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第203話 神の戦い

「貴方は……ッ」


 時は遡る。


 私の目の前には黒いローブを纏い、狐の仮面を被った女性がいた。


 前々からそこにいるのでは無く、今突然に現れてきた。


「ほう? 余のことを憶えていたのか」


 まだ名前すら話してないのに、こちらの意思を読み当ててみせる。仮面の下では笑顔で顔が歪んでいるのだろう。


「死神、ですか……」


 まさか、もう来てしまうとは……。


「なんだその声は。余が来たことに不満があるか?」


 途端に殺気が放たれる。重力が何倍にでもなったかのように、体が重くなった。


 彼女の切り替えは恐ろしい。たった一つのスイッチでオンオフを切り替えるだけで感情を変えてしまう。


 それでも偽りの感情だ。内心では笑っているに違いない。


「不満? 私は自分の予定を大幅に上回って貴方が来たことに困り果てているのですよ。死神はこちらのスケジュールを無視する最低な野郎だと言いたいのです」

「敵が相手のスケジュールを気にするか?」


 私は威圧スキルを発動させ、死神と対抗をする。


 攻撃魔法すらしていないのに、辺りには強風が吹き荒れた。普通の地上だったら地面が無くなっていただろう。


「くくく」


 先に手を引いたのは死神だった。


「恐ろしい。本当に恐ろしい。威圧だけでここまでの威力を発揮するとは」


 そう。


 強風は全て私が起こした現象。


 それも、威圧スキルだけで、だ。


「心底やる気が失せてくる」


 死神はため息をつき、背の鎌に手を伸ばした。


「バインド」


 無詠唱で拘束魔法を展開する。


 死神の周りに魔方陣が浮かび上がり、蔓が伸びた。


 死神は鎌に手をかけた方とは違う手で仮面を外す。


「魔眼・消滅」


 魔方陣は音を立てて砕けた。


「奥の手を使うの早すぎませんか?」

「其方とやりあうのに奥の手もクソもないであろう。そもそも、知っていたはずだが?」

「貴方についてはリサーチ済みですからね〜」


 死神がどんな魔眼を使えるのか。どこまで力が衰えているか。既に調べ済みだ。


 全てはこの時のために。


 いつか死神が攻めてくると信じていた。


 魔眼・消滅は構築した術式を無に戻す効果を持つ。つまり、魔法を使うために作られる魔方陣が砕かれる。イコール魔法が出来なくなるのだ。


 屈強な魔法だが、MPを大量に消費するのが欠点だ。


 一回目が500。二回目が1000。三回目が1500と、500ずつ消費魔力量が上がっていく。回数を積み重ねていくほど発動するのを躊躇する魔法だ。


「貴方は何が狙いなのですか?」


 問うてみるが、当然のように死神は答えない。


 鎌を引き抜き、一直線に向かってきた。


 速いが、そこまでではない。


「沈んでください」


 重力二倍。死神しかいないが、私以外に全体攻撃だ。


 素人には気がつかない程度だが、死神の動きが鈍くなった。


「クイック」


 すぐに対抗策を練り、自身に速さを増す魔法をかける死神。


 元のスピードよりも少しだけ速くなった。


「魔眼・消滅」


 今度は私が発動させる。クイックの効果を消した。


 流石に死神が近くなってきたので半歩下がる。


「沼化。バインド。インパクト・スター」


 私が立っている場所以外が底なし沼になり、蔓が死神を拘束しに動く。そこに光魔法の最上位魔法ーーインパクト・スターを打ち込む。


 三つ同時発動。


 死神は沼化を読んで宙に舞ったが、そこに蔓が襲いかかった。鎌で切り捨てながら空を進んでいく。


 インパクト・スターが飛ぶ。それは蝶の鱗粉ほど小さく、正体は100の小さくまとまった光球だ。


 火球爆弾というものがあるのだが、それを応用したものだと考えてよい。


 体に接触した時点で穴を開け、貫通していくだろう。流石にこればかりは切れないはずだ。


 こう見えて、龍の何百倍も固い。


 死神は宙を蹴り、更に上へと上がる。インパクト・スターは死神を追っていく。


「魔眼・爆破」


 彼女の目が赤く光り、私を捉える。


 前項姿勢となり、あえて前に進んだ。真後ろで炎が爆ぜる。


 それも読んでいたのか、死神は既に鎌を振り抜いていた。


 しかし、そこにはもう私の姿はない。


 死神は即座に振り返り闇球を発動させたが、黒々しい球は遥か彼方まで飛んでいく。


「深読みしすぎです」


 真上から声。


 つられて上を向く死神だったが、やはり私の影も形もなかった。


 翻弄していく。確実に思考を鈍らせていく。


 それが私の戦術だ。


「疾風の死神と呼ばれたものが、ここまで翻弄されるとは」


 右にもいない。


「名前に傷が入りますよ?」


 左も。


「自惚れないでください」

「この世界で一番速く、強いのはーー」

「ーー私です」


 上。斜め下。正面。


 その度に魔法を発動させ、鎌を振るが擦りもしない。


「っ、放電!」

「耐電結界」


 何億ボルトもある放電をいとも簡単に防ぎ、背面に躍り出る。


「しまっーー」


 全体攻撃を行使したことで油断してしまったのか。それがほんの少しだとしても、隙であることには変わりない。


 流石の速さで振り返りながら鎌を滑らせる死神だが、空を切る。


「ーーッ!」

「魔眼・麻痺」


 確実に首を取れたが、どうせ短距離転移で逃げられただろう。ならば慎重に慎重を重ね、相手を追い込む。そのうち冷静でいられなくなり、無防備に襲いかかってくるはずだ。


 ……死神がそんな性格とは思えないが。


 死神は力が抜けたのか、鎌を杖代わりにして立った。


「地上で動けないなら、空中戦だ」


 その体が浮かび上がる。


「ふふ。面白いですね。乗りましょう」


 私も浮遊を始めた。


 種は単純な風魔法だが、制御がかなり難しい。どれだけ才の抜けている魔術師がいたとしても習得には数十年かかる。


 神は数十年程度、鼻歌だけで過ごせるけれども。


「第二ラウンドの開始といきましょうか」


 私は髪を撫でつけ、ふんわりと笑ってみせた。

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