第218話 記憶の奥底に
「え? 封印じゃダメ?」
「後の事を考えれば……な」
「えー。死神が提案したから僕はやったんだよ? 普通実行した直後に止める?」
「すまない。余が悪かった。しかし、この先封印を解く者が現れるのも事実だ」
「そうだけど……なんか僕が悪いみたいになってない?」
「余が悪かったのは認める」
「でも、ほとんどの魔力を消費して封印をかけたんだよ? こんなの、僕以外解けないんじゃない?」
「余なら解ける」
「君は論外だよ。もともと封印解ける人リストには載せてないし」
「酷いものだ」
「味方でしょ? 今は」
「ああ。今は、な。その時必要になれば余が封印を解くやもしれん」
「僕の努力が……」
「くくく。今この場所で其方の努力を踏みにじるのも一興……!」
「やめてよ、もう」
「割といい手かもしれませんよ」
「ーー? あ、シーファか。相変わらず存在感がないね〜」
「酷いですよ。それに、存在感がないのではなく、わざと消しているんです」
「それで、いい手というのは?」
「……いっそのことここで殺した方がいいということです」
「だから、何度倒しても魔王はなにもなかったかのように、コロッと復活するんだって」
「私たちがここで監視してればいい話ですよ」
「ん? それはどういう意味だい?」
「魔王を殺して、復活する瞬間を見守ればいいのです。どんな原理で復活するのかーーそれが分かれば殺すのは簡単。原理も何もないのであれば、何回も殺せばいいのですよ」
「うげえ。リスキルかあ……。流石シーファ。えげつない」
「自慢の妹だ」
「お姉様……!」
「ホント、よく懐いてるよ。死神の姉妹なんて僕には驚異しかないのに」
「なんだ? ここで殺しておくか?」
「へっへー。残念ながらこの大陸に僕はいませーん」
「最後の最後で魔王に消滅させられたからな。無様なものだ。あれほど油断をするなといったものが」
「あんな場面、誰だって油断するでしょ? 封印させられる前の魔王なんかただの赤ん坊に過ぎないよ」
「その思考がいけないのだ。いつか、お前はお前自身の性格に後悔することになる」
「ならないならない。僕に勝てる者なんていないし。僕が失敗することもない」
「今回は失敗じゃないのですか? 結果的にマイナスです」
「失ったものは大きいけど、得たものも……うーん……」
「得てないです。むしろ封印してます」
「あら」
「それで、結局お前はどうするんだ?」
「分体を作る作業はまた始めようと思ってるけど……暫くは違う大陸で行動しよっかなーって」
「ほう。では、余たちと交流する機会も少なくなるのか」
「お姉様は大陸をつないだ移動はできないのですか?」
「出来るは出来るのだが、普通に考えてそんな面倒くさいことはしないであろう?」
「うんうん。だからこそ、違う大陸がいいかな」
「なんだ? 今に来て怖気付いたか? 余たちに殺されるかもしれない、とな」
「そんなわけないじゃないか。あ、僕は魔王に特大転移魔法をかけられ、違う大陸に飛ばされたと噂を流しておいてくれよ」
「余に指図か?」
「別にそれくらいいいじゃないですか」
「ふむ……そうだな。シーファが言うなら、やろう」
「シーファ、あざす!」
「なんですか、それ?」
「地球の言葉で、ありがとうっていう意味」
「……またチキュウですか。そろそろ飽きました」
「そんなこと言わないでよ。……あ、もう時間だ」
「暫し別れることになるな」
「犬猿の仲の関係である死神くんと会えなくて、とても残念だよ」
「くくく。どうだか」
「それじゃ、またね〜」
「さて。魔王を見張ってるんだっけか?」
「あんなの、嘘に決まってるじゃないですか」
「ほう?」
「原理なんてありません。リスキルなど、ただの作業でしかありません。そんな面倒くさいこと、やるわけないじゃないですか。いい案を出したように見せかけて、信用させとけば終わりです」
「やはり余の妹だな」
「へえ。まだ残ってたんだ」
「…………」
「もう何年前だったかなぁ……?」
「…………」
「僕、あの時の勇者だけど。今は転生者の和樹って名乗ってるんだ」
「…………」
「あ、どうでもいい? ですよねー」
「…………」
「表情、動いてるね。自我を失わなかったのは褒めてあげるよ」
「…………」
「なんか喋ってよ。僕、一人で話すの寂しいよ」
「…………ァ」
「お。なになに?」
「フ…………ァ」
「ま、大体分かるよ。ふざけるな、でしょ?」
「…………」
「僕は恨まれて当然だよね。だって、あんな酷いことをしたんだから」
「…………ァ」
「怒らないでよ。まだ話の途中だし」
「…………」
「それでね、今日の本題。君を封印から解いてあげようと思って」
「…………!?」
「勿論無償とは言わないけどね」
「…………」
「落胆しないでよ〜。せっかくのチャンスだし、見逃すわけにはいかないでしょ」
「…………ァ」
「よしよし。じゃぁ、条件ね。まず、僕の忠実な部下になること」
「…………ッ!?」
「もう一つが、僕に絶対逆らわないこと。命令を聞くこと。……一つじゃないね。ゴホン。そして、最後が魔王軍を立て直すことだ」
「…………ァ!」
「あ、話せるようにはしてあげるよ。その方が早く話が進むかもしれないし」
「…………く、ガハッ」
「で、どう? 悪くはないでしょ?」
「何が……ッ! お前なんか……ッ!」
「聞いてる? 僕に従わないのなら、封印は解かないけど」
「……クソ野郎が」
「褒め言葉、ありがとう」
「……どうして、ボクが、お前なんかに、服従しなきゃ!」
「あと5秒〜」
「従うわけない! このボクが!」
「4」
「……ッ」
「3」
「調子に、乗るな!」
「2」
「ボクは、ボクは、ボクはあぁぁぁぁ!!」
「1」
「し、し、し、た、がい、ま、す」
「え、聞こえない」
「従います! 和樹、様!」
「よおし。交渉成立だね。あ、言い忘れてたけど、この契約には君に対するデメリットもあるんだよね」
「な、なに?」
「これまでの記憶が消えること。絶対的に僕の駒になること。洗脳みたいな感じかなあ」
「え……」
「デメリットがないとは言ってないし。もう交渉は成立したし。それじゃあね。魔王」
「やめて! やめてよ!」
「僕にはもう、どうやっても止めることはできないよ」
「酷い……。酷いよ……。また……騙されーー」
「行こっか。シーファ」
「最近、君のお姉さんはシーファに構ってくれてるかい?」
「…………」
「だよね。お姉さんはユニークスキルに夢中だ。妹のことなど眼中にない」
「どうして……前はあんなに私に構ってくれたのに……」
「理由もないよ。神からユニークスキルを授かったんだからさ。君もそうなのに、なんでスキルを奪わないの? 宝の持ち腐れじゃない?」
「私はあんな風にはなりたくないので」
「あんな風って、お姉さんのことかな。あーあ。軽蔑視されてるじゃないか」
「私、また、お姉様と一緒に過ごしたいです」
「え? 過ごしてないのかい?」
「はい。朝も夜もどこかに出かけていて、一緒に過ごす時間など……」
「いっそのこと、僕と協力しない?」
「……どういうことです?」
「君のお姉さんを殺しちゃうんだ。構ってくれないなら、脅せばいい。それでも通じないなら、殺せばいい。ほら、いい案でしょ?」
「……でも、お姉様は」
「構ってほしいんでしょ? 僕がそれまで構ってあげるよ。だから、お姉さんのことは忘れてみたら? っていうか、もういない存在にすれば? 出来る限り協力するよ」
「……分かりました。お姉様を、殺しましょう」
「成立だ」
「魔王には人族を攻めてもらうよ。ここで決してやってはいけないのが、僕の味方だと思わせないこと。僕は勇者として行動しているわけだし、魔王と繋がりを持っているって知られちゃうと、かなり不味いからね。ここの大陸では勇者ではないけど、違う大陸まで敵に協力してたとか情報が流れても困るし」
「念には念を入れてだね! 分かったー!」
「シーファは僕と共闘。僕は戦争に巻き込まれた形で、死神の姉を殺す。流れはこんな感じだよ」
「了解だよー。和樹お兄様」
「……本当にこれで良かったのでしょうか」
「え? もう君のお姉さんは長い長い眠りについちゃったけど。あ、殺せなかったことはごめんね。僕の力不足だ」
「いえ。そういうわけでは……」
「じゃぁ、なに? 今更反乱を悔やんでるの?」
「…………」
「甘い。甘すぎる。過ぎたことは戻らない。当たり前だろう? 僕が持ちかけたとはいえ、君が決断したんだ。最低でも半分の責任はシーファにある」
「……すいません。心配をおかけしました。私は、お姉様を、姉様を殺したことをなんら悔やんではいません」
「シーファ? 僕と君は共闘するって約束したはずだけど?」
「私は気づいたんです! 貴方の正体を! 私が手の上で踊らされていたことを!」
「……へえ」
「私が姉様にあんなことをしたのも、全て貴方が仕込んだから! 貴方が、姉様に!」
「…………」
「今ここで貴方を殺します」
「おお、怖い。僕は自分の思ってきたことをやり遂げただけなのに」
「だからなんです!? 私と姉様を弄んだことは変わりないじゃないですか!」
「それで、戦うの?」
「殺す」
「残念。昔の契約が残っていてね、僕が望めば君の記憶を消すことができるんだ」
「なっ!?」
「真実まで辿り着いたのはシーファが初めてだ。お姉さんでも分からなかったのにね。そして、僕は君を抹消する。あ、記憶ね?」
「やめてください! 私は、私でなくなってしまう!」
「記憶消去」
「あああああああああああああっ!! 痛い痛い痛い痛い痛いいいぃぃぃぃぃ!!」
「さよなら。シーファ」
「……ここは? 私は、なにを?」
「やめてください!」
「もうモンスターを殺すのはやめてって言ってるの、わからないんですか?」
「貴方は……?」
「よかった! 目を覚ましたのですね?」
「お前は、誰だ」
「ど、どうして私を怖がるのですか? 私が何かしましたか?」
私は…………




