第207話 シロVSガーム
ネットが復旧しました!
ご迷惑をかけてすいません。今日はもう一話投稿したいです。
悟が消えた。
この悪魔は何をした?
シロの心には初めて焦りが芽生えた。
「さあて。ジャマモノは消えた。やっぱり一匹ずつ殺していくのが賢明じゃねえか? 劣等種族よ」
ーー…………。
「だんまりか? そりゃそうだよな。ゴシュジンサマが吹っ飛ばされて消えたんだからよ!」
悪魔は近づいてくる。
「ケケケ。オマエの放った雷のせいでゴシュジンサマは致命傷を負ったぜ……? どうしてくれるかなァ?」
惑わされるな。こいつはシロの心を操作して、脆くなった部分につけ込むつもりだ。
そう思うと、侵食され始めていた心が浄化されていった。
キッと悪魔を睨みつける。
「ケッ。調教されてるイヌッコロだ」
急に纏わりつくような視線から、つまらないものを見る視線に変わった。
ーー何をしたの?
「ただの転移能力だ。吹っ飛ばした先にあらかじめ仕掛けておいた転移陣を発動させ、ロット国まで戻した。肋骨も何本か折ったし、飛んで戻ってくるのも難しい。戻ってきたとしても、ワンパンで撃沈だゼ」
全て計算されていた。
この悪魔はなかなか頭が切れる。油断してかかったら……想像しただけで恐ろしい。
ーー確かにシロは、悟のパーティーの中で弱い部位にいるよ。でも、あまり油断しすぎると……。
シロは殺気を悪魔に浴びせた。
ーー逆に狩られる。
悪魔の表情がわずかに引きつる。しかし、一度俯いたかと思うと、その顔は笑顔に満ちていた。
「ケケケケケッ! ユカイだ! 非常にユカイだ! イヌッコロよ、やってみろ! オレを倒せるのなら、やってみるがいいっ!」
ーー望むところ! 悪魔!
「オレはセイレイだ!」
体格的には勝っているが、相手はその体に似合わない力を秘めている。転移なんて「超」がつくほど高等魔術だ。悟だって出来ないし、まず今の人類で使える人がいないと思う。
そんな悪魔だが、武器を持っていない。悟がやっていたゲームに出てくる、フォークを持った悪魔がいた。姿形こそは似ているが、そんなものは一切ない。どこかに隠せるくらい大きな体ではないし。
だったら、近接戦の方が有利!
素早く思考を重ねながら、悪魔と正面衝突をした。雷獣化したシロの本気を片手だけで止めている。
ーー化け物……っ!
「オレはセイレイだっつってんだろ!」
悪魔の手のひらに白い光が収束し、一気にはじけた。衝撃波のスキルだ。シロは飛ばされながらも空中で態勢を整え、全体攻撃の放電で悪魔にダメージを与えようとする。
けれども、悪魔の方が魔法の発動が速かった。
「暗黒星雲」
また視界が奪われた。今度は黒に塗られ、何もかも見えなくなる。
ーー卑怯!
「戦闘にヒキョウもクソもねえ。最終的に勝てれば問題はないんだからよ」
言いながら術を行使していく。
飛来してくる闇球を勘だけで避ける。
何故かこの悪魔には感知系のスキルが効かない。当の本人は精霊だからと話していたが、本当にそうなのか。
悟の大気感知なら空気の動きで敵を察知する。息を吐いたり、まばたきするだけで位置がバレる。そんな回避不可能の感知はどうにかできるってものではない。
なんらかの力を持っているのか、それとも……。
「ケッ。ちょこまかと動き回って……っ!」
視界が開け、悪魔の姿を認識できる。間髪入れず、悪魔は魔法を発動しようとした。
「暗黒星ーー」
ーーさせない!
爪を振るう。それは次元を越え、離れた場所の悪魔に命中した。
首を狙ったが、そこは本能的に身をよじって避けたらしい。脇腹に抉られた跡がつく。
「こ、このイヌッコロがァ……ッ!」
そして、この出来事が悪魔に火を付けてしまった。
嫌な予感がして、体半分ほど退いた。そこへ横から迫っていた闇の槍が通りすぎる。
次の攻撃を放とうとする悪魔だが、シロの次元の爪であえなく断念。悪魔も身を退いた。
攻防が止み、一瞬の沈黙。
悪魔から滴る血が落ち、「ピチャッ」と音を立てた。
二匹の姿は搔き消える。凄まじい衝突が立て続けに起き、地形が原型をなくす。
ぶつかるたびにシロの体には傷が増えていく。しかし、それは相手も同じだ。次元を越えて襲いかかる遠距離攻撃と、変化自在に動き回る雷。その二つで確実に悪魔を追い詰めていく。
次元爪がヒットして、悪魔がバランスを崩す。すかさず電気走った電気が悪魔を捉えた。
「ぐあっ!」
地面へ落下する悪魔にさらなる追撃を加えようと、雷を落とした。
……そこに悪魔はいない。
「危なかったゼ……!」
シロの真後ろに、悪魔が浮遊していた。
あの状況で逃げ切れるわけがない。相手は何をした?
シロは短い時間で答えに辿り着くことができた。
ーー転移。
「ケッ。初手で見破られるか」
ーー初手じゃない。一回、悟を飛ばした。
「ライジュウなんて、生まれた直後にぶっ潰せばよかった。そうすれば、こうまでオレにたてつくはずはねえからな」
悪魔は大きくため息をつき、気持ちを入れ替え、キッとシロを睨みつける。
「ますますオマエを殺さなければまずい気がしてきたゼ! コイツを野放しにしておけば必ず、オレは殺されてしまう!」
一際大きい魔方陣を組み立てると、悪魔は叫んだ。
「召喚ッ! ……化身ッ!」
中から何十匹ものの悪魔が飛び出してくる。見た目もそっくりで、どれがどれだか分からない。もっとも、シロの視線は本体から移っていないが。
ーー分身は消せばいい。
「ケッ。オレがただブンシンを出すと思ったのか? イヌッコロめ」
悪魔はドヤ顔で胸を張った。
「オレよりは劣るが、コイツらも立派なセンシだ! 戦闘力もあるし、魔法力だってある。それに、この数だ。オレのカバーには十分。いや、十分すぎる」
悪魔の化身は闇球の魔方陣を構築していく。その中央で、本体は静かに詠唱をしていた。何重にも重なった幾何学的模様が広がる。
あれを放ってはおけない。
シロの勘が警報を鳴らす。
次元爪を放とうと腕を動かすが、分身の闇球が邪魔をした。シロは放電スキルを発動させる。電気が地をえぐりながら全体に広がっていった。
近くにいた分身はこれで消えたが、遠くにいる分身には当たっていない。それは本体も同じことだ。
一段階本体が構築する魔方陣が大きくなる。
シロは残っている魔力の半分を注ぎ込み、自身に落雷を落とした。電気を吸収して魔力を回復させる。それでも元は取れない。
電気は地面を駆け巡り、分身へと襲いかかった。それらを避けた者たちはすぐさま魔法を飛ばしてくる。
一つは噛み砕き、もう一つは背で受けた。血が飛び散るが、気にするほどではない。
さらに、三つの闇球が飛来してくる。まとめて次元爪で消し去ると、周りに雷を幾つか落とした。
ーーはあ、はあ、はあ………。
分身は消えていた。本体の悪魔へ最高出力の雷を落とす。
轟音が耳をつんざく。
「がはっ!」
大量の血を吐き、それでもなお、悪魔は笑っていた。
「間に合ったゼ……! 危なかった……ッ!」
ーー!? 止めて!
「ダレが言われて、ゲホッ、止めるかァ?」
大きく開いた魔方陣の中に、悪魔が入っていく。
悪魔が消え、また姿を現した時には……。
『ケケケッ! これが本物のマジュウサマだァァァ!!!!』
一頭の大きなイノシシが、大地を踏みしめ、シロを睨みつけていた。




