第219話 ミィトの秘密
「ミィトは氷の使い手だと聞いているが……他の属性も扱えるんじゃないか?」
ミィトは表情を変えない。流石ギルドマスターといったところか。ポーカフェイスになれちょる。
「……バレてるとは思っていたよ」
あ、割とあっさり。
「操られていたことを聞いて、ね。その間は意識がなかったし、氷魔法以外の攻撃をしていたかもしれない。その可能性も考えていた」
「あーやっぱりそうなんだ」
「うん。私は闇以外の全属性を使えるんだ」
「すごいな。それに、一つ一つの威力も半端なかった」
「自分で言うのもアレだけど、魔法の腕には小さい頃から自信があったから」
俺でも全属性をあれほどの威力で撃つことはできない。どうしても得意属性に偏ってしまう。
「一番得意な属性が氷なだけで、他は平均以上に強い。なにそれ化け物じゃん」
「サトルに言われたくない」
さらっと酷い。最近のみんなはなんか俺を化け物って言ってくる。なんでやねん。
「んで、これが一番気になったんだけど、なんでそのことを隠してるの?」
葛藤する間があった。事情があるのかな。
「無理なら言わなくていいぞ? それに、俺はアーヌの姿だし。信用できないならそれでいい」
そういう方面でも困ってるのかもしれない。気を効かせる俺かっこいい。
アーヌの邪念が飛んできた気がしたが、無視だ無視!
「いや……。私の勘でしかないけど、貴方はサトルだと思うの」
勘すごし。
「これは他のギルドマスターにも告げてないことだから、絶対に秘密」
人差し指を唇の上に当て、ミィトは真剣な目でこちらを射抜く。威圧されてるみたい。
「私ね、軽蔑されるのが嫌だったんだ」
彼女は全てを吐き出した。
そこに社会的な問題はなく、ただただ彼女自身の決断だった。
ずっと苛まれ、虐められ、石を投げられ。魔法の才能だけがあり。
こんな世界、逃げ出したいと何度も思った。
それでも才だけを頼りに足掻いてみせた。心境の変化があったからか。あの人に会わなければ、ここまで必死にならなかっただろう。
「あの人?」
「うん。女の人で、ジンって名乗ってた」
聞いたことがあるんですけど。つい前に聞いたんですけど。話したんですけど。
「でもさ、それと隠すとでなにが関係してるんだ?」
「私、和樹と契約を交わしたの」
「……え」
ジンに言われて、人生の道を走って、出会った人物。彼はミィトを道から外した。
契約って、初耳だ。
彼はミィトの才能を恐れた。いずれかは自分を苦しめる者になりうると確信した。
「どんな契約だ?」
「氷属性の魔法しか使わないこと。そしてーー」
和樹の命令を絶対に聞くこと。
「それって……!?」
「うん。かなり不味い契約だった。それでも、疑問に思ったの」
「何故俺たちが和樹と戦闘したとき、その命令権を使わなかったのか」
ミィトはゆっくりと頷く。
「正直、すごく怖かった。私がサトルを襲ったら……考えたくもなかった」
「……ならなかっただけマシだ。和樹は殺したし、脅威は去っただろ?」
「そう……なのかな」
え?
歯切れが悪いぞ?
嫌な予感がする。
「サトルは契約をしたことがないよね」
「ああ。そうだけど」
「契約ってこう……魂に結びつくみたいな……そんな感じなんだ」
ミィトは胸に手を当て、語る。
「私ね。今も、その感覚があるの」
「……ッ」
「和樹は死んだはずなのに、しっかりとした繋がりがある。怖いんだ……」
目に宿った畏怖の念は消えることなく留まり続ける。
嘘は言っていない。
ミィトがそんな嘘をつくはずもないが、確認せずにはいられないのだ。
「ということは……」
認めたくないが、こうなるのだ。
「和樹は生きている」
ふと思ったことがある。
「契約はされてるはずなのに、なんであの時は他の属性の魔法を連発できたんだ?」
「私の推測でしかないけど、雨の魔法に契約魔法が打ち負けたんだと思う」
よく分からん。雨の魔法は、あの超範囲攻撃のやつだろ? ステータスが半分になるというデメリット付きの面倒くさい魔法だったのを覚えている。
確か魔王が攻めてきたときに降ったんだっけか。
じゃぁ、その魔法がミィトの体になんらかの影響を及ぼし、契約が一時的に解けたと。
「そういうこと」
俺の表情を読み取り、ミィトが頷く。
「でも、あんまり信じないでね? 間違ってると思うから」
謙遜するミィトだが、あらかし間違ってないと思う。これ勘。大事なのでもう一度言おう。これ勘。
「一番問題なのは、和樹が生きてることかー」
とどめを刺したのはシーファだし、思えば和樹の最期は見ていない。
でもってシーファが見逃すはずがないしなあ。……あの時様子がおかしかったから、一理あるかも。
いや! 俺はシーファを信じる!
……信じるもなにも、和樹が生きているという証人がここにいるしなぁ。
まあ、いいや。
次会ったときも倒せばいいだけ。俺はあのときよりも強くなってるし、実際和樹との戦闘は後半ボコしたからね。
和樹が鍛えてるのならなにも言えないけど。
「試しに、火球を出してみてくれないか?」
「うん。いいよ」
ミィトは右手から火球を出そうと奮闘する。すると、魔力が火球に変換される前に、集まった魔力が分散して消えていた。
どうやらアーヌは魔力感知のスキルを持っているらしい。
ま、殆どの人が持ってるスキルだけどね。
そのおかげでミィトに起こっている現象がよく分かる。
「成る程な」
「魔法が構築される前に消えちゃってるでしょ? 意図してやってるわけじゃないの。こう……変な力に邪魔されるというか……とにかく、契約は恐ろしい」
契約はできるだけしないほうがいいということか……。
「ほんっとうに信用できる人じゃないと、ダメ! それと、自分に不利益な契約は結ばないこと! 逆に自分に有利な条件で契約を結ぶのはいいけど……いや、それじゃぁサトルが悪役みたい! 絶対ダメだからね!?」
契約禁止令。
「了解しました、ボス」
「よかった……」
ミィトはホッとした表情で、微笑む。
「話はそれだけ?」
「いや。もう一つある」
俺は先程までのムードを変えるため、明るい声で宣言した。
「ついに魔王城の位置を特定しました! やったね!」




