがあったら嫌だし一人の方が断然いい。
プリンは上空から街の偵察。魔王軍が接近するとすぐさま伝えると言っていた。知らぬ間に襲撃されることはないだろう。
と、こっちに向かってくる人の姿が。
「サトル」
冒険者たちの注目を集めながら、ミィトが近づいてくる。
「アーヌは……?」
「今、シーファが行ってる。もう少しで帰ってくると思うけど」
バサリ、と羽ばたく音が聞こえ、俺の横に女性が降り立つ。
「ちょうどよかったな」
シーファだった。しかし、彼女の他には誰もいない。
「すいません。くまなく探したのですが、見つかりませんでした。……果ての大地の先まで行ってしまったのかもしれません」
マジかよ、おい。
考えはわかる。きっと、魔法の試し撃ちをしようと誰にも迷惑をかけない果ての大地まで足を運んだのだろう。俺だったらそうするし。
「しかしまあ、面倒くさいことになった」
ミィトの誘いによりその場から移動しながら話す。
「魔王軍と接触する確率が上がったわけだね……。迎えに行くのが無理だったのなら、もういっそのこと私たちも行ったほうがいいよね? 戦場で合流するっていう希望的観測だけど」
「確かにそれじゃあリスクが高いですね……もしアーヌと合流できなかった場合、戦況は大きく傾きます」
つまり、俺たちが不利になること。
「だからと言って俺たちが行かないで、アーヌだけが戦う羽目になったら……」
ーー究極の二択。
頭を抱え込むミィト。同じ思いだ。
ーードローンを使えばいいんじゃない? それで魔王軍を監視してたらいいよね。っていうか、もう監視してる。
それだあぁぁ!
シーファもハッとして、抱きかかえているシロの頭をポンと叩いた。
「本当ですね。言われるまで気づきませんでした」
「でもな、ドローンはまた回収しなきゃデータを受信できないぞ?」
遠隔受信なんてそんな高性能なことはできない。あくまで魔王城を見つけるためのものだったし。改造すればできなくはないけど、時間が足りない。
シーファの羽も全て使い果たしちゃったからな。
あれからも1日ずつ集めているようだけど、まだまだ足りない。
そんな理由で、ドローンは回収しなければいけなくなるのだ。
つまりは、うん。果ての大地に戻るということだな。
ーーまたぁ?
シロがうんざりとした顔をする。
「ドローンをここまで誘導することはできますか?」
「あ、それならできるな。……頭いいなぁ」
「サトルは考える力がないのですよ」
「酷っ!? まあ確かにそうだけど! あれ、ええ?」
硬かった空気が少し和んだ気がした。ミィトが小さく笑みを浮かべ、先を語る。
「私は進軍したほうがいいと思う。ぶつかるのなら、国から離れた場所で始めないと被害が大きくなっちゃう」
「そうですね。最善の策だと私も思います。サトルはどうですか?」
「同意」
ーーシロも。
その時。空間感知が何かをとらえた。
誰かが転移してくる。
魔王か? いや、軍をつくっているのに単騎で乗り込んでくることはないだろう。……たぶん。
今まで魔王と接触したときは大体一人だったな……。
嫌な記憶がフラッシュバックし、意図せずにも顔が引きつってしまう。
結果を言えば、俺の妄想はいい意味で裏切られた。
だが、悪い意味でもあった。
「ガーム……ッ!?」
頭部をなくし、腹に穴を開けたガームが地面に横たわった。
わずかだが、まだ息をしている。
「シーファッ!!」
「はい!」
治療を促す。シーファの治癒力はすさまじいが、致命傷を二つも負っているガームを治すのにはさすがに苦戦している。
体の穴が塞がり、頭部も再生していく。シーファへの負担も大きいのか、大量の汗を流していた。回復魔法を持っていない者たちはただ祈ることしかできない。
「ミィト様ッ! こんなところにいらしたのですね!?」
そこに兵士が駆けつけた。ガームと汗を流すシーファを見て、事情を察したのか。開きかけた口を閉じた。
「……続けて」
「はっ」
短くいい、兵士は報告を始める。
「魔王軍が第一地点まで到達しました。果の大地を越えるまでの予想時間は推定1時間です」
「……わかった。下がってもいいよ」
「はっ」
兵士は一礼し、その場を去った。
「あと1時間……猶予は残されていないようだな」
「うん……」
重い空気に包まれつつある室内。
その時、大きく咳き込み、ガームが起き上がった。シロはすぐに駆け寄る。
ーーよかった……。
シロがホッとした様子でガームの頬をぺろりと舐めた。
「オレ……死んだんじゃ……?」
ーーシーファが治療してくれた。もう少し遅かったら、ガームは……。
もう一度頬を舐め、シロはその場に座る。
ガームはシーファの方を見て、続いて照れ臭そうにいう。
「その……ありがとな……」
「いえ」
ガームは口元に小さく笑みを浮かべ、照れたのかそっぽを向いた。
そしてミィトが、
「戦争は近い。各自、準備をするように。ここで一旦解散する。30分後にラギ森林前に集合しよう」
そう締めくくった。
「ガーム、少しいいか?」
シーファたちに退出するように促したあと、俺はガームと向き合った。
「ーーすまなかった」
俺は頭を下げた。




