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第23話 馬車の中で

 剣先を俺の喉に突きつけたまま、時間が経過する。先に動いたのはシーファだった。


「ちょっと、あなたは何を考えているのですか?私たちが何をしたっていうのですか?」


 死神は少し黙ってからしゃべる。

 

「私……たち?其方等は仲間なのか?」


 シーファは頷く。俺は喉先を突かれているから頷けないが、目で本気を示していた。


 やがて、剣が俺の横に置かれて死神は右手に持っていた鎌を背中に戻す。


「どうやら余の勘違いだったようだな。許せ。あまり一部始終を見ていなかった余が悪かった。てっきりサトル・カムラとその男たちが余を攻撃したところを女が助けてくれたのばかりに……」


 頭こそ下げなかったが、謝罪の念がそこにはあった。しかし、シーファはまだ怒ったままだ。


「そういって、サトルが死んでいたらどうするーーえ?どうして名前を?」


 シーファは疑問を頭に浮かべる。死神は、サトルの名を口にしていた。鑑定持ちなのだろう。


 すると、俺の中に不思議な感覚が広がった。傷が癒えていく。あの時の治癒と同じだ。


「あの時は、ありがとうな」

「気にするな。折角の転生者を死なせるのは惜しい」


 俺とシーファは驚いた顔をした。死神はその反応を面白がろうともせず、淡々と告げる。


「其方もわかっているであろう?余のことをな」


 気づかれていたかのか。俺は、立ち上がる。


「シーファ。俺とこいつで話があるんだ。少し、ギルドで待っててくれないか?」

「いや。それは不必要だ。馬車を待っているのであろう?ともに一度依頼にでも行こうではないか」

「……いいのか?」


 それはこっちにしても都合がいいぞ?パグになんか色々言われてたし、この間に相手のスキルとかを探っちゃうぞぉ〜。


「馬車も待っているはずだ。シーファ。行こう」


 シーファは何が何だかわからない顔でついてきた。俺はゴミたちのことを思い出す。


「あと、あいつ等どうするんだ?あのままにしていれば、困るんだが」


 こっちに責任を押し付けられたら面倒なことになりかねない。魂を奪ったのなら、早く返していただきたい。


「おお、そうだったな。少し反省していればいいのだが」


 死神が手をかざすと、小さな光が倒れている2人の中へ入った。数秒と経たぬうちに2人は起き上がる。しかし、スキルはなくステータスもスライム程度になっていた。


「これでよかろう。では行くぞ」


 これは怒らせたら怖いな。普通に恐ろしいことしてやがる。


 ギルドの前へ行くと、すでに馬車が待機していた。御者らしき人が待ちくたびれたように悟たちを迎える。


「おう、来たか。……ん?2人だったとの連絡だったが、俺の聞き間違いか?」


 御者は首を傾げて俺たちを見る。


「すまんな。臨時でお供することになった。馬車はそれほどの広さがあるのだろう?」


 目を見開く男。少し頬が赤くなっている。


「よ、よく分かったな。この馬車は空間魔法で中は広いんだ。特別発注できたんだが……2回目からはお金が必要だぞ?まあ、ギルドの嬢ちゃんが手配してくれたんだがな」

「またせてすみませんでした。中に入ってもいいですか?」


 シーファが言うと、御者は気を良くして馬車の仲間で案内してくれた。シーファが美人だからかな。


「おっと。今度から俺のことはライズって呼んでくれ。見ても通りいろいろな馬車の御者をやっているから会うときも多いだろうよ」

「ああ、俺はサトルだ。こっちがシーファで、こっちは……」


 死神って言ったらまずいし名前聞いてなかった。どうしよ?


「テズだ。よろしく頼む」


 テズって……。濁点の位置反対にしたらデスじゃないか。


「おうよ、テズさん」


 馬車の中に入ると、見かけには寄らずかなり広い部屋となっていた。その中にはベッドがひとつあり、机がある。本棚もあり、ここの中で生活できそうな感覚があった。


「それじゃあ、出発するぞ」


 鞭を打つと、馬が走る。不思議と中には走っている時の振動もなく、無音だった。前の方にはガラスが付いていて、ライズが椅子の上にまたがって鞭を打つのが見えている。


「ほう、中々な品質だな」


 死神ーーいや、テズって呼ぼう。テズは部屋を見渡している。俺は咳払いをし、本題に入った。


「シーファ。……テズ。こっちに来てくれ」


 呼び捨てはやばいかと思ったが、きっと偽名なので問題ないだろう。


「まずはシーファに説明したいことがあるんだ。いいか?テズ」

「余のことであろう?別にいいだろう。しかし、口外するとすればこの世界ごと壊してしまうぞ」


 シーファは乾いた笑みを浮かべる。話についていけないのだろうか?


「わかりました……でも、何か契約とかはつけないでくださいね?」


 そこを心配してたのか。確かに、シーファの腕には核印がある。組織のことをしゃべると、核印が反応して攻撃を与えるのだ。


「む?魔力の波長が違ったものが出ているなと思ったらその核印だったか。よし、見せてみろ」


 シーファは俺と目を合わせた。見せていいのか、どうか判断できないらしい。俺はテズに首を横に振って見せた。


「悪いが、今あったやつは信用できない。何をしでかすか、分かったものじゃないからな」


 テズはふっとため息をつく。


「そのようだな。では、その気になったら見せてくれ」

「その時はその時だ」


 俺は話を戻す。シーファに、彼女のことを説明した。パグよりも上だということは言わなかった。だって、そんなこと話したらパグのプライドが砕けそう。


  そうこうしているうちに、ライズの声が響いた。


「おーい、着いたぞ」


 マジか。無音だし振動もないから全く気がつかなかった。


「シーファ。今は気持ちを切り替えてゴブリン退治に集中しよう」

「そうですね」


 一旦テズの戦力を確認しようとしたが、パグでも弾かれるということを思い立って止めといた。力が衰えていてパグよりもずっと強いって本当チートすぎ。こういう奴が小説の主人公なんじゃないか?


「俺はここで待っている。隠蔽工作をしておくから、ここに目印を立てとくぞ」


 ライズは馬車の目の前に赤く塗られた棒を刺し、馬車の中と入っていった。その途端、馬車が空気に溶け込むようにして消える。これ、ライずがもし俺たちに気がつかなかったらどうするんだろうな?


 そんなことを考えながら、悟たちは森へと歩いて行った。

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