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第198話 敗北

 次第に揺れが収まる。


 俺は爆発ギリギリで回避し、ドームの端まで全力で逃げた。爆風に後押しされた感じもあったけど。


「あっぶねえ。こりゃあガチだな……」


 あと1コンマでも遅れてたら、体が蒸発してた。


 俺の今の姿はフローズンバードだから氷魔法は大丈夫。けれども、火魔法はダメ。蒸発する。


 簡潔にまとめたらこんなものだろうか。


 氷でできたドームのど真ん中にトゲトゲしい形状の氷が。氷尽くしだ。


 よくある例だと「わーい! かき氷食い放題だ!」とかいうが、そんな状況じゃないって!


 氷の壁を生成し、次の攻撃に備える。視界も確保したいので、そこまで大きくは作らなかった。


 ミィトはゆっくりとこちらへ振り向き、火が灯った手から魔法陣を組みたて、火刃を連射してきた。


 元の人間フォルムに戻り、同じく火刃で相殺。氷魔法は壁に身を隠すことで防いだ。


 ……それにしても不思議だ。


 ミィトは氷専門だと思っていたが、火魔法も使えたなんて。


 そう思っていた俺だが、その考えが浅はかなことを思い知らされる。


「雷神風雨」


 あれ?


 それって雷と水の上位魔法じゃないですか?


 目を丸くしていると、空にたちまち黒雲が広がった。どうやらこのドームの範囲内だけらしい。そして、雨が降ってくる。


 ……雷は、こないな。まあ、当然か。この攻撃範囲にミィト自身も含まれているし。自らの首を絞めることはしないはずだ。


「耐電結界・改」


 あんれ?


 それって雷結界の超上位魔法じゃないですか?


 確か雷属性の魔法攻撃を完全に遮断するというチート級なあれですか?


 これ一つの習得に数年かかるというあれですか?


 こっわ。そんなスキル持ってたのか……。何気に見るの初めて。


 ん?


 でも、前ステータスを見た時にはこんなものなかったような……。


 ちなみに結界には種類が二種類あり火魔法を例にとると、火炎結界と耐火結界がある。


 火炎結界は結界に火を纏わせ、火魔法以外の攻撃を防ぐ。火魔法は結界に阻まれない。


 耐火結界は名前の通り、火魔法だけに反応を示して防御することができる。それ以外は結界をすり抜ける。


 と、復習をしている間にミィトに動きが。


「放電」


 来るっ!


 身構えたが、それらしい放電はない。


 どういうことか?


 疑問に思った刹那、右肩に激痛が走る!


 反射的に身をよじり、後ろへ飛び退いた。しかし、追いかけるようにして今度は左肩に激痛が。


「ぐ……ッ!」


 い、痛い!


 溶けてるみたいだ! 肩の感覚が……ない?


 これは電気の攻撃か! でも、彼女が放電をしたようには感じられなかった。もし放電をしていたとしても、こんな部分的にダメージを食らうことはないだろう。


 放電は無差別全体攻撃だ。必ずとは言えないが、避けられる確率は少ない。その代わりに威力は弱い。


 自分の魔法攻撃ステータスの三分の一ほどの威力だ。ま、この世界には魔法防御というステータスの概念がないので、今のミィトの攻撃で俺は激痛を味わうということなのだ。


 魔法防御がないっていうのは、実質ステータスが0と同じなのだから。


 ここまでの考えを0.01秒で出した俺は本能的に結界を貼った。


 前まではできなかったが、これくらいは練習して出来るようになったのだ!


 火炎結界。水に対して絶大な効果を発する。


 なんで雷ではなく、水なのか。


 俺には痛みの謎が解けてしまった。


 ミィトは放電を繊細な技術で、かつ威力を殺さないように少しずつ空の黒雲へと送っていたのだ。


 その電気は雨を通して地に降り注ぎ、このように雨に触れてしまったら痺れと激痛が伴うってこった。


 早速スキルの使い方を無視しやがった。これだから天才は面倒臭い。


 うん。この使い方いいかも。技を盗ませてもらお。


 電気を纏いスパークする雨は、火結界に近づくと次第に小さくなり蒸発する。電気も共に消えた。


 対策完了だ。


 よかった。結界魔法覚えてて。


 一件落着だ。ミィトはよほど悔しいのか、奥歯を噛み締めている。


「何故?」


 不意に、ミィトの口から言葉が放たれた。


「何故? なぜ? ナゼ?」


 目が俺を捉えていない。焦点を見失ったかのように瞳は揺れ続ける。


「俺は、僕は、私は、何故? なんなんだ? 存在は何故? 嫌だ。殺さなきゃ。君を殺さなきゃ。ああ。殺そう。僕も賛成だよ」


 彼女は一人で頷き、狂気の火が灯った目でこちらを見据えた。


「どうする? あの人、全然当たらないよ。当たってもすぐに対策を練っちゃう。

 馬鹿か。雷と雨を応用した技が聞かなかったんだろ?

 僕はもう少し攻撃のレパートリーを増やしたほうがいいと思うよ……。信用しなくてもいいけど」


 複数の人格が話し合い、着々と準備が整っていく。


 大きな技が繰り出されるかもしれないので構えておく。両腕は動かないが、足は無事だ。逃げることぐらいはできる。


 ミィトが利用手を掲げると、そこに七色の光が集結した。


「融合魔術ッ!」


 速い!


 虹の架け橋が斜め上から襲ってくる!


(レインボー)ッッ!!」


 全ての細胞が悲鳴を上げた。


 逃げられる?


 ギリギリか! 最善を尽くしてもどちらかの腕は持ってかれる!


 自身を守れるもの……、結界!


 決して焦らず、ゆっくりと、管に魔力を通してゆく。


 (レインボー)が目前まで迫ったその時、魔力の管が一つの魔方陣となり繋がった。


 全魔力を注ぎ込んだ。これで防ぎきれなければ、後がない!


 全身全霊っ!


「火炎結界・改ッ!!」


 俺だってやってやらあ!


 展開された結界に(レインボー)がぶつかる!


 思ったより重い! 防ぎきれるか!?


「ぐ……ッ、があ……!!」


 踏ん張っていた足が後ろへ徐々に下がっていく。


 上からくる圧力はそれほどのもので、押し潰されてしまいそうだった。


「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!!」



 押し返せ! 押し返せ! 押し返せえぇぇぇぇぇ!!!!



 途端に、腕が軽くなった。長時間連続使用は無理なのか?


 チャンスだ。これを逃せば、俺は死ぬ。


 一歩踏み出す。


 踏み出した足は、地につかなかった。


 足に違和感。そして、ぐねりと痛みが走った。それだけで俺は大きくバランスを崩した。


「…………え?」


 何が、あった?


 (レインボー)が支えどころの無くなった結界を壊し、幻想的に輝きながら俺を襲いにかかる。


 かろうじて動く首を回し、踏み込んだつもりの足元を確認した。続いて、ミィトの表情。


 彼女はにやりと不敵に笑っていた。


 右足で地面を蹴るそぶりを見せる。


 それで、全ての謎が解けた。


 攻撃の手を緩めたのは、疲労のせいじゃなかった……。


 このままじゃ、地面に横たわる前に魔法が身体を包み込むな。


 動く力はない。倦怠感に支配され、今にも吐きそうだ。ならば、最後くらい潔く逝ってやろう。


 俺は目を固く閉じる。


 地には……僅か数センチほどのいびつな形の石が転がっていた。


 要するに、こけたのだ。

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