第196話 ミィト
「サトルは外を探してくれてます。私たちから一人ほど支援を出し、残りは国の中を探索しましょう」
私たちは街の中を歩きながら話をしていた。
サトルなら数時間で大陸を一周できるはずだ。それならもう一人付き添うだけで十分だろう。
「最悪付き添わなくてもいいです。見つからない可能性の方が高いので。別行動の方が効率がいいと思いますし」
「ああ。それが最善だ」
サンカーは私の意見に賛同した。
「で、誰が行きますか?」
「儂は更に国の中を調べるとする」
と、サンカー。
ーーシロはシーファと一緒!
「と、なると……」
全員の視線がプリンに向いた。
「私は別にいいけど」
当の本人は素っ気なく答える。
「龍の私ならあのミィトっていう人間、簡単に見つけられるわ。ホント、探すメリットなんてないけど」
愚痴りながらも、プリンは変身し始めた。白い煙が立ち上り、それが晴れた頃には白銀に輝く龍へと姿を変えていた。
「うわあぁぁっ! 龍だっ! 街に龍がいるぞ! 助けてくれぇぇぇ!」
砂煙を上げながら逃げていく人々。数秒後には、私たちの周辺には誰も近づかなくなっていた。
「それでは頼むぞ。プリンや」
いつもは愉快そうに笑うサンカーも、この非常事態に難しい顔をしていた。
「任せてちょうだい」
プリンが一つ羽ばたくと突風が吹き、彼女は消えていた。
「一つ気になったのですが……」
私は話の主導権を握る。
「一般市民にはこのことを伝えましたか?」
「いいや。伝えたところで混乱を招くだけだ。ずっと隠せられる事実ではないが、今は現状をどうにかする。先のことは後で考える」
「しかし、冒険者総出で捜索した方が効率がいいのでは?」
「儂ーーギルドマスターはこの大陸の情報が手に取るように分かる。それ以上に便利なものはない」
「それでも見つからなかった、と」
「……ああ」
ギルドマスターという地位を馬鹿にする言い回しだったが、サンカーは自嘲してみせた。
「人っ子一人も見つけられないとは、ギルドマスター失格だな……」
私は後悔した。
「いや、それ以前に儂は情報しか頼っていない。自身の力では何にもできない老いぼれがギルドマスターを名乗ること自体がちゃんちゃらおかしいのだよ」
『自虐を付与されました』
……誰の声?
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「死ねぇ、死ねェッ!」
斬撃が飛んでくる。俺はそれらを紙一重でかわしていく。
ダメだな。反撃の余地がない。
つーか身体能力上がりすぎだろ。全ステータス1500越えの俺が防戦一方とか反則すぎる。
色々考えたんだけど、魔王ではない。
魔王ができることは洗脳だけだし、ステータスを上げる効果なんてない。
……これも鑑定さんに教えてもらったことだけど、それを考えるとどんどん分からなくなってくるので本当のことを言っていると仮定しての話だ。
だから、可能性としては、死神。そしてーー邪神。
どっちも神じゃねえか!
読み方が違うだけで、どっちも神だ!
何故だ。
俺が相手にしている敵キャラがおかしい。
おっと。
思考を巡らせているうちに、ミィトが剣を無防備にぶら下げ手をこちらへ向けてきた。
警戒した方がいいな。
ミィトの氷魔法は強力だ。一撃でも入ったらただじゃ済まされない。凍って、動きを封じられて、そこをフルボッコにされる。
洒落にならん。
ま、凍ったら火球で溶かすけど。
ミィトの右手が淡く光り、氷の槍が生成された。
そして、同じものが空中に浮かぶ。
ミィトが槍を大きく振りかぶると、宙に浮いた凶器はまるで矢のごとく俺に迫ってきた。
全て火球で焼き尽くす。俺の魔法攻撃は10000越え。ただの火球でも大地を破壊するほどの力はある。
炎は大きく、氷を包み込んだ。
氷は水となり、やがてそれも重力に引かれる前に蒸発した。
火球は全てを溶かしきってもなお進み続けるが、俺はわざとそれらを爆発させた。
突風は地面を抉っていき、黒煙がキノコ型に広がる。
その間に次の魔法を準備する。
傷つけるわけにはいかない。
煙を切り裂き、一つの氷の礫が飛んできた。避ける時間もなく、礫を手掴みにする。思ったよりも鋭く、氷の礫は赤く染まった。
俺は回復魔術を覚えていない。一回シーファに教わったこともあるが、適正じゃなかったために全く覚えられなかった。
戦ううちに傷が一つ、二つと増えていく。このままではじり貧だ。どうすればミィトを……。
「ミィト、元に戻ってくれ! 俺だ! 悟だ!」
最初に試みたのは説得。しかし、ミィトは唸るだけでこちらの問いかけに反応することはなかった。
次は少しでも攻撃したら元に戻るかなー? という考え。勿論頭に浮かんだ瞬間に溝の中に捨てた。
傷はつけない。絶対に。
俺の目標は、ミィトを傷つけず、死なせず、ロット国へ一緒に戻ること。
氷の礫が十つ同時に飛来し、そのうちの一つが脇腹を抉る。
「ぐっ……!」
仕方ない。ぶっつけ本番だけど、やるか。
変化。フローズンバード。
体がミストバードの形に変化していき、最終的には体から霜が鱗粉のように舞う美しい姿になった。ふむふむ。これがフローズンバードか。
幻影と氷の魔法を操るとか。
ミィトは少し驚いた表情をしたもののすぐに切り替え、礫を飛ばした。
避ける暇もない。しかし、弾丸の如く打ち出されたそれは霧の体を突き抜けた。
避けるまでもない。実体がないフローズンバードは物理攻撃が効かないのだ。
なんの技が使えるかはわからないけど、これなら多少持ちこたえる。持久戦に徹底して、ミィトが我を取り戻すまで待つとするか。
……現実はそう甘くなかった。俺はそれを知らしめされることになる。
ミィトの周りの空気が変わった。空気が……揺らいでいる?
その正体を暴く時間さえ与えてくれず、一瞬にして視界が奪われた。
息を止めろ!
異世界に来てからの勘がそう告げる。自然と術式を組み、氷の壁を創り出す。
氷の壁はメキメキと音を立ててせり上がるが、圧倒的に時間が足りない。下半身が漸く塞がったところで、とてつもない熱さが身体を襲った。
「ぐあぁぁッ! ッ、くっそおぉぉ!」
全力で魔力を注ぎ込む。
視界が開け、見えた世界はーー。
俺たちを包み込むように氷がドーム型に展開し、ドームの端のところどろこが燃えていたーー。
「ガハッ」
息を思い切り吐く。荒い呼吸を繰り返しながら、体感で魔力の残量を確認する。
……あと二割。今ので結構使ってしまった。
俺は弾かれたように辺りを見回す。
……いた。
ミィトは無事だった。無傷だった。
流石にあれだけの出力で無傷というのもへこむな……。
ミィトは二色に光っている。
片方の手は天に掲げられ、炎が揺らめいていた。もう片方はこちらに向けられーー。
「氷結大爆発」
冷気が地面を凍らせながら這い進み、本日二度目の大爆発が起きた。




