第217話 説得
空間の中を逆戻りする。パグは待っていてくれた。
「どうだった?」
恐る恐る聞いてくる。
「全然大丈夫だった。優しそうな神で助かったよ」
俺がいつもの口調で言うと、パグは少なからず落胆していた。俺たちが元に戻ってないからかな? 人を思えるパグやさひい。
「でしょでしょ?」
彼は胸を張る。うん。そろそろ帰ろうかな。
「酷くない!?」
「最近僕の扱いが酷い気がする……!」とか呟いてたが、無視だ無視。
というわけで、帰りまーす。
……知っている天井だ。
ゆっくりと起き上がる。アーヌはまだ寝ていた。まだ何か話してるのかな? あまりパグに迷惑はかけないでほしい。ちょっと可哀想に思えてきた。
「どうして……」
ん?
声がした方へと顔を向ける。
「どうしてサトルがこんな人と寝ているのですか!?」
シーファじゃん。おはよー。
えーと、あれ?
怒りの矛先が俺に向いているのは気のせいかな?
きっと気のせいだ。うんうん。
「偉大なる闇の精霊よーー」
詠唱をやめなさい。邪柱ぶっ放す気だろ。
邪柱は俺の聖柱と並ぶ超上級魔法。故に詠唱がなければ放つことができない。別に無詠唱でもできるけど、どうしても威力が劣ってしまう。
「じゃばしーー」
「うおお!」
全力で阻止。
「なんですか! 止めてください! 私は男の人とそんなことをするなんて、絶対に信じませんから!」
ちげーし。んなことしねーし。
「ん……」
アーヌが目を覚ましたようだ。なんか顔が青白い。どうしたし。
「なあ、サトル。聞いてくれよ」
悟は聞きます。
「実はーー」
「サトル? え? どういうことですか?」
しっかりと邪魔してくるシーファ先輩流石っす。
どうやらアーヌ(今の悟)が俺のこと(今のアーヌ)を悟と呼んだから混乱しているらしい。自分でも混乱しそう。
あ、でもこの際説明したほうがいいかも。
「実は、俺たちは入れ替わってるんだ」
アーヌの言葉を継ぐみたいになっちゃった。
「入れ替わってる? え? 意味が分かりません」
そりゃそうでしょうね。俺だってそんなこと言われたら信じられるかどうか。
「まあ、今の俺が説明しても説得力ないし、アーヌから話してくれ」
身を引く。アーヌが一歩前に出た。
「俺たちは入れ替わっている!」
「いやその説明をしろよ!」
「そうなのか?」
「そうだよ! 逆にそれ以外に何を説明するんだよ?」
アーヌは納得顏で説明を始めた。そこからは結構サクサクと進む。
「それでな! 狐にバーン! とされて、魂がボーン! となって、今に至る!」
内容は、全然何を言ってるのか分からなかった。事情を知っている俺でも理解できないとか……。
「ふむ。つまり、テズさんに魂と魂を交換されたのですね。サトルがアーヌさんの体の中に、アーヌさんが悟の体の中に入ったと。よく分かりました。ありがとうございます」
絶対嘘だろ!
「なんで分かったの? え? は?」
「なんでって……語彙力が低い誰かさんのそばにいれば、これくらい分かるようになりますよ」
ほー、すげえな。
「って、おい! それ俺じゃね!?」
そこまで低くないし! まったく失礼なものだ。
シーファはくすりと笑う。
「からかい甲斐がある私の主人は貴方だけですよ。サトル」
その言葉はアーヌではなく、俺へ真っ直ぐと告げられた。
「あ、もしかして俺だって分かった?」
「さっきからそういってるじゃないですか」
ああ、仲間って素晴らしい。直ぐに理解してくれる。
「よかった……。あの言葉はサトル自身が発したものではなかったのですね……」
なんかホッとしてる。もしかして、アーヌが吐いた暴言のこと?
俺がシーファに対して暴言を発したことを彼女は認めたくないわけだ。そりゃ、どれだけ嫌でも俺が本物と認めなければ、ねえ?
ただの友情ではなかった?
うそーん。
……なんか自分の語彙力の低さが分かった気がした。
でも流石にアーヌほどではねえだろ!
「一応、俺もついていく。ミィトと少し話したいことがあるし」
それはその時に言うとして。
「分かりました。その時と一緒に他の事情を聞くとします」
スキルとか、ステータスとかね。絶望的だけど。
グイッとアーヌが肘で小突いてきた。ステータスを馬鹿にされたのが癪に障ったのだろう。
振り払いたいけど、今のステータスじゃ無理。痛いのでやめてくださーい。
さらっと馬鹿にしたが、アーヌは気づかなかったらしく肘を引いてくれた。
善き善き。
と、いうことでシーファにはミィトを呼んでもらった。
「……それは本当なの?」
真実を聞いたミィトは訝しげに首を傾げた。
「残念ながら本当です」
「ステータスやスキルも交換されて、今の俺では魔王に対抗することもできない」
補足しておこう。シーファが難しい顔をした。
「今から鍛えても、長い年月がかかると思います」
「ああ。だから、とある人に元に戻る方法を聞いてきた」
というよりも、戻してもらうんだけどね。
「ちょ、ちょっと待って。普通に会話してるけど、私には到底信じがたいよ」
「死神のすることですよ? 魂の交換くらいできて当然です」
「そうだけどさ……」
ミィトはまだ納得していない様子。
「まあ、言われても信じがたいことは分かる。今はあれでも、あとあと理解してくれればいいよ」
あれ? 俺が言うセリフじゃなかった?
まあ、いいや。
「俺たちから伝えたいのは以上だ。次に、個人的に俺から伝えたいことがある」
シーファたちに促すと、彼女らは部屋から出て行った。アーヌは渋々といった感じだ。
遠くからでも俺の思考が読めるのなら、追い出した意味はないけど。
「これが本題だ。これからの話をする前に、俺はアーヌとしてではなく、サトルとしてみてほしい」
少し間があり、頷くミィト。
この後、嫌でも俺がサトルだと分かるわけだ。
「ミィトは氷の使い手だと聞いているが……他の属性も扱えるんじゃないか?」
ミィトの表情は……変わらなかった。




