第197話 道具
時は遡る。それは、ミィトが俺の部屋にから去った後の話。
「これはまた面倒臭い依頼を受けましたね。サトル」
ミィトの気配が完全に消え、シーファは肩をすくめる。
「あのな。今は余裕ぶれるけど、やるとしたらシーファに負担がかかるんだぞ? ま、シーファの返事を聞かずに話を進めた俺も俺だけど」
「仕方がないのでしょう? 断る雰囲気ではなかったのですし。というか、依頼を受けた方が私たちにデメリットはありませんから」
「全く、上手い話術なもんだ」
「最後の方はほとんど脅しでしたけど」
二人で笑いあう。
「何か思いついたりしないのですか?」
表情を切り替え、シーファが問うてくる。
「少しはな。まず一つが、発信機。対象に付けることでその位置情報を知ることができるものだ」
「それはすごいですね。どういう魔法ですか?」
「魔法じゃないんだ。なんつーか……科学の力……つっても分からないよな」
「科学は分かりますけど……、サトルの世界はこんなものが作れるのですね!」
シーファは興味深く目を輝かせた。
「俺の世界は魔法がなかった。だから、その代わりに科学が進歩したんだ」
「魔法がない……信じられません」
「そりゃそうだろうよ。俺だって、こっちに来るまでは魔法なんて信じちゃいなかったし」
「不思議な世界です」
「はは。いつか、シーファを連れて観光に行きたいな」
冗談交じりに言ったものだが、シーファは本気で信じ込んでしまったらしい。鼻息を荒くし、俺の手を両手で包み込む。
「楽しみにしてます! この世界も科学が進歩すれば、そんな夢のようなことができるかもしれませんね!」
「お、おう。頑張れよ」
何に対して言ったのか、自分でもよくわからなかったがスルー。
「話は戻るけど、そんな発信機にも欠点がある」
「そ、そうなのですか? 私にはてっきり……」
シーファは言葉の途中で何かに気がついたのか、「あ」と声を漏らした。
「魔王に付けること自体が難しいのですね」
「ああ」
俺は頷く。
「あの速さの魔王に発信機を付けるとか、冗談じゃない。近づいたら消滅スキルで消されるし、例え付けられたとしても魔王ならすぐに気がついて外すよな……。魔王の幹部だとしても、それ相応に強いと思うし」
アニメでよくあるように背中に投げつけても、魔王なら魔法で消し炭にする。幹部なら可能性はあるけど、魔王の幹部ってあんまり見たことない。
どうやっても付けられるビジョンが浮かばない。
「そんなところか。二つ目は、空を移動できる道具。道具っていうより機械だな。ヘリコプターとか、気球とか、欲を言えば飛行機。でもシーファに負担が多すぎるからあまり勧めたくない」
「言っていることがちんぷんかんぷんですが、凄いものなんですね」
飛行機とか羽何本使うのかわからんし。
「日本の科学の力は偉大だぞ?」
苦笑しながら言うと、シーファは真剣に首を縦に振った。
「私たちの世界とは違いますね。正反対です。魔法もない国で、どうやって生活しているのか。その世界の力をこちらが取り入れるとしたらーー考えただけでも恐ろしいです」
確かにな。魔法と科学は同時に存在してはいけないのかもしれない。
想像してみよう。
ステータスがあるこの世界は、魔物を倒すことで様々な面の強さを鍛えられる。魔物は強いほど倒すのに苦労する。そして、倒した暁には膨大な量の経験値が手に入るのだ。
そりゃそうだよな。スライムを殺しただけで50000経験値が入ったら世界中強いものだらけになってしまう。こうやってバランスが保たれているのだ。
強者は強者。弱者は弱者。
だけど、そこに科学の力が入ったらどうなるか。
銃が開発される。ミサイルが開発される。移動手段ができる。大陸を軽々と横断できる。
地球は頻繁に核ミサイルが行ったり来たりする星ではなかったため、土地の崩壊から免れた。
けれども、ここは地球よりももっと殺伐としている世界だ。殺し合いというものが普通にあり、魔法を使えば「コンビニ行こう」程度のノリで人を殺害できる。
そんな人類が科学の力を手にし、魔王城に向かって核ミサイルをぶっぱしたら無論粉々になる。それだけではすまされず、地形が破壊されて、衝撃で地震が起き、人間国にまで被害が及ぶのでは?
そこに馬鹿な輩が現れて、核ミサイルを量産し始めたら?
量産された核ミサイルを自国に向けて打ち始めたら?
うん。セージ壊滅。
ミサイルじゃなくても戦闘機で魔王城に突撃して爆弾落とせばそれで解決。魔王なら生きてそうだけど、無人の飛行機でも突っ込ませたら流石に無理だろ。まだ生きてても戦車やらなんやらでゴリ押せるし。
科学オソロシス。
魔法が加われば空飛ぶ戦車だって作れそう。飛行機に結界貼れば何度突っ込ませても大破しない。爆弾が爆発する瞬間に火球でも投げ込んだら威力倍増。
ボロボロになった魔王に核ミサイルドカーン!!
付近にいた味方は魔法でなんとか逃げる!
結界被害者は魔王ただ一人!
なんだそのカオス世界!
逆の可能性もあるけどね。
「うんうん。取り敢えず核は偉大だということが分かった。味方にしちゃあ頼りになる道具だし。敵になったら死を覚悟するし」
俺でも核には敵う気がしないわー。
「それを作ればいいんじゃないんですか?」
あ。
「シーファ」
「……?」
「お前天才か?」
「天才です!」
「でも、魔王城が見つからないと……。結局はこの問題に戻るんだよなぁ」
モゾッとシーファの腕の中で何かが動いた。……シロだ。お昼寝中だったみたいだが起きたらしい。
ーー寝ながら聞いてたけど、シロ、いい案がある。
お、マジか。期待してないから聞かせてみ?
ーー衛生飛ばせば?
「シロ」
ーー……?
「お前天才か?」
ーー天才だよ!
俺の周りが天才だらけな件について。でも、衛生とか構造複雑そうだな。コストもかかりそうだし。
そのことを言うと、シーファは何故か得意げな顔で裕福な胸を反らした。
「実はですね、こんな時のために羽を貯めておいたのですよ!」
「え? 初耳なんだけど……」
「言っても意味がなかったからです。今まで羽変化の使い道なんて思いつかなかったので」
あの時はシーファも未熟で羽変化をしてもボロい物しか出なかった。だからかな。
「貯めておいた羽ってどこに?」
俺が尋ねるとシーファは貴重品入れの金庫を開け、中からアイテムボックスを取り出した。
「この中です」
「それ、ずっと俺が管理してたんだよ? いつ入れたんだ? 部屋も違うよな?」
ーーシーファが夜むぐっ!
シロの口を押さえ、微笑むシーファ。背面には赤い炎が揺らめいている。
「って、シロは念話だろ。口塞いでも意味なくね?」
「空気を読んでくれてるんですよ。ねー、シロ?」
ーーう、うん。シーファ大好き。
やらせだろ。
こんなことがあり、俺たちはミィトに頼まれた道具……じゃないな、もはや。
とにかく依頼を達成したのだった!
その後に起こる悲劇など夢にも思わず……。




