第2話 《変化》だぜ!
目を覚ますと、即座に辺りを見回した。あの神やろーが言っていたようにリスキルされたらたまったもんじゃない。俺はあたりに気配がないことを感じると、安堵のため息をついた。
ここは森の中だ。青々と茂った葉が風で揺れる。空気がいい。自然の香りだ。地球とは全然違う香りだなぁ……癒され……
「グギャアアアッ!」
癒さ……
「キィ! キィ! キィ! ギィィィ!」
癒……
「GYAAAAAAA!!!!!!!」
癒されるかボケェ!
くっ、とにかくここはやばい。見た目は普通の森だが、日本のジャングルより全然危険だこりゃ。ここから出なきゃ何も始まらないんだが……あいつ、《変化》スキルとか言ってたな。
ここが異世界なら王道のステータス観覧ができるのではないかと思い、念じてみると……
サトル・カムラ
種族 人間種
状態異常 なし
レベル1
HP...40/40
MP...60/60
攻撃...12
防御...10
素早さ...10
魔法...26
《スキル》
・成長・鑑定
《ユニークスキル》
・変化
《称号》
・神に気に入られた者
おお。なかなかの出来ですな。魔法系が高いね。
王道の鑑定もある。カンシャカンシャ。
で、《変化》スキルの他にもなんかあるんだけど、ここは鑑定で見ていきますか。
成長
レベルの上がり具合が早くなる。
鑑定
ステータスの他、魔物や植物などの情報を得ることができる。
変化
魔力を使い、倒した生物に変化することができる。その際、スキルなどもコピーする。元の姿に戻ったらスキルも消える。また、攻撃、防御、素早さ、魔法やHPとMPはコピーできない。
《変化》結構いいかも。元の姿に戻ったらスキルも消えるっていうことは少し残念だけど、使い道ありそうだ。
これ、ドラゴンとか倒して街を破壊するのもできるんじゃね? いや、ダメか。2度目の人生をそんな闇落ちエンドで終わりたくない。そもそも、街ってあるんだろうか。
とにかく歩こう。《成長》もあるし、バンバンレベル上がるだろ。レベル上げはゲームの基本だからな。……ここはゲームじゃないけど。
そうして歩くこと数時間。魔物と街は一向に姿を見せない。
……進む方向間違えた? いや、落ち着け俺。数時間迷わずに進んできたんだ、さすがにもう少しで森は抜けるはず。そう、抜けられるんだ! 進もう。俺は迷わねえ!
その時、草むらが縦に割れ中から何かが飛び出してきた。思わず身をよじり、ソレは脇腹を浅く抉って俺の背後へと着地する。
「いってぇ……」
服が僅かながら煙を上げて溶けていく。酸だ。焦りながらソレを正面から見据える。俺を襲ったナニカは、体勢を整えて俺に殺気を浴びせた。
スライムか!
水色にヌラヌラと光る体。つるんとした、球体型のどこか憎めない愛くるしい姿。そこには目も鼻も口もない。っていうか、スライムってこんな強かったっけ? まぁとりあえず鑑定だな。
スライム
種族...スライム種
状態異常...なし
レベル3
HP...7/7
MP...0/0
攻撃...10
防御...2
素早さ...6
魔法...0
《称号》
・不意打ちの中級者・変化自在
解説
水色の軟体生物。非常に知能が低く、見つけた者全てに攻撃を与える。攻撃を与える際には体の形を変え、尖らせてから攻撃する。酸も含んでいるため、危険。物資の運搬の邪魔をするため、冒険者たちから見つかると確実に殺される生き物である。
スキルがないな。ユニークスキルもないのか。それに、形を変えた時は1番厄介だ。俺は武器を持っていないし、防ぎようがない。ああ、盾が欲しいな。
変化も試したいが……ええっと……。
「シャー!」
「うわっ」
足下を見ると、口がついたグロテクスな真っ赤な花が! こっわ。てか、これ魔物? 考えてる暇はない! やるか!
服を揺らし、付着していた酸を一滴垂らす。ジュウ、と音を立て、花はくたりと生気を失った。
『ルーゲラフラワーに変化することが可能になりました』
頭の中に響く女性の機械音。
ついにスライムが飛びかかってくる。しかし、正面からくると、意外に簡単に避けられることがわかった。避けて、花に変化! 目標を失ったスライムはその場をうろちょろしている。
もう大丈夫そうだな。そのまま去っていけばそれでいい。
俺はそこで、ルーゲラフラワーについて鑑定をしていないことに気がついた。
ルーゲラフラワー
種族...毒花
レベル1
解説
非常に弱い毒を持つが、モンスターには有効。新人冒険者はよくこの毒を持ち歩いている。根っこには解毒効果もある。スキル変化によってレベルが表示されるようになった。
ん? 変化でレベルが表示? まあ、いいや。毒が使えればスライムも倒せるかもしれない。
まだウロウロしているスライムの背中に向けて、俺は息を極限まで吸い込んだ。喉にチリチリしたものがたまる。
思い切り息を吐くと、毒の煙がスライムに襲いかかった。そこでスライムはようやくことの重大さがわかったのか、ジタバタと暴れながら煙の中から出ようとするが、その動きは遅くなっていきしまいには動かなくなった。
『スライムを倒しました。経験値を3獲得。レベルが2になりました。スライムに変化することが可能になりました』